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前編 恋の自覚と両思い

44.スーパー異世界人ゴッドアリス爆誕

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「アリス、入ってもいい?」

 ノックのあとに、そう聞かれた。

「……どうぞ」
「なんで扉の前にいるの! びっくりしたなぁ」

 落ち着かなくて、扉の前と鏡台とを行ったり来たりしていたからだけど。

「なんとなく……」
「やっぱり可愛いね、白も似合うよね」
「……こっちの世界にもロリータとかゴスロリファッションってあるの?」

 ソファに移動しながら聞く。
 
 危なかった……レイモンドとベッドの上で過ごしすぎて、ベッドに行きそうだった……。レイモンドも部屋着だし、変な雰囲気にならないように気を付けないと。

「うーん、あそこまでのはないね。ペチコートであったりパニエだったりアイテム自体はあるけど。君が友人に借りていたゴスロリの雑誌みたいに、すごいのはないなー」
「一応聞くけど、ゴスロリって言葉は……」
「うん、俺以外には通じないよ」
「やっぱりそうなんだ」

 幼馴染の電波系の友人……名前は月城聖歌。ゴスロリ趣味があって一度読んでみてと雑誌を押し付けてきた。私には似合わないと思ったけど、世界観が独特で服も可愛いし、結構じっくり眺めていた気がする。

 ――あれも見られていたのかー……。

「ストーカー気質すぎる……」
「好きになったら一途だからさ、俺!」
「それ、一途っていうのかな……。というか、覗き見しすぎて引きこもりになっていたんじゃないの?」
「いやぁ、時間を捻出するのが大変だったよ。暇な時間の全てを突っ込んだね!」

 ソファで隣り合って座っているけど、間にあるわずかな距離に寂しくなってしまう。
 昼間に腕枕をされていたせいだ、絶対。

 ソファの横に重そうな袋を置いたけど、なんだろう。

「それで、聞きたいことは思いついた?」

 ぜんっぜん考えてなかった!
 鏡見たりとか今日のことを思い出したりとかしているだけだった!

「えっと……」

 なんか……あった? 今日気になったこと。ここまま、ないならもう行くねーって戻っちゃうのも寂しいし……。
 何か、何か……!

「何もない?」
「えーっと……あ! こっちの言葉で、元の世界の言葉に直すとどうなるのか、聞きたいのがあったんだった!」
「ああ……うん、いいよ」

 レイモンドが緊張した面持ちでこちらを見る。
 そ、そういえば……その場で思いついたのではなくて、きちんと改めてあっちの世界での言葉にして聞きたい単語を尋ねたことって、なかったかもしれない。
 漢字を教えてとお願いしたのは、家族と友達の聖歌の名前くらいだし……。

 ど、どうしよう、真剣な顔をしている……。
 でも、アレしか思いついていない……。

「なんでその言葉をって思うかもしれないけど……」
「いいよ、そのためにも君の国の言葉を覚えたんだ」

 言いにくい!!!

「すごく申し訳ない気分に苛まれているけど……言っちゃうね」
「ああ」
「スーパー異世界人ゴッドアリス爆誕って、元の世界ではなんて言うの」
「うぇー!? え、なんでそれなの!? え、本当になんでそれ? あれ、そんな流れだった!? そうだっけ!? 長いタメまでなかった!? その内容にしては前フリ長すぎだよね!」
「うっさいな。気になったんだから仕方ないじゃん。早く言ってよ」
「えー、仕方ないなぁ。¥$¢£%@#$アリス爆誕だよ。たぶんね。内容のわりに、かなり高度な翻訳だよね……」

 アリス爆誕しか聞き取れなかった……。つまり、スーパー異世界人ゴッドはこっちの言語に該当する単語を使って私は無意識に話しているのか……。それでもって爆誕に該当する言葉はない、と。レイモンド以外には使えないってことだよね。

「ありがと。すごく勉強になった。スーパーやゴッドは、ここの言葉なんだ?」
「え……ええ? すごく勉強になったの? いや……スーパーとかは違う大陸の言語がこっちに入ってきて、軽い言葉になっているね」

 ……なるほど。英語だと思っているのは違う大陸の言葉だったのか……。

「私は何語を話しているの」
「アルティモス語。ここはアルティモス大陸の南の国だ。だいたいは同じ言語だよ」
「スーパーやゴッドとかは?」
「ネフィロマ語。この大陸の西の方にある大陸名でもある。距離も近いし、こっちの大陸に言語が入ってきやすい。もちろん逆もね。もうここの言葉のように定着しているから、問題なく言語変換したらしいね」

 だったら、英語って言葉もネフィロマ語って言葉に変換しちゃえばよかったのに。でも、それだと日本語って言葉も変わるのか。日本って単語すら忘れるのは寂しいし、それはそれでいいのかな。法則性はよく分かんないけど、綻びは生じるよね。
 
 ……それにしても、用語の記憶が限界だ。
 あとで日記に書いておこう。
 忘れたらソフィたちに聞こう。

「最初から置いてあると疲れちゃうかなと思ったけど、そこの本棚に地理や歴史の本や辞書なんかも追加して置いてもらうね」
「……ありがと。なぜか絵本がいっぱい入っているなーとは思っていたけど」
「あはは、そうそう。誰もが知っている童話。知っておいた方がいいかなって思って。すぐ読み終わるし、それくらいなら寝る前にでもってさ。君の世界の桃太郎とか、それくらいに常識的なやつ」

 桃太郎……光樹が好きだった。たまにお母さんが大樹の給食エプロンのアイロンがけを忘れていたことに夜気付いた時なんかに、少しの間私が寝かしつけをしていた。桃太郎は何も見なくてもスラスラ話せるから、そんな時はいつもせがまれていた。
 ……お父さんは昔話、何も話せなかったからなぁ。

 勉強もしたいのに面倒だなぁって思っていたけど、もうそんな機会は二度とないんだ……。

「そっか、全部読んでおくね」
「無理はしなくていいからね。他にはある? 聞きたいこと」
「んっと、今日はもう頭がパンク状態だから……やめておこうかな」
「そうだよね。たくさんの人に会ったしね」
「うん……ね、レイモンドは一人称って、俺と僕と私で使い分けているの?」
「え……は、恥ずかしいこと聞くなぁ……」

 いまいちレイモンドの照れる基準が分からない。好きだとかは全く照れずに言っているのに。

「両親や気が知れた相手の前でも、さすがに僕だよね。公的な場や辺境伯の息子としての立場を利用している時は私を使うし。やっぱりシルビア先生とか、昔から知っている人の前だったりすると私にすべきなのかと思いながらも悩むよね……。子供の前ではお手本になれるように僕にしているけど、いきがっている時期もあったせいで俺に慣れちゃったっていうか……心の中では俺になっちゃっているんだ……」

 心の中ではそうなんだ。三つも使い分けるの、面倒くさそう……。
 あー、レイモンドの小さい頃が見たくなってきた! 完璧主義でいきがってて……全然想像ができない!

「もう質問がないなら……」

 行っちゃうのかな。そうだよね……寝る時間だよね。

「これだけ渡しておくね」

 レイモンドが、ソファの横に置いていた重そうな袋を目の前の机に置いた。
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