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後宮に繋がれし王子と新たな妃
6 暴漢2
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逃げなければと思った。それは本能からくる警告だった。ところが立ち上がった僕の腕を誰かが掴んで引っ張った。
「はな……っ」
離してと言いかけた口は、大きな手に塞がれて声にならなかった。あっという間の出来事に、僕は手を避けることも逃げ出すこともできなかった。
逃げようとした足がガクガクと震えている。掴まれた腕を払うこともできない。知らない人に触れられた感触に、父上様が選んだ導き手の顔を思い出し喉の奥が引きつった。
(早く逃げなくては)
よろめきながらも必死に逃げようと足を動かした。けれどすぐにもう片方の腕を掴まれて引っ張られてしまう。声を出そうと頭を振ると、別の軍人の手で鼻も一緒に塞がれた。そのままもう一人に腰を掴まれて身動き一つ取れなくなってしまった。
男たちは混乱する僕を四阿に敷かれた植物製の敷物の上に押し倒した。僕を見下ろしている軍人の向こう側には綺麗な青空が広がっている。手前にいる軍人たちの歪んだ表情と青空の美しさがあまりに違うせいか、これは本当に現実なのだろうかと呆然となった。
「思った以上の上玉だぞ」
僕を抑えつけている軍人がそんなことを口にした。
「あの軍帝が囲っているぐらいだ、よっぽどの奴だろうと思っていたが……。こりゃあ、こっちが金を積んででもお近づきになりたくなるような上玉だな」
別の軍人が嫌な笑みを浮かべている。
(あの人と同じだ)
十二歳の誕生日を迎えたあの日、塔の部屋に入ってきて「楽しみだ」と告げた魔術士そっくりの表情だ。
「もうここでヤッちまってもいいんじゃねぇか? 誰も来ないようにしてあるんなら、どこでヤッても同じだろ」
「おいおい、そりゃあ王子様には刺激的すぎやしねぇか?」
「そうだなぁ、王子様は青姦なんてしたことねぇだろうからなぁ。いや、逆に興奮してすげぇ乱れるかもしれないな」
「いやいや、あの軍帝の後宮に入れられてるんだぜ? とっくに後宮のあちこちで経験済みだろうよ」
「ははっ、違いねぇ!」
「もとは俺たちと同じ平民出身の軍人様だからな。青姦も拷問性交も調教もお手のものだろうよ」
耳障りな笑い声まであの魔術士とそっくりだ。僕を抑えつけている男たちが、笑いながら乱暴な手つきで上着をめくり上げた。そうしてにたりと笑う表情に別の記憶が重なった。
(そうだ、衛兵のときもこうだった)
塔の入り口を見張っていた衛兵も乱暴な手つきで服を剥ごうとした。あのときは一人だったけれど、いまは三人もいる。三人ともあのときの衛兵のように、僕の導き手に選ばれた魔術士のようにギラギラとした目で僕を見ていた。
軍人の一人が上着の下に着ていたシャツを破くように引っ張った。首が引っ張られて痛かったけれど、痛みよりも直接肌を撫で回される気持ち悪さのほうが上回った。
(あのときもこんな顔をしていた)
ギラギラした目で僕を見ながらニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。衛兵も従僕も「おまえはそういう存在なんだ」と言いながら僕の胸やお腹を撫で回した。
ギラギラした目の軍人たちも同じことを思っているに違いない。身をよじろうとしてもすぐに押さえつけられ、三人が手や足をバラバラに掴んだ。足を押さえていた手が腰紐を解いたのがわかった。そうして下着ごと引き下ろすのもあのときと同じだった。
「こりゃあ、とんでもねぇ上玉だな」
「肌つやといいなめらかさといい、そこら辺の高級娼婦よりよっぽど上玉だぞ」
「おいおい、こっちの毛は髪より薄い金色だ。それに使ってねぇのが丸わかりの色つやしてやがる。こりゃあたまんねぇな」
気がつけば両手を頭上に押さえつけられていた。めくり上げられた上着が首に巻きついて苦しい。はだけた上半身を撫で回しているゴツゴツした手の感触に吐き気がした。裸にされた下半身にも男たちの手が伸びた。太ももを撫で回され、萎えたままの前を執拗にいじられる。
(気持ち悪い……どうしてそんなことをするの)
