公達は淫らな美鬼を腕に抱く

朏猫(ミカヅキネコ)

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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは

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 帝から見舞いの使者が来たこともあり、屋敷を襲った鬼について報告するため朝廷へ赴くことにした。久しぶりに着た束帯に窮屈さを感じつつ、議定ではないものの公卿たちの視線に居心地の悪さを感じる。長兄、次兄ともに列に座っているが、兄上たちが俺に声をかけることはない。そんななかで屋敷に現れた鬼についてひたすら報告の弁を述べた。もちろん金花に聞いた“鬼が女を攫う理由”も報告したが、納得できないのか俺の言葉に耳を傾けたくないのか受け流される形で議定は終わった。
 その後、御所へと赴き母上からの文を帝にお渡しした。帝からは見舞いとして椿餅つばいもちを頂戴し、さらに母上が熱心に読んでいる物語の写しも数冊いただくことになった。この物語は貴族の間で人気が高く、なかなか写しを手に入れることができないものなのだと聞く。以前、母上が「探してはいるのだけれど」とため息をついていたのを見かけた。それをお知りになった帝が取り寄せてくださったのだろう。帝がいかに母上を案じ元気づけようとしてくださっているのかを感じ、ありがたく頂戴することにした。
 朝廷へ出向いた数日後、兄上たちが手配したという警護用の武士もののふが十数人、屋敷にやって来た。頼もしく思ったのは一瞬で、聞けば全員が鬼と対峙したことがないのだという。それではどの程度役に立つのかわからない。ただ、携えていた弓矢や太刀は八幡大菩薩の加護を受けているということだから、そちらには期待できそうだ。

「これはまた、物々しいものが増えましたね」

 塗籠ぬりごめで新しく追加された武具を確認していると、部屋に金花が入って来た。ずらりと並ぶ太刀や弓矢を見渡し、何を思ったのか手前にある太刀を指で撫で始める。それにギョッとしたのは俺のほうだった。

「おまえ、それは八幡大菩薩のご加護を得た太刀だぞ!」
「あぁ、だから少しピリリと痺れたような感じがするのですね」
「不用意に触るな!」

 まだ太刀に触れている手を奪い取るように掴み、急いで太刀から引き離した。鬼である金花が加護を受けた業物なりものに触れるなど正気の沙汰ではない。たとえ刃に触れたわけじゃなくても何かしらの影響は受けるはずだ。

「ふふっ、わたしを心配してくれるのですか?」
「それは……ッ! おまえは鬼だろう、それなのに不用意に触れるなど何を考えているんだ!」
「わたしは半鬼ですし、おそらく大丈夫だと思いますよ? そもそもあなたの太刀を素手で奪ったことを忘れたのですか?」

 そういえばそうだった。初めて対峙したとき、たしかに金花は素手で鴉丸からすまるを握り奪い取った。あのときも苦しそうな様子を見せることはなく、何事もないような顔をしていたことを思い出す。

「たしかにあのときはそうだったが……」
「それほど心配してくださるなんて、カラギも本当はわたしのことを好いているのでは?」

 金花の言葉に、ぐぅと言葉が詰まった。ついこの間までは違うとはっきり言えたのに、なんとなく言いづらい気持ちになる。それに最近では金花に触れられても以前ほど身構えることがなくなった。命を狙っているのではないとわかったからかもしれないが、それにしてはやけに鼓動が忙しなくなる。

(もしや俺も金花を好いているのか?)

 そう思うこともあるが、何度考えても答えは出なかった。相手は男、しかも鬼だ。そんなやつに思いを寄せたりするはずがない。しかしそれでは「好いているのでは?」と問われるたびに言葉を詰まらせてしまう理由がわからない。それとも体を重ねているうちに情がわいてきたということだろうか。

(それにしてはこの気持ちは……)

 いや、それこそが鬼のなせる技に違いない。そもそも好いていたから金花を都に連れてきたわけではなかった。もし子ができたなら責任を取らなくてはと思っただけで、悪さをしないか監視する目的もある。

(それなのに、屋敷に来てからも毎日のように肌を重ねてしまっている)

 これでは本末転倒だ。わかっているのに、黒く濡れた目を見ると途端に金花しか見えなくなる。紅い唇が言葉を紡ぐだけで吸い寄せられ、白い手が体に触れるだけで気持ちが昂ぶった。そんな中で身を寄せられれば拒むことは難しい。
 極めつけは伽羅の香りだ。金花自身から漂っているのであろうあの香りを嗅ぐと酒精に呑まれたようにぼんやりとしてしまう。その後は、ただひたすら金花がほしくてたまらなかった。毎日のように行為に及んでいるというのに、まるで閨事を覚えたばかりの頃のように翌日には同じように体を熱くしてしまう。

(それもこれも鬼の力のせいに違いない)

 そうだ、鬼の技に違いない。そう思っているのに、いまも俺の手は金花に伸びてしまっていた。

「こんな場所で体を火照らせてしまうなんて、カラギもわたしと同じですね」
「ちがう!」
「そうですか?」

 布の上からそろりと撫でられただけなのに股座に熱が集まるのを感じた。こんな場所で、しかも朝餉を食べたばかりの時間だというのに体がどんどん熱くなる。気がつけば金花を掴んでいた手に力が入り、ぐいっと引き寄せて抱きしめていた。

(これでは何を言っても説得力がないじゃないか)

 金花とはほぼ同じ背丈だからか、引き寄せるとすぐそばに頬が近づく。長い睫毛もスッと伸びた鼻筋も紅く熟れた唇も目の前にあるからか、無意識のうちにゴクリと喉が鳴ってしまった。

