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後編 魔法学園での日々とそれから
116.またまた自己紹介
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「時間になりましたらホールに向かうので、こちらの出席表に丸をつけたら好きな場所にお座りくださいね」
既に教卓の前に立っている先生にそう言われる。深い緑の髪を後ろで束ねた地味な感じの女の先生だ。……眼光はなぜか鋭いけど。柔らかい口調でも、その目つきだけで生徒には舐められずにいられそうだ。
うん、胸が小さめなところは好感が持てるよね。私より大きい人ばかりで、だんだん気が滅入っていた。ユリアちゃんもすごいし。
……私、発想が駄目すぎるかな……。いや、心の中くらいいいよね。誰にも知られないし。
ダニエル様が前に出た。
「私は一番後ろに行く。後ろの席になった者に迷惑がかかりそうだからな……」
ダニエル様、めちゃくちゃ背も高くなっているし体も大きいもんね。
その近くに私たちも適当に座った。
ダニエル様の隣に座るジェニーを振り向き、「私……ここではなんて呼べばいいかしら」とひっそりと聞いてみた。
殊更に大きな声で彼女が言う。
「あら、いつも通りジェニーと呼んで、アリス。あなたは私の親友だもの。そう呼んでもらえないと寂しいわ」
ああ……周りの子に対して言っているのか。
「それなら、ありがたくジェニーと呼ばせていただくわ」
貴族多いもんね……今気付いたけど、なぜか立っていた教室の中の子たちが座り始めた。ダニエル様とジェニーが同じクラスだということは、掲示で皆分かっている。好きな席に座ってもらおうと待っていたんだ。
序列が……序列が怖い!!!
全員が席に着くと、先生が自己紹介とクラス担任であること、これからホールへ行き入学式を行ってまた戻ってくることなどを説明した。
先生もいるし、雑談もほとんどなくホールへと移動する。一年生用の列に並び用意されている椅子に座ったり立ったりなどして学園長の挨拶、在校生の挨拶と続いたものの……全ては新入生代表のダニエル様にその場の空気をもっていかれた気がする。
堂々とした威厳のあるその声は、それだけで平伏したくなる。襟元に留められた魔道具で響くようにされているようで、より声が通る。
命を捧げて仕えたくなるような強いカリスマ性があるよね。こんな人とジェニーはいつかイチャイチャするんだ……。
下世話なことを考えながら、式は終わった。
◆◇◆◇◆
教室に戻ると、席に名前が書かれた紙が置かれていた。それに従って席に着く。いまいち順番の理由は分からないけれど、ダニエル様が一番後ろだし、背の高さも加味はされている気がした。
あらかじめ大体は決めておきながら、出席表に丸をつけていた時に確定させていったのかな。
レイモンドは窓際でダニエル様の隣だ。背も高くなったからなぁ。うーん、百八十センチあるかないかくらい? 背の高さを測る機会がないから分からないな。
「それでは、一人ずつ自己紹介をお願いします」
先生の言葉に、右前の人から順に名前と一言を足していく。私は真ん中の列でユリアちゃんの次だ。
「フルール・ドレイユです。保育科に興味があり、こちらに参りました。よろしくお願いしますわ」
あ……あの子、保育科志望なんだ。
男爵家のお嬢さんだ。麻酔薬の発見によって一代限りの男爵位をもらった家。その実験のために祖父母と母親すら亡くしているというダークな過去をお持ちの女の子だ。肩より少し長い、薄い金の髪をしている。
「ユリア・エマラシカです。ラハニノス出身です。魔道具製造に興味があります。よろしくお願いします」
自己紹介での話し方で、貴族か貴族ではないのかが分かるよね……。ユリアちゃんの右隣の女の子も平民っぽかったし、平民出身は比較的前の方にいるのかな。カルロスがレイモンドの前にいるのは……同じく背が高いから? フルールは小さいから前なのかもしれない。
さて、次は私の番だ。
「アリス・バーネットです。同じくラハニノス出身で、ユリアさんとも顔見知りですの。受験の日……最後の試験で皆様に勝手に光魔法を送り込んでしまいました。もしいきなりで驚かれていたのなら、申し訳なかったですわ。保育科に興味を持っています。よろしくお願いしますわ」
長かったかな……まぁ、いいや。
どうせ人の自己紹介なんて、皆たいして聞いていないでしょ。
右隣に座るオリヴィア・レスビナスと名乗った伯爵家のお嬢さんが知ってる知ってるという顔をするので、とりあえず微笑んでおいた。
どうしてこのご令嬢……髪の毛がレインボーなんだろう。染めてるよね、きっと。
私の後ろのジェニーが自己紹介をすると、左列に移りまた前から進んでいく。次は私の隣の男性だ。
「メイザー・アレオンです。戦術学科に入る予定です。このクラスは美しい女性が多いですね。授業に身が入らなくなりそうだ。気を付けますよ」
胡散臭い!!!