衛兵も従僕も「おまえはそういう存在なんだ」と言った。「おまえもこれが好きなんだろう?」とも言った。
(そんなこと一度も思ったことはないのに)
魔石を生み出すことも、こうした行為も怖くて仕方がなかった。恐怖と嫌悪感で体がブルブル震え出す。
(あぁ……僕はどこにいても“魔血”であるから逃げることができないんだ)
僕は死ぬまで“魔血”であり“魔純の御子”だ。魔石を生み出さなくてもそのことに変わりはない。わかっていたことなのに、そうじゃなくなったのだと思い込んでいた。目に映る青空が少しずつ滲んでいく。目尻を熱いものが流れ落ちるのを感じた。
男たちの荒い息が聞こえる。男たちのゴツゴツした手が体中をまさぐり、欲にまみれた眼差しが僕を見ている。そうだ、僕は“魔血”の最高傑作だと言われた存在だ。こうしたことをされるための存在だったじゃないか。
「おい、もういいだろ。早く突っ込ませろよ」
「待てって。ちゃんとほぐさねぇとてめぇも痛いぞ」
目の前で男が自分の指を舐めている。きっと僕の後ろに入れるための準備をしているのだろう。
(全部あのときと同じだ)
僕を襲った衛兵も同じことをしていた。あのときは魔石を採取した翌日だったからか、乱暴に指を入れられても怪我をしなくて済んだ。けれどまったく痛みを感じないわけじゃない。
(あのときは指を入れられて……その後はどうだっただろうか)
指を入れられたことまでは覚えている。けれど、その後どうなったか思い出せない。おそらく僕を守る魔具が発動してどうにかしてくれたのだろう。でも、ここには兄上様の魔具はない。
「さぁて、まずは一本だな」
男の指が後ろに入ってきた。乱暴な仕草にズキッとした痛みが走る。無意識に動いた足や腕は簡単に男たちの手に押さえつけられた。
(こんなことをされるのは僕が卑しいからだ)
グチグチとぬめった音が聞こえてきた。嫌で仕方がないのに、怖くてたまらないのに、僕の体は勝手に火照り始める。この指は軍帝のものじゃないのに、体が勝手に受け入れようとほころぶのがわかった。
(僕は“魔血”であることから逃れることはできない)
この先も僕はずっと卑しい“魔血”のままなのだろう。そんな僕でも愛してくれた軍帝のそばにもいられなくなった。
(……そうだ、僕はあの人のそばにいられないんだ……)
全身から力が抜けたような気がした。ストンと抜けた体はまるで人形のように重く、押さえつけられている感覚も体の中をいじられている感触もしない。目に映るのは歪んだ軍人たちとやけに美しい青空だけだ。その青空を、風で飛ばされたのか赤い花びらが横切った。
グルルルルル。
どこからか獣が鳴くような声が聞こえてきた。鳥の声は何度も聞いたけれど獣の声は初めてだ。
グルルルルル。
まるで唸り声のような低い声が聞こえる。いったいどこから聞こえるんだろう。耳の中というより頭の中全体に響くような獣の声にハッとした。
(……僕の中から聞こえている……?)
そう思った途端に体の深い場所で何かがむくりと頭をもたげた。澱んだ魔力が渦を巻くよりも重いものがゆっくりと穴蔵から這い出てくる。ずるり、ずるりと這い出てきたそれが、ゆっくりとどこかへ向かって動き出した。
グルルルルル。
這いずるように動き出した真っ黒なそれが地響きのような唸り声を上げた。獣のような声なのにそれは不確かな形のまま、まるで泥のようにずるりずるりと這っている。
不意にそれが頭を持ち上げるように膨れ上がった。目も鼻もない真っ黒なところにすぅっと亀裂が入る。亀裂はゆっくりと開き、真っ赤な口へと変貌した。それが僕の中を掻き混ぜている男の指に食らいつく。
「うぎゃあっ」
叫び声とともに後ろをいじっていた指の圧迫感が消えた。
「な、なんだよ、これ……!」
「ひ、ひぃっ! 化け物……!」
また叫び声が聞こえてきた。叫び声とともに何か柔らかなものが潰れるような音が聞こえた。熟した果物がブチュッと潰れるような音がした直後、僕の顔や胸に果汁のようなものが滴るのを感じた。
「ひぃ……!」
「や、やめろ……!」
僕を押さえつけていた重みが消えた。男たちの姿もどこかへ消えてしまった。おかげで綺麗な青空がよく見える。
(あれ……? 僕はどうして寝ているんだろう?)
