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二章 鬼の王に会いて
13・終
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ぐちょぐちょと音を立てながら、金花――いや、キツラが俺に跨がり腰を動かしている。俺を押し倒したキツラはすぐさま袴を奪い、自らも着物を脱ぎ捨てた。そうして腰を跨いだかと思えばいつも以上に滾っている逸物をあっという間に身の内に飲み込んだ。そのまま膝を使って小刻みに、ときに大胆に腰を振りたくっている。
伽羅の香りだけで子種が噴き出しそうになっていた俺が淫らな動きに耐えられるはずもなく、最初のひと突きでキツラの中に子種をぶちまけてしまった。そんな俺をニィと見下ろしたキツラは、まだまだこれからだと言わんばかりに子種を吐き出している俺の逸物を肉壁で擦り続けた。そうして俺は子種をこぼしながらも、さらに逐情を促されるという拷問にも似た法悦を延々と受け続けている。
さすがに四度目ともなると子種の量も少なく、逸物の感覚もおかしくなってきた。そんな俺にニィィと笑んだキツラは、自分の右手人差し指を牙で噛み、血の滴る指を俺の口に突っ込んだ。
「何をす、ん、ん――!」
「ふふっ、さぁわたしの血を食らって。そうすれば……ほら、あなたのここは、すぐに逞しくなって……。ぁん、すごく深くまで、あなたを感じる。ふふ、どくどくとして、筋まではっきりして」
「んぅ、っ、キツラ、ちょっと、待て……っ」
「いいえ、待たない。あなたの精はすべてわたしのもの。ふっ、ふふ、あぁ、また奥に、あなたの精が……あぁ、悦い」
「ぐ……ぅっ!」
血を舐めたせいかキツラの中で再び逸物が滾った。しかし次の瞬間には搾り取られてしまっている。肉壁にぎっちりと絡みつかれ、まるで揉まれているような感覚に腰がびくびくと跳ねた。そうやってわずかに動くだけで先端がキツラの奥にぶちゅうとぶつかり、それがひどく気持ちいい。子種を吐き出している最中だというのに、あっという間に逸物に力がみなぎっていく。
「ふふっ、なんて逞しい……。あぁ、もっと、もっと精をわたしの中に……」
キツラが腰を揺らすせいで最後の一滴まで子種を搾り取られた。それでも俺の逸物はまったく衰えることがない。熱く淫らな肉壁に絡みつかれ、絞られ、玉までもが一気に迫り上がる。
「乳首まで、こんなに尖らせて。ふふ、弾くと中でぴくりと動いて、かわいいこと」
「くっ、……っ、やめ、……っ」
腰を緩やかに回しながら、キツラの爪がぴんぴんと俺の乳首を弾き始めた。ただでさえ尖って敏感になっているというのに、爪で弾かれ、摘んだり引っ張られたりされてはたまったものじゃない。次第に乳首がじんじんとし、胸全体がじんわりと熱を帯びてきた。
「姫君は、こんなこと、……ん、しない。あなたの熱く、逞しいものを……んぅ、慰めながら、胸まで、かわいがれるのは、んっ、わたしだからです。……あぁ、また精が、奥に……。びゅうびゅうと、あぁ、悦ぃ……」
両方の乳首を摘んだキツラの指が、今度はきゅぅと引っ張る。時折り爪でぴんと弾いたりカリカリと引っ掻いたりと、しつこいまでに俺の乳首をいじった。左のほうがぬるりと感じるのは、血の滴る右の指でぐりぐりと摘んでいるからだろう。
あまりのことに俺の腹から上はぶるぶると小刻みに震え、腰から下はかくかくと上下に揺れていた。傍から見れば、なんともみっともない状態になっているに違いない。わかっていても体は俺の自由にはならず、ただキツラに絞られ続けた。
(これは、酒精よりも、ひどいな)
ぼんやりとしていた頭は、いまやほとんど酩酊しているような状態だ。これも伽羅香のせいか……いや、何度も子種を搾り取られて血の気が薄くなっているのだ。こうなると何も考えられず、ただ逐情の心地よさに身を任せることしかできない。