カルロスに初対面でそう思ったことを謝りたい。コイツこそ胡散臭い!
しかし……メイザーって!
近衛騎士副団長の息子じゃん!
伯爵家のご令息でもあるのに、どうしてこんなふうに育ってしまったのか……。
あ、私の左の席にいるから思いっきり見上げたら目が合っちゃった……しかも微笑まれちゃった……どう反応したら……。うーん、呆れたような目で笑って、肩でもすくめておこう。
赤い髪に金の瞳。後ろからだとカルロスと間違えてしまいそうだ。前髪はこっちのが長いし、イケメンだけどタラシっぽい。
メイザーの次がダニエル様で、また左の窓際の列へ。同じく保育科に興味があるというダミアンという男性のあとにカルロス、最後がレイモンドだ。
「ラハニノス出身のレイモンド・オルザベル。同じクラスのアリス嬢と婚約をしている。受験日に協力してくれた人の顔もあるね、ありがとう。改めてお礼を言わせてもらうよ。来年度も同じになりそうな人もいるけど、一年よろしく」
どっから突っ込めばいいの!
アリス嬢って言われたし。こういう場でだから? 婚約の話にも言及されたし!
こうやってハタから見ると、レイモンドっていつもの印象とは違うな。初対面の時はこうだったかな。
ヘラヘラして軽そうなのに、赤い瞳がギラギラしてキレたら怖そうにも見える。線は細いのに荒くれって言われても納得できるような……知らないうちに死刑とかガンガン執行していても納得しちゃう雰囲気を持ってるよね。
そっか、気付かないうちに前以上に危ない空気感をまとっていたのか……。私、こんな人とイチャイチャしていたんだっけ……?
視線が合って甘い笑顔を向けられる。私にとっては、こっちがいつものレイモンドだ。
クラスでそれは痛々しいからやめてと思いつつ、私も微笑み返しておいた。
既に教卓の前に立っている先生にそう言われる。深い緑の髪を後ろで束ねた地味な感じの女の先生だ。……眼光はなぜか鋭いけど。柔らかい口調でも、その目つきだけで生徒には舐められずにいられそうだ。
うん、胸が小さめなところは好感が持てるよね。私より大きい人ばかりで、だんだん気が滅入っていた。ユリアちゃんもすごいし。
……私、発想が駄目すぎるかな……。いや、心の中くらいいいよね。誰にも知られないし。
ダニエル様が前に出た。
「私は一番後ろに行く。後ろの席になった者に迷惑がかかりそうだからな……」
ダニエル様、めちゃくちゃ背も高くなっているし体も大きいもんね。
その近くに私たちも適当に座った。
ダニエル様の隣に座るジェニーを振り向き、「私……ここではなんて呼べばいいかしら」とひっそりと聞いてみた。
殊更に大きな声で彼女が言う。
「あら、いつも通りジェニーと呼んで、アリス。あなたは私の親友だもの。そう呼んでもらえないと寂しいわ」
ああ……周りの子に対して言っているのか。
「それなら、ありがたくジェニーと呼ばせていただくわ」
貴族多いもんね……今気付いたけど、なぜか立っていた教室の中の子たちが座り始めた。ダニエル様とジェニーが同じクラスだということは、掲示で皆分かっている。好きな席に座ってもらおうと待っていたんだ。
序列が……序列が怖い!!!
