後宮に繋がれしは魔石を孕む御子

朏猫(ミカヅキネコ)

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後宮に繋がれしは魔石を孕む御子

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 誰かが頬を撫でている。温かいその手はまるで兄上様の手のようだ。

(僕はこの手にずっと守られてきた)

 三歳になる前に母上様が亡くなり、それから塔ができるまでの間、僕は兄上様の部屋で暮らしていた。あのとき、ぐずって寝られなかった僕を毎日のように寝かしつけてくれたのは兄上様だ。僕が寝るまで頬や頭を撫でてくれただけでなく、ときには不思議な魔術士たちの物語を聞かせてくれたりもした。
 大好きな兄上様の手。同じくらいキラキラでサラサラした銀色の髪も大好きだった。温かい手とさらりと頬を撫でる髪の感触はいまでもはっきりと覚えている。

(そう、あのときもこんな感じだった)

 こうして僕の頬を撫でる髪の感触が好きだった。髪の毛が顔に触れると兄上様と一緒に寝ていたときの幸せな時間を思い出して胸がふわりと温かくなる。まるで昔に戻ったような、とても温かくて優しい夢。

「カナ、気がついた?」

 兄上様の声が聞こえた。塔に移ってからは兄上様に起こしてもらうことはなくなったのに、どうして声が聞こえるんだろう。不思議に思いながら目を開けた。ぼんやりした視界に銀色のものが映る。

「……兄上様」
「どこか痛いところは?」
「……ルリ兄上様」

 名前を呼ぶと、綺麗な瑠璃色の眼が優しく笑った。

「どうして……?」

 僕の問いかけに微笑み返してくれた兄上様が、するりと額を撫でる。

「カナが倒れたと聞いて慌てて来たんだ。幸い、腕と足を少しぶつけただけだった」

「それも治しておいたから、もう痛くはないはずだよ」と言って、兄上様の手が左腕と左足の膝あたりを撫でてくれた。

「どうして兄上様がここに……?」

 ここは軍帝の後宮だから軍帝以外は入れない。それに兄上様も人質同然の扱いを受けているはずで、勝手に後宮に来ることなんてできないはずだ。それなのになぜ後宮に入ることができたのだろう。

「カナが具合を悪くしたら必ず呼んでほしいと、ボクト様を通じて軍帝に頼んでおいたんだ。わたしは治癒術を使えるし、魔血の体は普通の医者では診ることも治すこともできないからね」
「ボクト様を通じて、って」
「ボクト様は軍帝の右腕だから、わたしの願いも大抵は聞き入れてもらえるんだよ」
「兄上様の願い……?」
「そう。わたしはボクト様の伴侶だからね」
「……え……?」

 驚く僕に、兄上様がにこりと微笑んだ。

「兄上様、伴侶というのは……」
「伴侶、夫婦、婚姻相手。わたしとボクト様はそういう関係になったんだ」

 兄上様の表情からは無理やりそうさせられたようには思えなかった。見たことがないくらい綺麗な笑顔は心の底から幸せを感じているように見える。

(……もしかして……)

 以前、兄上様から聞いた話を思い出した。
 一年ほど前、寝物語のついでのように「じつは心を寄せている人がいるんだ」と教えてくれたことがあった。相手はよその国の人だとも話していた。その話を聞いたとき、僕は兄上様の顔を見ることができなかった。兄上様の想いが相手に届くことはなく、結ばれることがないとわかっていたからだ。
 兄上様は魔石を生み出す役割からは解放されたけれど、あの国が“魔血”の血筋を手放すはずがない。それに“魔血”の者は同じ“魔血”の血筋としか婚姻できない決まりもあった。
 希少な“魔血”であり貴重な魔術士である兄上様が、ほかの国の人と結ばれることは決してない。国の中でも自由な婚姻など許されるはずがなかった。だから、どんなに想いを寄せても結ばれることは叶わない。

(兄上様の想いはつらくなるだけだ)

 そう考えた僕は、しばらく胸がふさがるような気分だったのを覚えている。

(あのとき話していた相手がボクト様だったんだ)