「カラギ、わたしのカラギ。ぁん、まだこんなに、逞しく……。ん、んふ、カラギ、カラギ」
己の流す指の血に反応しているのか、キツラはうっとりした顔で腰を動かした。そうしながら血の滴る指を口に入れ、ぴちゃぴちゃとしゃぶっている。真っ白な肌を薄く染め、顔をとろりと蕩けさせた美しいキツラ。額の角も、ちらりちらりと見える小さな牙も、血に濡れた紅い唇も、暗闇の中で炎が揺らめくような不思議な色合いの目も、すべてが恐ろしく、そして美しかった。
この美しい鬼は俺のものだ――そう思った瞬間、ぶわりと体の熱が上がった気がした。
「んっ、カラギ……?」
熱が上がったことに気づいたのか、キツラが指をぺろりと舐めながら俺を見下ろした。
(違う、そうじゃない。おまえが舐めるべきは自分の指じゃないだろう)
食らうべきはおまえ自身の血ではなく……。
がじり。
あれほど動かなかった右手を持ち上げ、手首を思いきり齧った。ぷしゅっと噴き出した血から漂う鉄臭い匂いに眉が寄る。これは俺が食らうべきものじゃない、これはキツラのものだ。そう、俺が食らいたいのはもっと芳しく甘い、キツラの……。
「カラギ、血が……。あぁ、どうしよう、そんなに血が……。いけない、いけない」
腹の上で動きを止めたキツラが、困惑した目で俺の手首を見ている。駄目だといいながらも真っ赤な舌は何度も唇を濡らし、はぁはぁと興奮した獣のような息がひっきりなしに漏れていた。それでも手に取らないのは、ここで血を食らえばもう戻れないとわかっているからだろう。
だからこそ俺の血をたっぷりと食わせたいと思った。そうして本来の鬼のままのキツラと体の奥深くで交わりたい。血も精もたっぷりとキツラの中に注ぎ込みたい。そうするためにも俺の血をたっぷりと食らうがいい。
「キツラ、俺はおまえのものだろう?」
そう言って差し出した右手を、キツラが恐る恐るといったふうに手に取った。眉を寄せて耐えるような顔をしながら、俺の手をそうっと持ち上げる。まるで大切なものを扱うような手つきに思わず笑うと、それが腹を揺らし中を穿つ逸物が動くからか「んぅ」と甘く鳴いた。
「俺はこれからもずっとおまえのものだ」
俺の言葉に泣くように笑ったキツラは、たらりと滴る血を舐めとるように手首に舌を這わせた。ぺろりと舐められるたびに伽羅の香りが強くなる。舐められるたびに背筋がびりびりと震え、心地よい刺激が体中を駆け巡った。
俺もキツラも腰を動かしていないというのに、気がつけばキツラの中で俺はどくりどくりと子種を吐き出していた。
「さて、まずは東へ向かうか」
「お師匠のところへ?」
「また行くと約束したからなぁ。それに、師匠なら鬼に転じても鴉丸を使い続けられる方法を知っているかもしれないだろう?」
俺の言葉に金花がわずかに眉尻を下げた。
(まだ気にしているのか)
俺のほうはとっくに吹っ切れ、このまま鬼へと転じるのが楽しみになっている。それなのに困ったような表情を浮かべる金花のほうがよほど繊細だ。
「お師匠に……退治されたりはしませんか?」
「そのつもりなら、この前行ったときにおまえを殺していただろうさ。いや、それならかばう俺も一緒に殺されていたか。そう考えると太刀の師匠としてはこれほど頼れる人はいないが、鬼になればこんなに恐ろしい存在はほかにいないだろうな」
「カラギ」
「別にはぐらかしているわけじゃない。師匠が本気で退治しようと思っていたなら、そうなっていたということだ。おまえが鬼だということは知られていたからな」
