公達は淫らな美鬼を腕に抱く

朏猫(ミカヅキネコ)

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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは

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 都では相変わらず鬼が出たという話が飛び交う日々が続いている。一方、屋敷では母上が攫われかけたあの日以降、鬼が再び姿を見せることはなかった。

(いや、現れなくてよいのだ)

 警備の人数を増やし加護を受けた武具を揃えてはいるものの、あのときの鬼が再び現れても退けることは難しいだろう。それがわかっているだけに悔しさと安堵が入り混じる思いがした。同時に金花が口にした言葉が頭をよぎる。

(“鬼の本性”とは、どういうことなのだろう)

 塗籠ぬりごめで肌を重ねたとき、金花は何かに耐えるように爪で柱を引っ掻いていた。そのとき口にした「鬼の本性がこれではないと」という言葉が忘れられずにいる。
 俺たちは何世代にもわたって鬼と対峙してきた。しかし鬼のことを詳しく知る者は少ない。陰陽寮でさえ確実に鬼を撃退できる方法を知っているわけではなく、いまわかっている最大限のことでそれぞれが対処しているような状態だ。

「鬼のことを俺たちはほとんど知らないということか」
「カラギは鬼のことが知りたいのですか?」
「……ッ! 金花、気配を消して近づくなと何度言えばわかるんだ」
「あぁ、すみません。つい癖で」

 にこりと微笑まれると、それ以上文句が言えなくなる。むすっとしている俺の前に金花が音も立てずに座った。廊下を見たが誰もついてきていないようで人影は見当たらない。

「また女房たちを置いてきたのか」
「ちょうど母上様がお菓子を配っていらっしゃると聞いて、そちらに行くように勧めただけですよ」
「……まぁ、おまえに何かできる者がいるとは思えないからいいが」
「嫉妬ですか? それともわたしの身を案じて?」
「う、うるさい!」
「ふふっ、やっぱりかわいい方」

 そんなことを言いながら、また小袿を脱いでいる。金花が言うには貴族の着物は重すぎて暑いらしい。だからと言って不用意に薄着になるのはどうなんだ。そんな姿を頻繁に晒すなど貴族屋敷にいる姫君がすることじゃない。それに目のやり場に困って仕方がなかった。

(そもそも夏でもないのに、なぜ肌が透けるような薄い着物を着ているんだ!)

 真っ白な単は極薄の生地で作られた夏物のようで、うっすらとではあるが胸のあたりが透けて見える。女房たちのようにふくよかではないというのに、ただ肌とは違う色が透けて見えるだけで気持ちがざわついた。

(俺がそうなるとわかっていて、こうした格好をしているに違いない)

 実際、その姿で迫られれば俺の体は呆気なく陥落するだろう。いや、格好云々とは関係なく金花に迫られれば抗うことなどできなかった。それもこれも鬼のなせる技のせいだ。「これだから鬼は油断できないのだ」と思ったところで、そもそも鬼にそういう力があるのかすら知らないことに気がついた。鬼が女を攫う理由も金花に聞くまで知らなかった。

「我らは鬼のことを知らなさすぎるのかもしれないな」

 ぼそっと漏らした言葉に、「何ですか、急に」と金花が首を傾げる。

「いや、長く鬼と対峙してきたというのに、俺たちは鬼のことをほとんど知らないのだと思ってな」
「もともと鬼と人とは交わらないものですからね。人にとって鬼は恐ろしい存在であり、鬼にとって人は獲物や道具のようなものですから、互いに知ろうとしないのは仕方がありません」
「……そうか、そういう認識なのか」

 人は命を賭けて鬼と対峙しているが、鬼にとって我らは対峙すべき存在ですらないということだ。なんとなくそう感じてはいたものの、はっきり言われると思った以上に衝撃を受ける。

「鬼は子を成すために人の女を攫い、子を生ませる。生んだあとの女のことを気に留める鬼はいません。そういう意味では道具と同じでしょう」
「……なんというか、胸糞が悪くなる話だな」
「これで胸糞悪いと言われると、この後の話はやめておいたほうがよさそうですね」
「鬼のことを知りたいのは本心だ、続けてくれ」