それに顔や体にべっとりとした何かが付いている気がする。気持ち悪くて拭おうと手を動かしたとき、誰かが近づいて来る足音がした。
「なるほどなぁ。こりゃあ聞いてた以上だな」
あぁ、この声は……。
「だが、俺がもっとも大事にしているものに手ぇ出してそのくらいで済んだんだ。よかったじゃねぇか」
聞こえて来た声にゆっくりと顔を動かす。視線の先には、ずっと待ち続けていた軍帝の姿があった。
「はな……っ」
離してと言いかけた口は、大きな手に塞がれて声にならなかった。あっという間の出来事に、僕は手を避けることも逃げ出すこともできなかった。
逃げようとした足がガクガクと震えている。掴まれた腕を払うこともできない。知らない人に触れられた感触に、父上様が選んだ導き手の顔を思い出し喉の奥が引きつった。
(早く逃げなくては)
よろめきながらも必死に逃げようと足を動かした。けれどすぐにもう片方の腕を掴まれて引っ張られてしまう。声を出そうと頭を振ると、別の軍人の手で鼻も一緒に塞がれた。そのままもう一人に腰を掴まれて身動き一つ取れなくなってしまった。
男たちは混乱する僕を四阿に敷かれた植物製の敷物の上に押し倒した。僕を見下ろしている軍人の向こう側には綺麗な青空が広がっている。手前にいる軍人たちの歪んだ表情と青空の美しさがあまりに違うせいか、これは本当に現実なのだろうかと呆然となった。
「思った以上の上玉だぞ」
僕を抑えつけている軍人がそんなことを口にした。
「あの軍帝が囲っているぐらいだ、よっぽどの奴だろうと思っていたが……。こりゃあ、こっちが金を積んででもお近づきになりたくなるような上玉だな」
別の軍人が嫌な笑みを浮かべている。
(あの人と同じだ)
十二歳の誕生日を迎えたあの日、塔の部屋に入ってきて「楽しみだ」と告げた魔術士そっくりの表情だ。
「もうここでヤッちまってもいいんじゃねぇか? 誰も来ないようにしてあるんなら、どこでヤッても同じだろ」
「おいおい、そりゃあ王子様には刺激的すぎやしねぇか?」
「そうだなぁ、王子様は青姦なんてしたことねぇだろうからなぁ。いや、逆に興奮してすげぇ乱れるかもしれないな」
「いやいや、あの軍帝の後宮に入れられてるんだぜ? とっくに後宮のあちこちで経験済みだろうよ」
「ははっ、違いねぇ!」
「もとは俺たちと同じ平民出身の軍人様だからな。青姦も拷問性交も調教もお手のものだろうよ」
耳障りな笑い声まであの魔術士とそっくりだ。僕を抑えつけている男たちが、笑いながら乱暴な手つきで上着をめくり上げた。そうしてにたりと笑う表情に別の記憶が重なった。
(そうだ、衛兵のときもこうだった)
塔の入り口を見張っていた衛兵も乱暴な手つきで服を剥ごうとした。あのときは一人だったけれど、いまは三人もいる。三人ともあのときの衛兵のように、僕の導き手に選ばれた魔術士のようにギラギラとした目で僕を見ていた。
軍人の一人が上着の下に着ていたシャツを破くように引っ張った。首が引っ張られて痛かったけれど、痛みよりも直接肌を撫で回される気持ち悪さのほうが上回った。
(あのときもこんな顔をしていた)
ギラギラした目で僕を見ながらニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。衛兵も従僕も「おまえはそういう存在なんだ」と言いながら僕の胸やお腹を撫で回した。
ギラギラした目の軍人たちも同じことを思っているに違いない。身をよじろうとしてもすぐに押さえつけられ、三人が手や足をバラバラに掴んだ。足を押さえていた手が腰紐を解いたのがわかった。そうして下着ごと引き下ろすのもあのときと同じだった。
「こりゃあ、とんでもねぇ上玉だな」
「肌つやといいなめらかさといい、そこら辺の高級娼婦よりよっぽど上玉だぞ」
「おいおい、こっちの毛は髪より薄い金色だ。それに使ってねぇのが丸わかりの色つやしてやがる。こりゃあたまんねぇな」
気がつけば両手を頭上に押さえつけられていた。めくり上げられた上着が首に巻きついて苦しい。はだけた上半身を撫で回しているゴツゴツした手の感触に吐き気がした。裸にされた下半身にも男たちの手が伸びた。太ももを撫で回され、萎えたままの前を執拗にいじられる。
(気持ち悪い……どうしてそんなことをするの)
衛兵も従僕も「おまえはそういう存在なんだ」と言った。「おまえもこれが好きなんだろう?」とも言った。
(そんなこと一度も思ったことはないのに)