おそらく師匠は俺が鬼に近づきつつあることに気づいていたはずだ。御所での一件で金花が鬼であることは知られていたし、その金花を守ろうとした俺を見て何かしら感じていてもおかしくない。東国にいる間、俺はずっと鬼に転じることを考えていた。気持ちが太刀筋に出やすい俺を見てきた師匠なら、手合わせしなくても気づいたはずだ。
それでも何も言わなかった。ということは、師匠の中で金花は退治すべき鬼ではなく、俺のことも見守るつもりでいるのだろう。
「師匠は俺にとって父のような存在なんだ。だから、この道を選んだことを伝えておきたいんだ」
「……そうですか」
それ以上、金花は何も言わなかった。
六条殿の屋敷から戻った俺は、鬼の姿に変化した金花と我を忘れたように交わった。禍々しくも美しい鬼の金花と肌を重ね、互いの血を啜り合いもした。しばらく俺の精ばかりで血を口にしていなかった金花は、泣きそうな顔をしながらも必死に俺の手首の傷に舌を這わせた。血がほしい欲と傷を癒したい気持ちにに翻弄されていたのだろう。もしくは、俺を鬼にしてしまうことへの罪悪感に苛まれていたのか。
だからこそ俺は決意した――このまま鬼に転じようと。跨りながら俺を案じる美しい鬼と同じものになりたいと思った。そう思いながら血を差し出し、俺自身も金花の血を口にした。互いの血を啜りながらの交わりは、これまで感じたことがないほどの悦楽をもたらした。
あのとき俺は、気持ちはもう鬼なのだろうと悟った。
三日後、二条の崇明殿のことで御所へ呼ばれた際に帝に都を離れることを申し上げた。気にかけていた崇明殿が公卿になることを喜ばれているときに無粋だと思ったものの、母上共々随分と目をかけていただいた身だ。ひと言もないまま都を離れるのは気が引けたのでよかったと思っている。
「鴉丸は持って行くがよい」
ありがたくも帝に賜った言葉に、やはり俺は恵まれていたのだなと心から思った。御所からの帰り、偶然にも内大臣に遭遇した。六条殿や崇明殿のことで礼を述べると「なに、大したことはしていない」と微笑む。そして「これは餞別だ」と言って白檜扇をいただいた。
内大臣には都を出る話をしていない。それなのに餞別という言葉に眉を寄せながら見た白檜扇は、俺が金花にと用意していたものとそっくりだった。白檜扇は俺が内々に職人に作らせていたもので女房たちでさえ知らないことだ。「なぜ内大臣が知っているんだ?」と驚いている間に内大臣は去ってしまった。
(そういえば光榮殿の顔を見たのも久しぶりだったな)
御所を出る直前、陰陽寮の架茂光榮殿に会った。御所での鬼騒動以来顔を合わせるのは久しぶりだったが、なぜか俺の顔を見た途端に逃げるように足早に去ってしまった。その際、ギョッとしたような表情をしたのが気にかかる。しかも見る間に頬を真っ赤にした。
(光榮殿を言い含めてくれたのは師匠らしいが……)
光榮殿には御所での出来事を見られてしまっている。しかしその後、鬼に関することで呼び出されることはなかった。師匠が「俺がちぃっと言っておいたから大丈夫だ」と笑っていたが、いったい何をしたのだろう。
(……もしや、よからぬことをしたのでは)
師匠がまだ都にいて太刀を教えてくれていたときに話していたことを思い出した。
「偉そうにしている公卿も着物を脱げばただの男だ。普段偉そうにしているぶん、組み敷くのは楽しいぞ」
まさか光榮殿がその餌食になったとは思えないが、今後も師匠に訊ねるのはやめておこう。その後も屋敷の武士たちや女房たちに今後のことをあれこれと指示し、帝に挨拶申し上げた十日後ようやく都を出る準備が整った。
「体には充分気をつけて」
最後まで何か言いたそうな顔をしていた母上だったが、泣き崩れることはなく最後にこの言葉を頂戴した。何も言ってはいないが、これが今生の別れになるかもしれないと感じていたのかもしれない。