 ほんのわずか考えるような仕草を見せた金花は、「まぁ、いずれはわかることでしょうから」と言って言葉を続けた。

「鬼の糧は人なのです」
「どういうことだ?」
「鬼は生きるための糧として人を食らうということです。酒を飲んだり獣の肉をんだりはしますが、あれはただの嗜好品。生きるためには人を食らうしかないのです」

 鬼が人を食らうことは知っていたが、まさか人を食らうことでしか生きられないとは思いもしなかった。想像すらしていなかった内容に強い衝撃を受ける。

「ということは、鬼の数だけ人は食われるということか?」
「鬼一人が人一人を食べる、ということではありませんけれどね。実際、小鬼たちは力のある鬼が食べ散らかしたものをくすねていますし」

 食べ散らかした、という表現に腹の奥がムカッとした。……いや、俺たちだって似たようなものかもしれない。仕留めた獣に感謝する者がどれだけいるのかと考えれば、やっていることはおそらく同じなのだろう。

「どちらにしても、鬼は生きる糧として人を食うということなのだな」
「えぇ。とくに都に棲む鬼たちは柔らかい肌と肉を好みます。だから女を攫う。攫って子を成すのならよし、成さないのなら食らえばいい。簡単に言えばそういうことでしょうか」

(鬼とは俺たちが考えているよりもずっと恐ろしい存在なのかもしれない)

 そして、人は鬼にとって大したものじゃない。生ませるか食うかの道具でしかないのだ。

「ならば、男は無用のものと思っているのか?」
「さぁ、どうでしょう。鬼のなかには男を食らうものもいるようですし、そこは人と同じで鬼によりけりだと思いますよ」

 男を食らうと聞き、思わず金花を凝視してしまった。

「ふふっ、この場合の食らうは、わたしがあなたを食らうのとは違います。もしかしたら、そういう鬼もいるかもしれませんが」
「おまえが俺と交わるのは、てっきり鬼だからだと思っていたんだが」
「少し違います。まぁ人から見れば鬼も妖魔も同じものでしょうから、そう勘違いされても仕方ありませんけれど」

 そういえば出会ったときも“ようま”という言葉を口にしていた。……そうだ、たしか鬼と“ようま”の合いの子、と言ってはいなかったか。

「“ようま”とはなんだ?」
「おや、ようやくわたしの体以外にも興味を持ってくださいましたか?」
「うるさい! 俺は真面目に訊いているんだ!」
「ふふっ、怒らないでください。好いた方に興味を持ってもらえるのは鬼だってうれしいのですから」

 ニィと笑う金花をひと睨みしたが、相変わらず効果はまったくなさそうだ。

「妖魔をひと言で説明するのは難しいのですが、鬼以外の鬼のような存在、とでも言いましょうか」
「陰陽寮が言うモノノケということか?」
「近からずも遠からずですね。モノノケと呼ばれる妖魔もいますし、人前にはほとんど姿を現さない妖魔もいます」

(そういうのを鬼と言うのではないのか?)

 うまく理解できなかったが、それだけ多くの種類がいるということなのだろう。

「それで、おまえはその“ようま”と鬼を親に持つということなのだな?」
「はい。父は鬼ですが、生んだのは金花猫と呼ばれる妖魔の一種です」
「きんかねこ?」
「猫とついてはいますが、いわゆる人が愛玩する猫とは違います。まぁ、あなたに愛玩されるのであれば、わたしは猫でもかまいませんけれど」
「おまえはどうして、そうやってすぐに淫らなことを口にするのだ! 俺は真面目に訊いているのだぞ!」
「そう怒らないでください。カッカと顔を赤くするのがかわいくて、つい口がすべるのです」
「~~……ッ」
「ほら、怒らないで」

 つぃと近寄った金花が、何を思ったのか俺の頬を優しく撫で始めた。慌てて止めようとしたが、幼な子にするような優しい手つきに「やめろ」というひと言が出てこない。そんな俺に「ふふ」と笑った金花が、するりと顎をひと撫でしてから言葉を続けた。

