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後編 魔法学園での日々とそれから

117.帰宅

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 キョロキョロと周囲を見回して、他の生徒がいなくなったのを確認すると寮の皆に愚痴る。

「はー、疲れた疲れた疲れたぁ~!」
「アリス……新しい門出を迎えて第一声がそれなの……」

 第一声って、今の今までジェニーの護衛兼メイドさんも実は寮の近くに今だけ住んでいる話とかしてたじゃん……。
 どうして住み込みにしていないのかは謎だ。魔女さんがいれば内部は鉄壁の守りだし、外の見張り重視なのかな。さすがに外まで気にするほど魔女さんも特定の人間に肩入れはしないよね。管理人の肩書きにしている以上、中にいる間は守ってくれる気がするけど。

 ほとんどの学生は、門を出たら左方向へ進んでいく。寮もそちらの方向に集まっているし、神風車を停める場所もそちら側だ。広い道も多く、貴族の屋敷や王宮へと続いていく。

 トントンと皆で青空の下、階段を降りながらジェニーが振り向きがてら優しく笑う。

「ふふ。でも、アリスらしくなったわね。こっちのアリスを知っていると、学園ではなんでもない話の最中でもつい頑張ってと応援したくなってしまうわ」
「あ、分かります! こちらのアリスさんを私は知っているんだっていう特別感まで持っちゃいます」
「そうよね~、アリスにはまりそう……」
「その特別感、俺だけが持っていたんだけどなー」

 え……皆、そんな気分で私を……。

 ユリアちゃんには少しそんな気もしたけど。帰りに「ご一緒しませんこと?」って教室で聞いたら、ぽわぁーって顔をしていたから。
 
「俺も、クラスでのアリス様にはドキリとしますね」
「はぁ!? やめてよ、俺のアリスだからね」
「それはもう存じていますよ。学園で学べることは全部学んで、いずれお二人に貢献できたらと思いますね」
「……確かに特別感はあるな……」

 え。ダニエル様、ジェニーの隣でそれは言っちゃ駄目でしょ。まさかダニエル様までそんな……。

 変な空気になっちゃったじゃん。

「私のお父さんになった気分になる……?」
「そんな歳ではないだろう。兄だな。なぜ私には弟ばかりで妹がいないんだという気分になるな」
「ねぇ、ダニエルお兄様。私、早くジェニファーお姉様と姉妹になりたい。いつ結婚するのかしら」
「……やっぱりいなくてもいいな」

 ドッと皆が笑う。
 よかった、なんとか空気が和らいだ。もう話題を変えよう。

「そういえば、あの席順はどうやって決めたんだろう。意味が分かんなかったけど」
「んー? 言いにくいけど、ダニエルを守る布陣じゃない? ないだろうけどさ、外から狙われたら俺が守れ的な。カルロスとメイザーも一緒に囲んでいるし。平民出身者も一人は近くにいた方が捨て駒として期待できるよね。ダニエルが命令もしやすい。廊下側はまぁ、そんなに警戒する必要もないだろうけど、アリスも布陣の一人としてカウントはされているかもね。廊下側の人間に犠牲になってもらっている間に強力な光魔法でバリアを張ってもらおうって」

 そ……そんな裏事情が……。

「王子は三人もいるしね。平和な世の中だし国家転覆も狙いにくいし、そこまで変なのは予め存在ごと消されているだろうし、何もないよ。ダニエルだけで異常に強いから守る必要もないけど、立場が立場だけに仕方ないよね。平民は学力が劣っていることも多いから見やすい場所に配置しようとか色々加味されているかもしれないけど、どうせ一年だけだ。学科が分かれればまた違うし、結構適当でしょ」
「はぁ……レイモンド、お前は言葉にしにくいことを平気でポンポンと……」
「俺はアリスにだけ誠実なんだ」
「察して、あとでレイモンドと二人の時に聞けばよかったな……」
「あ、隠れ家に寄ってく?」

 隠れてなーい!!!
 めっちゃ堂々と言ってるし。まぁ、ダニエル様には確実に知られているどころか手配までお願いしたらしいけど。

 うーん、確かにそろそろ分岐点だ……。

「んっと……」
「まだ話足りないこともあるかな。俺は少しハンスに話があるから、寄っていくね」
「おい、レイモンド。またあとで会うだろうが、伝えておく。明日の神風車はこちらで用意する」
「ありがとう、よろしくね。じゃ」

 あ……行っちゃった……。
 迷ってたのに。もう少し待ってくれたって……でも、もう寮に着いちゃうか……。

「そんなに寂しそうな顔をしないで、アリス」

 ダニエル様の横にいたジェニーが、私の隣に移動してくれる。

「依存してるよね……私」

 レイモンドがいないだけで不安で仕方なくなる。自分から離れるなら心積もりがあるから大丈夫だけど……。

「甘えているわね、可愛いじゃない。ほら、楽しい話をしましょう。明日の入学パーティーは、皆で行きましょうね」
「あ、うん。神風車までありがとう、ダニエルさん」
「構わない。ついでだ」

 ここは階段も多いし道もそこまで広くはない。神風車でびゅーん、だ。ダニエル様がいれば飛び放題だ。
 
 普通の寮にも乗合神風車が用意されているらしい。さすがにドレスでずっと歩きたくはないもんね。明日は寮にメイドなりなんなり人も呼べる。そうして、広い道を風魔法で馬車のように地面の上を走らせて御者が連れてくるようだ。

 魔法があると馬車は必要ないよね……。安定して飛べる人が多くはないことから、郊外の農地から野菜の出荷に来る農民なんかは、馬車を使うようだ。業者への受け渡し場所や朝市を行なっている場所までは平坦な道らしい。

「ユリアちゃんたちも行くんだよね」
「そう……ですね。小ホールにしか行かないつもりですが、隣に座っていたレオニーさんと行くことを約束はしました」

 大ホールには貴族が集まる。いかにもな社交場らしい。小ホールには平民が集まる。もちろん決まりはないし自由参加でもある。どちらがどちらに行ってもいいものの……分かれてしまうのは致し方なし、かな。

 約束のことは知っていた。帰る前に二人が話していたから、ジェニーと会話をしながらもこっそりと聞いていた。彼女――レオニーも、思った通り平民だ。

「そっかぁ、そっちにも行ってみたいなぁ」
「ぜひ来てください。レイモンド様なら付き合ってくれますよ」
「うーん、覗いちゃおっかなぁー」

 話しながら、カナリア寮へ「ただいまー」と戻る。相変わらずの妖艶な魔女さんが、赤い姿で笑顔と共に待っていてくれた。

「お帰りなさぁ~い」

 私の家だ!
 そんな気持ちになって、ほっとした。

 
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