金花が「たまには文や土地の物を送りましょう」と言っているから、しばらくは縁が切れることはないだろう。兄上たちのほうは最後まで関白家の子息がとうるさく言っていたが、そういう言葉も聞けなくなるのかと思うと寂しく感じるから不思議なものだ。
こうして俺と金花は都を出た。三日ほどは近くの寺を回ったが、雪が本格的に積もる前にと東国へ向かうことにした。再びの二人旅もそうだが、新たな自分になるのかと思うと不安よりも楽しみだと思う気持ちのほうが強い。俺自身はそんなふうだというのに、何かあるたびに金花は「そう急がなくても」と眉尻を下げる。
(これで鬼の王の兄弟だというのだからなぁ)
金花はあまり鬼らしくなく、むしろ俺よりも人らしいところを見せるようになった。これも人の世に出て大勢の人を見聞きしたからだろうか。
仲間である鬼たちに疎まれ、山奥に棲み、“山の高貴なる畏怖”と呼ばれていた美しい鬼は、いま俺の隣を歩いている。これからもずっと隣にあり、死ぬまで共にあることだろう。そう願っている俺は、これから少しずつ鬼へと転じていく。それが誇らしくもあり、この美しい鬼を永遠に手にできるのだという喜びも感じていた。
「もうすっかり寒くなったなぁ」
「雪が積もれば道も険しくなるのでしょうね」
「山側の道は大変だろうから、まだ暖かい海側を行くか」
「海……」
ぽつりとつぶやいた言葉に、前回海を見てはしゃいでいた金花を思い出した。
「さすがに冬の海に入るのはやめたほうがいいぞ?」
「そのくらいのことわかっていますよ」
少し拗ねたように答えた白い肌は、気のせいでなければ少し赤くなっている。
「夏が来たら、今度は別の海に入ればいいさ」
「ふふ、そうですね」
ふわりと笑う金花にずぃと近づき、耳元に口を寄せて囁いた。
「また海の中でかわいがってやる」
「……っ」
ひくりと震えた肩にニヤリと笑いながら耳たぶをべろりと舐めて離れた。
「……段々と意地悪がひどくなっている」
目元を薄紅色に染めた姿は美しくもかわいらしく、こんなにも愛しいと思う金花とこの先も共にいられるのかと思うとたまらなく胸が疼いた。
伽羅の香りだけで子種が噴き出しそうになっていた俺が淫らな動きに耐えられるはずもなく、最初のひと突きでキツラの中に子種をぶちまけてしまった。そんな俺をニィと見下ろしたキツラは、まだまだこれからだと言わんばかりに子種を吐き出している俺の逸物を肉壁で擦り続けた。そうして俺は子種をこぼしながらも、さらに逐情を促されるという拷問にも似た法悦を延々と受け続けている。
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「何をす、ん、ん――!」
「ふふっ、さぁわたしの血を食らって。そうすれば……ほら、あなたのここは、すぐに逞しくなって……。ぁん、すごく深くまで、あなたを感じる。ふふ、どくどくとして、筋まではっきりして」
「んぅ、っ、キツラ、ちょっと、待て……っ」
「いいえ、待たない。あなたの精はすべてわたしのもの。ふっ、ふふ、あぁ、また奥に、あなたの精が……あぁ、悦い」
「ぐ……ぅっ!」
血を舐めたせいかキツラの中で再び逸物が滾った。しかし次の瞬間には搾り取られてしまっている。肉壁にぎっちりと絡みつかれ、まるで揉まれているような感覚に腰がびくびくと跳ねた。そうやってわずかに動くだけで先端がキツラの奥にぶちゅうとぶつかり、それがひどく気持ちいい。子種を吐き出している最中だというのに、あっという間に逸物に力がみなぎっていく。
「ふふっ、なんて逞しい……。あぁ、もっと、もっと精をわたしの中に……」
キツラが腰を揺らすせいで最後の一滴まで子種を搾り取られた。それでも俺の逸物はまったく衰えることがない。熱く淫らな肉壁に絡みつかれ、絞られ、玉までもが一気に迫り上がる。
「乳首まで、こんなに尖らせて。ふふ、弾くと中でぴくりと動いて、かわいいこと」