 国は滅び、僕と兄上様は離れ離れになってしまった。それは悲しいことだけれど、兄上様が想いを寄せていた相手と結ばれたのだとわかり、うれしさで胸がいっぱいになる。

「わたしはね、カナが思っているよりもずっと逞しいんだ。想う人と結ばれるため、大切な弟を救い出すためなら何だってするくらいにはね」

 そう言って微笑む兄上様は見たことがないくらい美しい。

(兄上様だけでも幸せになれてよかった)

 僕のためにずっとつらい思いをしてきた兄上様。兄上様が幸せなら、それだけで僕も幸せになれる。

「兄上様は、いま幸せなんですね」
「とっても」

 僕と同じ瑠璃色の瞳がキラキラとまぶしい。

「次はカナが幸せになる番だよ」
「僕が……?」
「そう。カナのこれからの人生はカナ自身の幸せのために使いなさい」

 温かくなっていた心がきゅうっと縮こまった。

「……でも、ここでは幸せにはなれないと思います」

 魔石を生み出さなくてもよくなったのはうれしい。でも、代わりに軍帝に抱かれるようになってしまった。それは僕が望む幸せじゃない。

「カナは軍帝が嫌い?」
「……よく、わかりません」
「それじゃ、軍帝をどう思っている?」

 考えたこともなかった。三日前に僕を組み伏せた軍帝を思い出す。体が大きくて力が強いあの人は、帝国軍の頂点に立つべき人に違いない。表情も雰囲気も間違いなくそうだと言っている。
 不意に僕を見つめる赤い眼を思い出した。思い出した途端に体の奥がズクンと疼いた。あの眼で見られるだけで僕の体は火照ってしまう。もっと見つめてほしい、その手で触れてほしい、名前を呼んでほしいと思ってしまう。
 こんなことを思うなんて、やっぱり僕は卑しい人間になってしまった。そんな自分が怖い。怖いはずなのに、いつの間にか軍帝がこの部屋にやって来るのを待っている自分がいる。

(……あの人の「大丈夫」は、とても優しいと思う)

 兄上様の「大丈夫」によく似ている。

「軍帝に触られるのはいや?」
「……いやというより、怖いです」
「どうして?」
「魔石は必要ないと言うのに……僕を、抱くから」
「抱かれることが怖い?」
「……だって、あんなことをされたら僕は……」

 軍帝の肌の熱を思い出し、うなじがぞわりと震えた。軍帝との行為を思い出すだけで肌が熱くなる。兄上様の前だというのに、みっともなく軍帝の手を求めてしまいそうになった。

「……気持ちいいと思うことが、怖いです」

 何をされても気持ちよく感じてしまう自分が怖い。魔石を生み出さなくても僕は卑しい“魔血”なのだと突きつけられるのが怖かった。……そんな自分を軍帝がどう思うか想像するだけで別の恐怖を感じた。

「行為を気持ちよく感じるのは、なにも“魔血”だけじゃない。力を持たない人も気持ちいいと感じる。行為に溺れる人も大勢いる。“魔血”だけがおかしいわけじゃない」
「……でも」
「たしかに“魔血”の血筋は、より感じやすくなるようにといろいろな魔術を施されてきた。でも、そうでなかったとしても気持ちよければ感じる。それは自然なことだよ」
「でも……僕は、前よりもずっと卑しくなりました」
「カナ、気持ちいいと思うのは悪いことじゃないよ。もう誰もカナから魔石を採取したりしないのだから、恐れなくていい。気持ちいいことを素直に感じてもよくなったんだ」
「でも……」
「これまでカナは魔石を生み出すために気持ちよくなるのだと教え込まれてきた。“魔血”はそうした生き方しかできないのだと植えつけられてきた。それが高純度の魔石を生み出させる方法だったからだ。でも、そんな必要はなくなった」
「兄上様」
「カナはもう自由だ。だから、もう無理に自分を抑えつける必要はない。何を感じてもいいし、自由に感じていいんだよ」
「自由に、感じる」