「金花猫とは人の精を糧にする妖魔のことです。夢に現れ、淫らなことを囁き、それで逐情した精を食らう。ときには夢でなくうつつでも人を惑わし精を食らうこともありますが」
「おまえはまるきり後者ではないか」
「そうですねぇ。きっと半分鬼だからかもしれません」

 ふふっと笑う美しい顔にどきりと心臓が跳ねた。俺は本当にどうしたというのだろう。金花を見るだけで鼓動が忙しなくなり体がカッカと熱くなってしまう。これも金花が言う“ようま”のなせる技のせいなのだろうか。

「わたしは妖魔の力を半分しか使えないようで、夢で精を食らうのが苦手なのです。となれば直接精を頂戴するしかありません。そうしなければ死んでしまいますからね」
「では、これまで鬼退治に向かった者たちとは……」
「ちょうどよいと思って精をいただいていました。ただいずれも口に合わなかったので一人から一度ずつしか頂戴しませんでしたけれど。なかにはその後もしつこくやって来る者もいて、そういう者たちには遠慮していただきました」
「……そうか」

 遠慮の意味は尋ねなくても想像できた。金花に精を食われた者もいれば鬱陶しいと排除された者もいたということだろう。

(……いや、なかには金花を忘れられずに己を見失った者がいたかもしれない)

 そういう者は望んでその身を捧げようとしたのだろうが、どちらにしても都に戻ることは叶わなかったということだ。

「俺は、運がよかったのだろうな」
「それは違います」

 漏れた言葉に金花の強い声が重なった。

「あなたは長くわたしが求めていた存在なのです。妖魔の力に抗えるほどの胆力を持ち、妖魔としてのわたしを十分に潤してくれる精の強さも持っている。長く、そう、長いと感じなくなるほど長く待ち焦がれていた存在なのです。あなたがそうなのだと、間違いないのだと旅をしている間に確信しました」
「金花……?」
「あなたのためなら鬼の部分を捨てることもできる。都に来てその気持ちはますます強くなっています。わたしはそれくらいあなたを、カラギを好いているのです」

 漆黒の目がわずかに潤んでいる。それがあまりに美しく、思わず手を伸ばし目尻を撫でていた。

「長く一人きりだったわたしを満たしてくれたのは、カラギ、あなたが初めてなのです」

 言葉を紡ぐ紅い唇から目が離せなくなった。これではいけない、このままではいつもと同じだとわかっている。このままでは酒精に飲まれたようになり金花を求めることしかできなくなる。わかっているのに、あっという間に俺の体は金花へと吸い寄せられた。

「俺は……“ようま”とやらの力に惑わされているんじゃないのか?」
「最初から違うと言っているじゃないですか。惑わされているのなら、そんな言葉すら口にできないのですよ。意識を保ち、己の欲を感じ、交わればわたしのいところを暴いてくれる。それは金花猫の力が及んでいない証」

 白い手がすぅと股座を撫でた。すでに熱を持っていたそこは、金花の手が触れたのだとわかった途端にさらに熱くなる。それを感じた金花がうれしそうに笑った。

「あなたの精は妖魔としてのわたしの糧ではありますが、同時に何者にも代え難い唯一わたしを心身共に満たしてくれるもの。あなただけなのです、カラギ。あなただけがわたしを満たしてくれる。わたしが初めて好いた方……。どうか、いつまでもわたしをそばに置いてください」

 美しい顔がすぃと近づいてきた。鼻先が触れ、金花の吐息が俺の唇に触れる。それを感じながら「あぁ、やっぱり美しいな」と今さらなことを思った。

「あなたのそばにいられるなら、鬼の本性など大したことではありません」
「鬼の……」

 そうだ、元々それが何か訊こうとしていたのだ。当初の目的を思い出し尋ねようとしたが、口を開く前に温かなものに塞がれてしまった。温かく柔らかなそれはしっとりしていて、どうにも離れ難い気持ちになる。
 目を細め、その柔らかさにうっとりと感じ入った。するとぬるりとした肉厚なものが口の隙間を割って入ってきた。それは俺の口の中をするすると動き回り、あちこちを確認するように擦り始める。そうして俺の舌に絡みついたところで、ようやく肉厚なものが金花の舌だということに気がついた。

