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18.クリスの部屋

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「ここが私の部屋よ、セイカちゃん!」

 それならば私の部屋にと連れて来られたクリスの部屋は、姫系だ。白とピンクと金が基調だ。昨日のピンクのロリータ服は私に合わせただけではなくて、あなたの趣味も入っていたでしょうと言いたい。

「ゴシックかバロックかロココかと問われたら、ロココって感じの部屋ね」
「ごめん、セイカちゃん……全然分からないわ」
「私の部屋は無難にまとめられていたのね」
「……悪いな、お前の部屋の家具類は私が手配した。一つずつ選び直すか?」
「今のままで十分よ」
「あれ……今、私の部屋が無難ではないって言われたのかしら?」
「こちらに来る前にたくさん打ち合わせをしたからね、クリス。君らしくて私は好きだよ」
「アドルフ様……」

 フォローしようかと思ったけれど、する気が失せたわ。まぁでも……温かみもあって悪くはない。

「それで、ヴィンスは私を探してあそこに来たのよね。アドルフ様も同じ件で?」 
「ああ。勝手に号外を許可してすまなかった。話がまとまったのは夜中でね。すぐに動かなければ、今日には君の目撃者が聖女についての情報を売買してしまうかもしれないと危惧したんだ。昨日の時点で誰かが動いていてもおかしくはない。悪いとは思ったが――」
「いえ。そういった事情があったのなら仕方がないわ。王子様も大変なのね」
「はは」

 ということは、テオフィルスの中の人たちも夜中に仕事をしたのだろう。私が寝ている間に働いていた人たちがたくさんいたのね……。

「それで、えっと……あー、君への質問事項についてだけど……っ、と」
 
 突然歯切れが悪くなった。そしてヴィンスに足を蹴られたようだ。

「いや、その前に写真についてどう考えているか聞こうかな」

 ああ……なんとなく分かった。質問事項が既にテオフィルスから渡されているのだろう。断ったという特集で書きたいとされていた内容でもあるのかもしれない。こういった質問が今後も来るはずだと知らせたかったのかな。

 聖女への質問……面白い質問では、きっとない。

「……本題からでもいいわよ」

 そういえば、王子様にこの口調でいいのかしら。ですます口調のがよかった? ……今更変えにくいし、いっか……。

「いや、そこはヴィンスを通してあとで聞いてもらおう」

 苦笑しながらヴィンスを見ている。足を蹴られたせいね。

「写真について……、そうね。昨日着ていたあの手の服がないのは確かに寂しいわ。でも、お遊び気分でわざわざそんな服の写真を撮ってというのは、不謹慎でもあると自覚もしているわ。あんな魔獣が各地で現れ被害も出ているのよね。聖女とされる存在が浮ついていたらいけないとも思うわ」

 ヴィンスにひっそりと思ったことは言えるけど……、アドルフ様にまでそんなことについて考えてもらうのは恥ずかしい。

「セイカ嬢、私の考えを聞いてほしい」

 彼がわずかに微笑みを浮かべながら真正面から私を見据えた。

 腹黒そうだとは今まで何度も思ったけれど、穏やかな海のような青い瞳は澄んでいる。優しく見守るようなその眼差しを受けて、この人のことも信じていいのだろうなと感じた。同時に、国王陛下にはこの人が相応しいのだろうとも思う。

 ――自分たちのことを真剣に考えていると、国民に思わせられる人なんだろうな――と。

「君を学生時代の途中でこちらに喚んでしまったことはヴィンスから聞いている」
「……ええ」

 やっぱり魔女からではないのね。

「私とヴィンスは学生時代をもう終えた。君にはその若い時期を謳歌する権利もあると思っている」

 ……そういえば変な予言がクリスの地元にあるんだっけ? 気持ちのゆとりや生活に彩りがなければ浄化も上手くいかないとかで、聖女を注視するようにとの内容だったかしら。そのためなんでしょうけど。

「これからずっと君は聖女扱いをされてしまう。私たちでは役不足しかしれないが……この四人でいる時くらい、学生のように好きなことを言ってほしい。外に出してまずいことは漏らさない。その判断はできる。君だけではなくてね、私たちも息抜きをしたいんだ。こんな時だからこそね。付き合ってくれると嬉しいよ。君と、もう少し打ち解けたい」

 いい人ね……この人も。
 ヴィンスを見るとムスッとしている。クリスはニコニコだ。複雑ではないのかしらね。私だったら、ヴィンスが他の女性に「打ち解けたい」なんて言っていたら割り切れずに傷つきそうだ。

「そう。気を遣っていただけるのは、ありがたいわ」
「聖女らしくなんて考えなくていい。不謹慎だなんて気にしなくていい。駄目だと思ったら、責任を持って止めるから。この世界を守る君の自由は、私たちが守るよ。それくらいしかできないからね。君には君らしくいてほしい。……せめてね」

 私らしくなんて……私がどんな人なのか知りもしないくせに。でも、いいかな。ヴィンスのお兄さんだし、浄化が上手くいったのなら今後も付き合いは途絶えない。

 ……この雑談が終わったら、きっと憂鬱になる何かを聞かされるのだろう。

 前の世界ではアリスにだけ依存していた。一人に依存するのが、いいことだとは私も思ってはいない。気楽に話せる相手が他にいた方がいいことくらい分かっている。

 大丈夫、私にはヴィンスがいる。引かれたって構わない。深刻な話を聞く前に、少しだけお遊び気分にさせてもらおう。

「私の好きな服飾様式――ゴシックロリータの精神は退廃よ」

 ズバッと言い切る。

「光か闇なら闇。死に魅せられた少女が着る服。楽観より悲観、充足よりも虚無、誕生よりも終焉。世界の終わりは甘美な夢。その精神性の象徴よ」

 こうして、ゴスロリ談議を通じてアドルフ様との仲も……多少は深まったと思う。私についてどんな印象を持ったのかは分からない。ニコニコ楽しそうにしていたけれど――、やっぱり腹黒そうだものね。

 私と打ち解けるのも計算通りとか思われていたら癪だな、なんて感じてしまう私はひねくれすぎかしら。


【あとがき】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
次回より火曜・土曜の夜19時頃更新にさせていただきます。本作はそんなに長くはならず、おそらく7月頃には完結するかと思いますので、お付き合いいただけたら幸いです。
 
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