全員が席に着くと、先生が自己紹介とクラス担任であること、これからホールへ行き入学式を行ってまた戻ってくることなどを説明した。
先生もいるし、雑談もほとんどなくホールへと移動する。一年生用の列に並び用意されている椅子に座ったり立ったりなどして学園長の挨拶、在校生の挨拶と続いたものの……全ては新入生代表のダニエル様にその場の空気をもっていかれた気がする。
堂々とした威厳のあるその声は、それだけで平伏したくなる。襟元に留められた魔道具で響くようにされているようで、より声が通る。
命を捧げて仕えたくなるような強いカリスマ性があるよね。こんな人とジェニーはいつかイチャイチャするんだ……。
下世話なことを考えながら、式は終わった。
◆◇◆◇◆
教室に戻ると、席に名前が書かれた紙が置かれていた。それに従って席に着く。いまいち順番の理由は分からないけれど、ダニエル様が一番後ろだし、背の高さも加味はされている気がした。
あらかじめ大体は決めておきながら、出席表に丸をつけていた時に確定させていったのかな。
レイモンドは窓際でダニエル様の隣だ。背も高くなったからなぁ。うーん、百八十センチあるかないかくらい? 背の高さを測る機会がないから分からないな。
「それでは、一人ずつ自己紹介をお願いします」
先生の言葉に、右前の人から順に名前と一言を足していく。私は真ん中の列でユリアちゃんの次だ。
「フルール・ドレイユです。保育科に興味があり、こちらに参りました。よろしくお願いしますわ」
あ……あの子、保育科志望なんだ。
男爵家のお嬢さんだ。麻酔薬の発見によって一代限りの男爵位をもらった家。その実験のために祖父母と母親すら亡くしているというダークな過去をお持ちの女の子だ。肩より少し長い、薄い金の髪をしている。
「ユリア・エマラシカです。ラハニノス出身です。魔道具製造に興味があります。よろしくお願いします」
自己紹介での話し方で、貴族か貴族ではないのかが分かるよね……。ユリアちゃんの右隣の女の子も平民っぽかったし、平民出身は比較的前の方にいるのかな。カルロスがレイモンドの前にいるのは……同じく背が高いから? フルールは小さいから前なのかもしれない。
さて、次は私の番だ。
「アリス・バーネットです。同じくラハニノス出身で、ユリアさんとも顔見知りですの。受験の日……最後の試験で皆様に勝手に光魔法を送り込んでしまいました。もしいきなりで驚かれていたのなら、申し訳なかったですわ。保育科に興味を持っています。よろしくお願いしますわ」
長かったかな……まぁ、いいや。
どうせ人の自己紹介なんて、皆たいして聞いていないでしょ。
右隣に座るオリヴィア・レスビナスと名乗った伯爵家のお嬢さんが知ってる知ってるという顔をするので、とりあえず微笑んでおいた。
どうしてこのご令嬢……髪の毛がレインボーなんだろう。染めてるよね、きっと。
私の後ろのジェニーが自己紹介をすると、左列に移りまた前から進んでいく。次は私の隣の男性だ。
「メイザー・アレオンです。戦術学科に入る予定です。このクラスは美しい女性が多いですね。授業に身が入らなくなりそうだ。気を付けますよ」
胡散臭い!!!
カルロスに初対面でそう思ったことを謝りたい。コイツこそ胡散臭い!
しかし……メイザーって!
近衛騎士副団長の息子じゃん!
伯爵家のご令息でもあるのに、どうしてこんなふうに育ってしまったのか……。
あ、私の左の席にいるから思いっきり見上げたら目が合っちゃった……しかも微笑まれちゃった……どう反応したら……。うーん、呆れたような目で笑って、肩でもすくめておこう。
赤い髪に金の瞳。後ろからだとカルロスと間違えてしまいそうだ。前髪はこっちのが長いし、イケメンだけどタラシっぽい。
メイザーの次がダニエル様で、また左の窓際の列へ。同じく保育科に興味があるというダミアンという男性のあとにカルロス、最後がレイモンドだ。
「ラハニノス出身のレイモンド・オルザベル。同じクラスのアリス嬢と婚約をしている。受験日に協力してくれた人の顔もあるね、ありがとう。改めてお礼を言わせてもらうよ。来年度も同じになりそうな人もいるけど、一年よろしく」
どっから突っ込めばいいの!
アリス嬢って言われたし。こういう場でだから? 婚約の話にも言及されたし!
こうやってハタから見ると、レイモンドっていつもの印象とは違うな。初対面の時はこうだったかな。
ヘラヘラして軽そうなのに、赤い瞳がギラギラしてキレたら怖そうにも見える。線は細いのに荒くれって言われても納得できるような……知らないうちに死刑とかガンガン執行していても納得しちゃう雰囲気を持ってるよね。
そっか、気付かないうちに前以上に危ない空気感をまとっていたのか……。私、こんな人とイチャイチャしていたんだっけ……?
視線が合って甘い笑顔を向けられる。私にとっては、こっちがいつものレイモンドだ。
クラスでそれは痛々しいからやめてと思いつつ、私も微笑み返しておいた。
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