(口を吸うのはこれが初めてだな)

 あれほど体を重ねてきたというのにおかしな話だ。気がつけば俺のほうから金花の舌に吸いつき、これまでの分を求めるように何度も互いの口を吸い続けた。


 結局その後も金花に“鬼の本性”なるものを訊くことができないまま数日が経った。鬼のことを聞いた日以降も何度か尋ねようとはしたものの、そのたびに唇に吸いつかれ結局は何も訊けないままになっている。

(まるで訊かないでくれと言っているみたいだな)

 口を吸われると頭がぼんやりしてしまい、気がつけばいつもどおり肌を重ねてしまっていた。行為が終われば何をしようとしていたのか忘れてしまい、思い出すのはしばらくしてからだ。

(“鬼の本性”が危ういものでないなら急がなくてもいいか)

 屋敷に連れて来てからそこそこ日が経つが、金花がほかの鬼のように人を食らおうとしたことは一度もない。もちろん俺以外の男をそういう意味で・・・・・・・食らうこともなかった。
 普段は見るからに貴族の姫君のような様子で、周囲にいる女房は誰一人として金花の正体に気づいていなかった。母上に仕える御所から来た女房たちですら金花が男だということに気づいていない。それどころか歌の才に惚れ惚れとしているようで、母上の周囲からは「歌合うたあいに出ても遜色ない」と褒め称えられるほどだ。香や書にも詳しく、着物の色合わせは女房たちが真似をするほどで、なんと貝合わせもやるらしい。本人いわく「蹴鞠も得意なんですが、さすがに姫君はやらないでしょうからねぇ」とのことだが、それではまるっきり公達ではないかと驚嘆した。

「なぜそんなにあれこれできるんだ?」

 思わずそんなことを訊いていた。ところが金花にとっては大したことではないらしく不思議そうな顔をする。

「鬼の寿命はとても長いのです。だから持て余した時間で人の楽しみを嗜んでいただけですよ」
「それにしては御所出の女房や公達にも負けない知識を持っているじゃないか」
「ただの暇つぶしだったのですけれどね。でも、おかげでカラギの奥方として恥ずかしくないわけですから、いろいろやっておいてよかったと思っています」
「……そうか」

 うれしそうに話す金花を見ると、鬼のくせにだとか悪態をつくことができなくなる。

(鬼だから人より劣っているだの野蛮だのと思っているのは、人が鬼を知らないだけかもしれない)

 少なくとも金花は野蛮ではない。むしろそのあたりの貴族子息よりも貴族らしく、下手な姫君よりもずっと姫君らしい。鬼にもこういう者がいるのだなと感心するばかりだ。

「鬼が皆、おまえのようであれば少しはわかり合えるかもしれないのにな」

 ふと漏れた言葉に、どうしてか金花は少し微笑むだけで何も言わなかった。

(……以前にもこんな顔を見たような)

 気にはなったものの、結局忙しい日々に追われ金花の表情のことはすっかり忘れてしまっていた。
 その後も都のあちこちで鬼の話を聞くものの、御所や貴族の屋敷に現れたという話はぴたりと聞かなくなった。それに母上や女房たちは安心したのか、すっかり元の生活に戻っている。兄上たちから寄越された武士もののふたちにも一旦帰ってもらったため屋敷も少し静かになった。だからといって備えに手を抜くことはせず、八幡大菩薩の加護を受けた武具を少しずつ増やしていた。

(こういう気が抜けたときこそ鬼が狙ってきそうではあるが……)

 鬼がそう簡単に都から姿を消すとは思えない。この静けさは何かが起きる前触れに違いない。そんな気がしていた俺は、「次こそは」という思いを胸に鍛錬を続けていた。

「ますます逞しい体つきになって」
「うるさいぞ」

 庭で鴉丸からすまるを振るう俺を見ながら、金花が「ほぅ」とため息をついている。まるで憧れの公達を見る姫君のような眼差しに、つい意識を持っていかれそうになり慌てて気を引き締めた。