「くっ、……っ、やめ、……っ」
腰を緩やかに回しながら、キツラの爪がぴんぴんと俺の乳首を弾き始めた。ただでさえ尖って敏感になっているというのに、爪で弾かれ、摘んだり引っ張られたりされてはたまったものじゃない。次第に乳首がじんじんとし、胸全体がじんわりと熱を帯びてきた。
「姫君は、こんなこと、……ん、しない。あなたの熱く、逞しいものを……んぅ、慰めながら、胸まで、かわいがれるのは、んっ、わたしだからです。……あぁ、また精が、奥に……。びゅうびゅうと、あぁ、悦ぃ……」
両方の乳首を摘んだキツラの指が、今度はきゅぅと引っ張る。時折り爪でぴんと弾いたりカリカリと引っ掻いたりと、しつこいまでに俺の乳首をいじった。左のほうがぬるりと感じるのは、血の滴る右の指でぐりぐりと摘んでいるからだろう。
あまりのことに俺の腹から上はぶるぶると小刻みに震え、腰から下はかくかくと上下に揺れていた。傍から見れば、なんともみっともない状態になっているに違いない。わかっていても体は俺の自由にはならず、ただキツラに絞られ続けた。
(これは、酒精よりも、ひどいな)
ぼんやりとしていた頭は、いまやほとんど酩酊しているような状態だ。これも伽羅香のせいか……いや、何度も子種を搾り取られて血の気が薄くなっているのだ。こうなると何も考えられず、ただ逐情の心地よさに身を任せることしかできない。
「カラギ、わたしのカラギ。ぁん、まだこんなに、逞しく……。ん、んふ、カラギ、カラギ」
己の流す指の血に反応しているのか、キツラはうっとりした顔で腰を動かした。そうしながら血の滴る指を口に入れ、ぴちゃぴちゃとしゃぶっている。真っ白な肌を薄く染め、顔をとろりと蕩けさせた美しいキツラ。額の角も、ちらりちらりと見える小さな牙も、血に濡れた紅い唇も、暗闇の中で炎が揺らめくような不思議な色合いの目も、すべてが恐ろしく、そして美しかった。
この美しい鬼は俺のものだ――そう思った瞬間、ぶわりと体の熱が上がった気がした。
「んっ、カラギ……?」
熱が上がったことに気づいたのか、キツラが指をぺろりと舐めながら俺を見下ろした。
(違う、そうじゃない。おまえが舐めるべきは自分の指じゃないだろう)
食らうべきはおまえ自身の血ではなく……。
がじり。
あれほど動かなかった右手を持ち上げ、手首を思いきり齧った。ぷしゅっと噴き出した血から漂う鉄臭い匂いに眉が寄る。これは俺が食らうべきものじゃない、これはキツラのものだ。そう、俺が食らいたいのはもっと芳しく甘い、キツラの……。
「カラギ、血が……。あぁ、どうしよう、そんなに血が……。いけない、いけない」
腹の上で動きを止めたキツラが、困惑した目で俺の手首を見ている。駄目だといいながらも真っ赤な舌は何度も唇を濡らし、はぁはぁと興奮した獣のような息がひっきりなしに漏れていた。それでも手に取らないのは、ここで血を食らえばもう戻れないとわかっているからだろう。
だからこそ俺の血をたっぷりと食わせたいと思った。そうして本来の鬼のままのキツラと体の奥深くで交わりたい。血も精もたっぷりとキツラの中に注ぎ込みたい。そうするためにも俺の血をたっぷりと食らうがいい。
「キツラ、俺はおまえのものだろう?」
そう言って差し出した右手を、キツラが恐る恐るといったふうに手に取った。眉を寄せて耐えるような顔をしながら、俺の手をそうっと持ち上げる。まるで大切なものを扱うような手つきに思わず笑うと、それが腹を揺らし中を穿つ逸物が動くからか「んぅ」と甘く鳴いた。
「俺はこれからもずっとおまえのものだ」
俺の言葉に泣くように笑ったキツラは、たらりと滴る血を舐めとるように手首に舌を這わせた。ぺろりと舐められるたびに伽羅の香りが強くなる。舐められるたびに背筋がびりびりと震え、心地よい刺激が体中を駆け巡った。