「本当に理想的な精の強さだこと。ふふっ、わたしはかまいませんよ?」
「……っ」

 耳元で囁かれた声に、俺の喉は不覚にもまたゴクリと音を立ててしまった。


 じゅぶ、じゅぶぶと濡れて泡立つ音が暗い塗籠ぬりごめに響く。小袿と真っ赤な袴は床の上にぐしゃりと広がり、白い単だけを身につけた金花は尻を後ろに突き出すように壁に両手をついていた。そのまろい尻にいきり勃つ逸物をねじ込みながら、俺は腹の奥がじりじりと燃えるような奇妙な感覚に襲われていた。
 金花の奥に逸物を一突きすればじりりと熱が上がり、引き抜けばじゅわりとその熱を持っていかれる。うねるような感触と淫靡に交わる音に、もう二度も吐き出しているというのに衰えることのない逸物がますますいきり勃った。

「ん……。いつにも増して、なんて逞しいこと」
「う、るさい……っ」
「ふふ、相変わらず、んっ、心は素直じゃ、ないようですね、ぁんっ」
「余計なこと、言う余裕、が、ハァ、まだある、みたいだ、な……!」

 男にしては細い腰をむんずと掴み、腰骨を尻にぶつける勢いで根本まで突き入れた。衝撃のためか金花の背中が一瞬にしてしなる。着物に隠れていても、その背中がいかにみだりがましい様子かまざまざと想像できた。
 そうだ、俺はもう何度もこういう金花の姿を見ている。腹の上に乗って腰を振るのも、大股を広げて正面から俺を受け入れるのも、いまみたいに後ろから獣のように穿たれる姿も、何度も見てきたからこそ容易に想像できるのだ。
 しなやかな背骨がグッとそり返ると、そのぶんだけ腰骨のあたりに窪みができる。いまは着物の下で見えないが、わずかに影を落とすその窪みはやたらと色気があった。腰から視線を下に移せばつるりとした双丘と割れ目があり、女ほど豊かでないものの引き締まった尻たぶが目に入る。その隙間をぬるりと光る己の逸物が出入りするのを目にすると、俺の意思とは関係なく逸物がぐぅんと力を増すのはいつものことだ。
 ふと、カリカリという音がしていることに気がついた。音のほうを見ると、壁にしがみつく金花の美しい指が壁の板を引っ掻いている。それはまるで苛立ちを表しているような、それでいて何かを求めているように見えた。

「金花、それでは爪を、痛めるぞ」

 腰を緩やかに回しながら、まだカリカリと音を立てる右手にそっと触れた。

「ふふ。ほら、やっぱりわたしを気遣って、んっ、くれるじゃ、ないですか」
「それはッ。目の前で、不用意にどこか傷つくのを見るのは、好きではない、だけだ」
「そんな優しいところも、好いていますよ。ん、ぁん、照れ隠しに、奥をぐりぐり、しないで、んっ」
「うる、さいぞ……ッ。ほら、引っ掻くなと言って、る、だろう……ッ」

 腰をグッと押しつけながら、カリカリと引っ掻き続けている左手に己の左手を重ねた。背後から両手を握り、金花の背中に胸を押しつけるように覆い被さる。

「もう引っ掻くな。本当に、爪を痛める、だろう」

 桃色に染まった耳に口を近づけ息を吹き込むように囁くと、金花の背中がびくりと震えたのがわかった。その震えが胸に伝わるだけで腹の奥がぞくりとする。

「あなたの声に、少し、いってしまいそうでしたよ……。ん、んふ、また逞しくなった……」
「く……ッ、これ以上締める、な……っ」
「大丈夫、カラギなら、あと二度は、出るでしょう……? あっ、奥に、すごぃ、ズンズン当たって、ぁあっ、ぁん! い、とても、い、あぁ、いってしまう、いってしまいそう……!」
「いけば、いいッ。おまえこそ、何度でも、いけるだろう……ッ!」

 背中にぴたりと胸をつけたまま、逸物をぐぐぅと奥深くにねじ込んだ。そこは金花がいつも震えるほど感じるところで、柔らかく熱い壁を先端で擦るように叩けば腰を震わせ声を漏らしながら逐情に至る。思ったとおり、いまも小刻みに全身を震わせながら感じ入っているようだった。
 俺のほうもそう余裕があるわけじゃない。根本までねっとりと揉まれ、先端はきゅうきゅうと強烈に吸われるような感覚に目眩がした。そうこうしているうちに三度目の子種も勢いよく吸い取られてしまった。

(こういうのを、名器と、呼ぶのだろうな)

 思う存分子種を吐き出す心地よさに浸りながら、ぼんやりとそんなことを考える。身も心もぼんやりしている俺の耳に小さなカリカリという音が聞こえてきた。俺の手の下で、なおも金花が壁板を引っ掻いている。

「なぜ引っ掻くんだ」

 我ながらぼんやりした声だなと思ったが、気になって訊かずにはいられなかった。

「鬼の、……鬼の本性が、これではないと、……あぁ、気にしないでください」

(鬼の本性……? それはこうして交わることではないのか?)

 まだかすかに聞こえるカリカリという音、それに手の中で引っ掻き続ける指の動きを感じながら、最後の一滴まで注ぎ込まんと腰をグッグッと突き入れた。それにすら感じ入って腰を震わせる金花の姿に満足しながらも、「鬼の本性」という言葉がやけに気になって仕方がなかった。
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