「さぁ、そろそろ汗を拭いましょう」
「……」

 たしかに汗を拭いたいと思っていた。だが、手ぬぐいを手にした金花のねぶるような視線を感じると、どうしても近づくのがためらわれる。

(ただ拭うだけならいいんだが……)

 先日は俺の上半身を拭いながら「力強い腕や足の肉、なにより盛り上がったこの胸の肉など揉みしだきたくなるほど素晴らしい」と囁いた。しかも舌なめずりしているかのような声でだ。まるで閨を思い出させるような手つきで胸を拭われた俺は、それ以上鍛錬を続けることができなくなってしまった。
 いまも金花の眼差しはねっとりとしている。女房たちの手前、妻である金花の申し出を断ることはできない。仕方なく近づけば、拭っているのかなぶっているのかわからない手つきであちこちに触れてくる。
 胸を下から揉み上げるように拭ったかと思えば、次は乳首を撫で回すようにくるくると布で擦る。それに身をよじれば紅い唇でニィと笑い、ぺろりと舌舐めずりする様を見せた。まるでからかうような仕草にカッと頭に血が上った。

「おまえという奴は……っ。昼日中から、そういうことをするなっ」

 声をひそめながら叱ると、「ふふ」と笑みを浮かべながら顔を覗き込んでくる。

「そういうこととは?」
「……ッ」
「ふふっ。相変わらずかわいい方だこと。今夜が楽しみです」

 紅い唇を舌先で舐めながら上目遣いでそんなことを口にした。それだけで体がカッと熱くなりあらぬところに熱が集まりそうになる。自分の体はどれだけ淫らにされてしまったのかと情けなくなった。同時に、相手は妻なのだからかまわないじゃないかともう一人の自分が囁く。

(妻と言っても仮初め、鬼だぞ。しかも男じゃないか)

 それは閨事のときにも思うことだ。それなのに行為が減るどころか、ますます金花を求めるようになっている。

(しかも最近の金花は……)

 いつもは俺のほうが熱心だが必ずしも受け身というわけじゃない。ときには俺を女だと勘違いしているのではと疑うほど熱心に体を撫で、うっとりとした表情で見下ろすこともあった。その顔は美しくも男らしい気配を漂わせるもので、初めて対面したときのようにこのまま組み敷かれるのではないかと思うこともある。それがまた倒錯的な気持ちにさせて……。

(俺は昼日中からいったい何を……!)

 夜のことを思い出していると金花も気づいたのだろう。腕の汗を拭っていた金花がさもうれしいと言わんばかりの笑顔で俺を見つめている。

「ふふっ、いつでもわたしとのことを思い出してくれているようで、本当にかわいい方」
「おまえはっ。やめろ、まだ昼だぞ……ッ」

 すり寄る金花に小声で注意した。

「でも、体は随分と熱くなっているではありませんか」
「だから、そうやっておまえが触らなければ勝手に収まる、と言って、……ッ」
「そんなもったいないことを言わないでください。どうせ収めるならわたしがして差し上げると言うのに」
「だから、おまえは……! やめろっ、それ以上触るな……ッ」

 金花の濡れた声に股座が反応し始めた。こんな状態では立ち去ることもできない。だからといって金花に手を伸ばすわけにもいかず、眉を寄せながら「まだ駄目だッ」とかろうじてそれだけ口にした。ここで乱暴に突き放しては女房たちの目もある。

「そんなつれないことを言わずに、わたしに思う存分――」
「御所に鬼が出た……!」

 金花の淫らな言葉を遮るように庭の奥から叫び声が聞こえてきた。ドタドタと走ってくる足音に気づき、金花を押しのけるように遠ざけてから腰回りを整える。

「カラギ様、御所に鬼が出たとのことです!」

 その言葉に先ほどまでとは違う熱が体を熱くした。

「帝は!?」
「避難あそばし、ご無事とのこと!」
「すぐに向かう! おまえたちは塗籠ぬりごめの武具を持って追いかけてこい!」
「はっ!」

 上着を整えるのは後回しだ。鴉丸からすまるを握り締め、庭から表の通りへと駆け出す。背後から金花の声が聞こえた気がしたが、そのまま俺は御所へと駆け足で向かった。
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