俺もキツラも腰を動かしていないというのに、気がつけばキツラの中で俺はどくりどくりと子種を吐き出していた。
「さて、まずは東へ向かうか」
「お師匠のところへ?」
「また行くと約束したからなぁ。それに、師匠なら鬼に転じても鴉丸を使い続けられる方法を知っているかもしれないだろう?」
俺の言葉に金花がわずかに眉尻を下げた。
(まだ気にしているのか)
俺のほうはとっくに吹っ切れ、このまま鬼へと転じるのが楽しみになっている。それなのに困ったような表情を浮かべる金花のほうがよほど繊細だ。
「お師匠に……退治されたりはしませんか?」
「そのつもりなら、この前行ったときにおまえを殺していただろうさ。いや、それならかばう俺も一緒に殺されていたか。そう考えると太刀の師匠としてはこれほど頼れる人はいないが、鬼になればこんなに恐ろしい存在はほかにいないだろうな」
「カラギ」
「別にはぐらかしているわけじゃない。師匠が本気で退治しようと思っていたなら、そうなっていたということだ。おまえが鬼だということは知られていたからな」
おそらく師匠は俺が鬼に近づきつつあることに気づいていたはずだ。御所での一件で金花が鬼であることは知られていたし、その金花を守ろうとした俺を見て何かしら感じていてもおかしくない。東国にいる間、俺はずっと鬼に転じることを考えていた。気持ちが太刀筋に出やすい俺を見てきた師匠なら、手合わせしなくても気づいたはずだ。
それでも何も言わなかった。ということは、師匠の中で金花は退治すべき鬼ではなく、俺のことも見守るつもりでいるのだろう。
「師匠は俺にとって父のような存在なんだ。だから、この道を選んだことを伝えておきたいんだ」
「……そうですか」
それ以上、金花は何も言わなかった。
六条殿の屋敷から戻った俺は、鬼の姿に変化した金花と我を忘れたように交わった。禍々しくも美しい鬼の金花と肌を重ね、互いの血を啜り合いもした。しばらく俺の精ばかりで血を口にしていなかった金花は、泣きそうな顔をしながらも必死に俺の手首の傷に舌を這わせた。血がほしい欲と傷を癒したい気持ちにに翻弄されていたのだろう。もしくは、俺を鬼にしてしまうことへの罪悪感に苛まれていたのか。
だからこそ俺は決意した――このまま鬼に転じようと。跨りながら俺を案じる美しい鬼と同じものになりたいと思った。そう思いながら血を差し出し、俺自身も金花の血を口にした。互いの血を啜りながらの交わりは、これまで感じたことがないほどの悦楽をもたらした。
あのとき俺は、気持ちはもう鬼なのだろうと悟った。
三日後、二条の崇明殿のことで御所へ呼ばれた際に帝に都を離れることを申し上げた。気にかけていた崇明殿が公卿になることを喜ばれているときに無粋だと思ったものの、母上共々随分と目をかけていただいた身だ。ひと言もないまま都を離れるのは気が引けたのでよかったと思っている。
「鴉丸は持って行くがよい」
ありがたくも帝に賜った言葉に、やはり俺は恵まれていたのだなと心から思った。御所からの帰り、偶然にも内大臣に遭遇した。六条殿や崇明殿のことで礼を述べると「なに、大したことはしていない」と微笑む。そして「これは餞別だ」と言って白檜扇をいただいた。
内大臣には都を出る話をしていない。それなのに餞別という言葉に眉を寄せながら見た白檜扇は、俺が金花にと用意していたものとそっくりだった。白檜扇は俺が内々に職人に作らせていたもので女房たちでさえ知らないことだ。「なぜ内大臣が知っているんだ?」と驚いている間に内大臣は去ってしまった。
(そういえば光榮殿の顔を見たのも久しぶりだったな)
御所を出る直前、陰陽寮の架茂光榮殿に会った。御所での鬼騒動以来顔を合わせるのは久しぶりだったが、なぜか俺の顔を見た途端に逃げるように足早に去ってしまった。その際、ギョッとしたような表情をしたのが気にかかる。しかも見る間に頬を真っ赤にした。