魔石を生み出すことも、こうした行為も怖くて仕方がなかった。恐怖と嫌悪感で体がブルブル震え出す。
(あぁ……僕はどこにいても“魔血”であるから逃げることができないんだ)
僕は死ぬまで“魔血”であり“魔純の御子”だ。魔石を生み出さなくてもそのことに変わりはない。わかっていたことなのに、そうじゃなくなったのだと思い込んでいた。目に映る青空が少しずつ滲んでいく。目尻を熱いものが流れ落ちるのを感じた。
男たちの荒い息が聞こえる。男たちのゴツゴツした手が体中をまさぐり、欲にまみれた眼差しが僕を見ている。そうだ、僕は“魔血”の最高傑作だと言われた存在だ。こうしたことをされるための存在だったじゃないか。
「おい、もういいだろ。早く突っ込ませろよ」
「待てって。ちゃんとほぐさねぇとてめぇも痛いぞ」
目の前で男が自分の指を舐めている。きっと僕の後ろに入れるための準備をしているのだろう。
(全部あのときと同じだ)
僕を襲った衛兵も同じことをしていた。あのときは魔石を採取した翌日だったからか、乱暴に指を入れられても怪我をしなくて済んだ。けれどまったく痛みを感じないわけじゃない。
(あのときは指を入れられて……その後はどうだっただろうか)
指を入れられたことまでは覚えている。けれど、その後どうなったか思い出せない。おそらく僕を守る魔具が発動してどうにかしてくれたのだろう。でも、ここには兄上様の魔具はない。
「さぁて、まずは一本だな」
男の指が後ろに入ってきた。乱暴な仕草にズキッとした痛みが走る。無意識に動いた足や腕は簡単に男たちの手に押さえつけられた。
(こんなことをされるのは僕が卑しいからだ)
グチグチとぬめった音が聞こえてきた。嫌で仕方がないのに、怖くてたまらないのに、僕の体は勝手に火照り始める。この指は軍帝のものじゃないのに、体が勝手に受け入れようとほころぶのがわかった。
(僕は“魔血”であることから逃れることはできない)
この先も僕はずっと卑しい“魔血”のままなのだろう。そんな僕でも愛してくれた軍帝のそばにもいられなくなった。
(……そうだ、僕はあの人のそばにいられないんだ……)
全身から力が抜けたような気がした。ストンと抜けた体はまるで人形のように重く、押さえつけられている感覚も体の中をいじられている感触もしない。目に映るのは歪んだ軍人たちとやけに美しい青空だけだ。その青空を、風で飛ばされたのか赤い花びらが横切った。
グルルルルル。
どこからか獣が鳴くような声が聞こえてきた。鳥の声は何度も聞いたけれど獣の声は初めてだ。
グルルルルル。
まるで唸り声のような低い声が聞こえる。いったいどこから聞こえるんだろう。耳の中というより頭の中全体に響くような獣の声にハッとした。
(……僕の中から聞こえている……?)
そう思った途端に体の深い場所で何かがむくりと頭をもたげた。澱んだ魔力が渦を巻くよりも重いものがゆっくりと穴蔵から這い出てくる。ずるり、ずるりと這い出てきたそれが、ゆっくりとどこかへ向かって動き出した。
グルルルルル。
這いずるように動き出した真っ黒なそれが地響きのような唸り声を上げた。獣のような声なのにそれは不確かな形のまま、まるで泥のようにずるりずるりと這っている。
不意にそれが頭を持ち上げるように膨れ上がった。目も鼻もない真っ黒なところにすぅっと亀裂が入る。亀裂はゆっくりと開き、真っ赤な口へと変貌した。それが僕の中を掻き混ぜている男の指に食らいつく。
「うぎゃあっ」
叫び声とともに後ろをいじっていた指の圧迫感が消えた。
「な、なんだよ、これ……!」
「ひ、ひぃっ! 化け物……!」
また叫び声が聞こえてきた。叫び声とともに何か柔らかなものが潰れるような音が聞こえた。熟した果物がブチュッと潰れるような音がした直後、僕の顔や胸に果汁のようなものが滴るのを感じた。
「ひぃ……!」
「や、やめろ……!」
僕を押さえつけていた重みが消えた。男たちの姿もどこかへ消えてしまった。おかげで綺麗な青空がよく見える。
(あれ……? 僕はどうして寝ているんだろう?)
それに顔や体にべっとりとした何かが付いている気がする。気持ち悪くて拭おうと手を動かしたとき、誰かが近づいて来る足音がした。
「なるほどなぁ。こりゃあ聞いてた以上だな」
あぁ、この声は……。
「だが、俺がもっとも大事にしているものに手ぇ出してそのくらいで済んだんだ。よかったじゃねぇか」
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