 卑しい自分があの行為を気持ちいいと思ってもいいのだろうか。魔石を生み出すことしか価値のない僕が、魔石の採取をするわけでもない行為を受け入れてもいいのだろうか。

「カナはあの国に道具として使われていた。そんなカナを、わたしはずっと自由にしてあげたかった」
「兄上様……?」

 兄上様の優しい手がするりと頬を撫でた。

「わたしはカナを自由にしてくれる人をずっと探していた。生涯守ってくれる絶対的な力を持ち、生涯カナだけを必要としてくれる人を。そして、カナが必要とする人を」
「それが、軍帝……?」
「そうだよ。あの人は心からカナをほしがった。そのためなら皇帝の首をはねることも厭わなかった。わたしの願いどおり帝国を手に入れ、そしてカナを迎えに来た」

 兄上様の瑠璃色の瞳がきらりと光った。

「それにね、軍帝ならカナの体に溜まり続ける魔力を取り除くことができる」
「え?」
「それも魔石を生み出すことなくね」
「まさか、そんなことできる人がいるはずありません」
「いるんだよ。そういう人をわたしはずっと探していたんだ。そして、ようやく見つけた」
「でも、」
「カナは二度と魔石を生み出さなくてよくなった。それに言ったはずだよ? 『魔石を生み出す必要のない世界を、必ず作ってみせる』って」
「本当に……?」

 僕の問いかけに兄上様がこくりと頷いた。

「わたしの研究もようやく最終段階に入った。予想したとおりの結果が出れば、もう魔術士が魔石を生み出す必要はなくなる」
「本当ですか?」
「本当だとも。もう“魔血”が道具として扱われることはない。そのためにわたしは人工的に魔石を生み出す方法をずっと研究してきたんだ」

 兄上様の言葉に僕は目を見開いた。これまでどんな魔具を使っても“魔血”が生み出すような魔石を作ることはできなかった。そのことは僕でも知っている。ところが兄上様は自然界に漂う様々な種類の微量な魔力を集め、それを魔石という形に変換する魔具を創り出したのだという。
 その魔具の研究開発に協力していたのが帝国軍なのだそうだ。何年も前から兄上様と軍帝は協力していて、軍帝との繋ぎ役を担っていたのがボクト様だったのだと教えてくれた。その縁でボクト様に想いを寄せるようになったと口にした兄上様は、これまで見たどの兄上様よりも綺麗だった。

「軍帝だけがカナの魔力をうまく処理できる。もうわたしの導きも必要ない」
「もう、魔石を生み出さなくてもいい……」
「カナは卑しい行為で魔石を生み出す道具じゃない」

 兄上様の指が目元を優しく撫でてくれた。そのとき僕は初めて自分が泣いていることに気がついた。

「それにね、軍帝は心からカナのことを愛している。だから肌を重ねる行為は卑しいことじゃない。愛してもらう尊い行いだ」
「あいして、もらう」

 愛というのが何かはわかる。けれど、僕には関係のないほど遠い存在だと思っていた。もし僕が“魔血”の女性と婚姻することになったとしても、そこに愛は存在しない。あの国の王族は誰もがそうして“魔血”の血筋を繋ぐ道具として生まれ、死んでいく。

「……軍帝は、本当に僕のことを?」
「愛するカナのために軍帝は帝国の皇帝になったんだよ」

 それが僕を愛している理由になるのか、よくわからない。それでも「愛」という言葉を聞くと胸の奥がそわそわした。軍帝の顔を思い出すと頬が熱くなり、自分でも驚くほど体が熱くなる。それを怖いと思う気持ちが少しだけ薄れた気がした。

(僕は、軍帝に愛されている)

 だからあの行為は卑しいものじゃない。“魔血”の“魔純の御子”としてではなく、軍帝は僕自身を求めている。

「ここにいればカナは幸せになれる。魔力に苦しむことも魔石に苦しめられることもない。死ぬまで軍帝がカナを守ってくれる」

 子どものときのように兄上様が頬を撫でてくれた。

「わたしはカナが幸せになることを一番に望んでいるよ」
「兄上様」

 僕はゆっくりと目を閉じ、「僕はいま、きっと幸せです」とつぶやいた。
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