(光榮殿を言い含めてくれたのは師匠らしいが……)
光榮殿には御所での出来事を見られてしまっている。しかしその後、鬼に関することで呼び出されることはなかった。師匠が「俺がちぃっと言っておいたから大丈夫だ」と笑っていたが、いったい何をしたのだろう。
(……もしや、よからぬことをしたのでは)
師匠がまだ都にいて太刀を教えてくれていたときに話していたことを思い出した。
「偉そうにしている公卿も着物を脱げばただの男だ。普段偉そうにしているぶん、組み敷くのは楽しいぞ」
まさか光榮殿がその餌食になったとは思えないが、今後も師匠に訊ねるのはやめておこう。その後も屋敷の武士たちや女房たちに今後のことをあれこれと指示し、帝に挨拶申し上げた十日後ようやく都を出る準備が整った。
「体には充分気をつけて」
最後まで何か言いたそうな顔をしていた母上だったが、泣き崩れることはなく最後にこの言葉を頂戴した。何も言ってはいないが、これが今生の別れになるかもしれないと感じていたのかもしれない。
金花が「たまには文や土地の物を送りましょう」と言っているから、しばらくは縁が切れることはないだろう。兄上たちのほうは最後まで関白家の子息がとうるさく言っていたが、そういう言葉も聞けなくなるのかと思うと寂しく感じるから不思議なものだ。
こうして俺と金花は都を出た。三日ほどは近くの寺を回ったが、雪が本格的に積もる前にと東国へ向かうことにした。再びの二人旅もそうだが、新たな自分になるのかと思うと不安よりも楽しみだと思う気持ちのほうが強い。俺自身はそんなふうだというのに、何かあるたびに金花は「そう急がなくても」と眉尻を下げる。
(これで鬼の王の兄弟だというのだからなぁ)
金花はあまり鬼らしくなく、むしろ俺よりも人らしいところを見せるようになった。これも人の世に出て大勢の人を見聞きしたからだろうか。
仲間である鬼たちに疎まれ、山奥に棲み、“山の高貴なる畏怖”と呼ばれていた美しい鬼は、いま俺の隣を歩いている。これからもずっと隣にあり、死ぬまで共にあることだろう。そう願っている俺は、これから少しずつ鬼へと転じていく。それが誇らしくもあり、この美しい鬼を永遠に手にできるのだという喜びも感じていた。
「もうすっかり寒くなったなぁ」
「雪が積もれば道も険しくなるのでしょうね」
「山側の道は大変だろうから、まだ暖かい海側を行くか」
「海……」
ぽつりとつぶやいた言葉に、前回海を見てはしゃいでいた金花を思い出した。
「さすがに冬の海に入るのはやめたほうがいいぞ?」
「そのくらいのことわかっていますよ」
少し拗ねたように答えた白い肌は、気のせいでなければ少し赤くなっている。
「夏が来たら、今度は別の海に入ればいいさ」
「ふふ、そうですね」
ふわりと笑う金花にずぃと近づき、耳元に口を寄せて囁いた。
「また海の中でかわいがってやる」
「……っ」
ひくりと震えた肩にニヤリと笑いながら耳たぶをべろりと舐めて離れた。
「……段々と意地悪がひどくなっている」
目元を薄紅色に染めた姿は美しくもかわいらしく、こんなにも愛しいと思う金花とこの先も共にいられるのかと思うとたまらなく胸が疼いた。
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感想ありがとうございます。
鬼大好き! 同志! エアー拍手でブンブン振り回しております(笑)! 毎日……ありがとうございます。この話は自分でも驚く速さで書き上げたほど好きで、こうして同志の方を見つけるたびに喜んでいます。強い鬼攻めも好きですが、妖しい鬼受けもっと広がれ! と思ったり。こちらこそ読んでいただきましてありがとうございます!