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後編 魔法学園での日々とそれから
183.雑談会からの
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夏になり、今日はジェニーたちとの雑談会だ。学園を卒業してからずっと続いている。もしかしたら、お父様たちも前国王様たちと雑談していたのかな……。
子供たちの成長に伴い、会い方も変わっていった。一人目の子供が小さい時期は、互いの子を連れてしか会わなかった。今は私たちだけで会うことも多く、通常なら今回もその予定だったけれど……。
今日はレイモンドとセドリックと私の三人だ。
「こちらで両陛下とステファニー様がお待ちです」
「ああ、ありがとう」
三人で、案内された貴賓室に入る。金と真紅に彩られた高級感のある部屋だ。
「よく来てくれたな。待っていた」
相変わらずのダニエル様だ。
服の上からでも未だ胸筋がすごいことが分かる。ものすごい迫力の国王陛下になったものだよね。
「本日もお会いできる機会を賜り、ありがたく思います」
子供連れの時はレイモンドもこうなる。
寂しいよね、やっぱり。
「アリス、会いたかったわ。セドリックも見るたびに立派になるわね」
ジェニーも四十歳を越えているはずなのに、めちゃくちゃ色っぽい。たぶん私の方がおばさん感が出てしまっているよね……。頑張って太らないようにはしているけど。
「ありがとうございます。まだ学ばねばならないことがたくさんある身ですが、期待に添えるよう力を尽くします」
うんうん、我が息子ながらいい男だ。
私もしゃべらないと。
「私もお会いしたかったですわ。ステファニー様も、とてもお美しくなられましたね。結婚式が待ち遠しいですわ」
ジェニーの長女ちゃんのステファニーは、髪がダニエル様と同じで緑という以外の見た目はジェニーそっくりだ。大人しくて品がいいけど色っぽい子という印象だよね。
「ありがとうございます。私もとても楽しみですわ。早くお義母様とお呼びしたいです」
「あら、とても嬉しいわ。私も今すぐ呼ばれたくて仕方がないの。だって……ふふ、若い時のジェニファー様にそっくりだもの。早く家族になりたいわ」
何度も会っているのでこれくらいの軽口は叩ける。
「では、来てもらってすぐに悪いが早めに決めたいことも多い。しばらくはセドリックを借りる。すまないな、レイモンド」
「いえ、多くをお任せして申し訳ありませんが、息子を頼みます」
「ああ」
ダニエル様の言葉を受けて、控えていた使用人が二人を連れていく。
さすがにジェニーたちの娘ちゃんとの結婚となると、ここで執り行われる。祝福を願う儀式やらなんやらもあるからで、今日からその打ち合わせだ。ステファニーの卒業を待って半年後の予定だ。早すぎる気もするけれど、二人とも遠距離すぎる恋愛に耐えられないらしい。
準備も今からたくさんあって、学園が夏休みの間はセドリックをここに置いておき、最終日にレイモンドが白薔薇邸に出口をつくって召喚でまた戻す手筈になっている。
ちなみに……私たちの領土でも祝宴も開き、空の上を手を振りながら凱旋もしてもらう。えらいこっちゃだ。
「では、私たちも行こう。緊急時には呼べ。魔女を通してすぐに戻る」
「かしこまりました」
残っていた使用人にダニエル様がそう言うと、隅に置いてあった袋を持ってきて――。
「魔女、準備はできた」
「分かったわぁ」
突然現れた魔女さんと、予定通り私たちはワープをした。
◆◇◆◇◆
「はー……疲れたな。少し休もう」
森のコテージ。
春に水晶球を見て私が号泣した場所で、ダニエル様が簡素な背もたれに体を預ける。
「だよね。俺だってダニエル相手にあの口調は疲れるよ」
「聞く方だって疲れる。気持ち悪いからな」
「俺だって気持ち悪いのを堪えているのにさー」
「もう、いいんじゃないか。いつも通りで」
「息子の前でそれは俺の威厳がなくなりすぎるよね。ダニエルだって無理してるじゃないか」
「お前が無理するからだ」
完全にプライベートのレイモンドに戻っている。
「準備ができたら呼んでねぇ~?」
「ごめんなさい。魔女様をこんなふうに使ってもいいのかしら……」
「最近は便利アイテムにされることはなかったものねぇ~。アリスちゃんの心持ちが少し変わったようね?」
「アリスの?」
「それじゃ、私は行くわねぇ~」
魔女さんが一瞬で消えて、皆が私を見る。
レイモンドは分かっているけどね。
「人間はね、いつか死ぬの!」
机を平手でポンと叩く。
「……その口調のアリス、久々すぎるほどに久々ね。まだそうだったの」
普段は給仕してくれる使用人さんもいる手前、口調だけは気を付けているしね。気安い関係だと知られてはいるし、会話内容自体は砕けている。人払いされなかったのは、私とレイモンドの魔法の才能が規格外であることも知られているし、護衛さんが頷かなかったのだろうと思ってはいる。
「魔女さんに頼ってばかりではいけないと思っていたし、子供には魔女さんがいる前提の暮らしにならないように会わせないようにしていたけど……私は会っちゃったわけだし。死ぬまでの思い出づくりに協力してもらおうと考え方を変えたの」
「そ……そう……。それで、こうなったのね」
「時間を捻出するのは大変だと思うけど……魔女さんが許してくれる限り、年に一度くらいは遊びたいなーって」
「ふふ、アリスらしいわね。どれだけの年月が経っても、アリスは可愛らしいままね」
「さすがにそれは……無理があると思うけど……」
心は若いままなのに、鏡を見ると「誰だ、このマダムは」と思うことがたまにある。
「大丈夫、大丈夫。アリスはまだ可愛いよ」
「昔の面影を今の私に見ているだけでしょ。今知り合ったら、ただのおばさんに足突っ込んでる人だと思う」
「アリス……ここまで変わらなかったのね……」
「アリス嬢、安心しろ。お前は今でも可愛らしい」
「え……国王様がそう言うならそうなのかな。いや、からかってるよね。ダニエル様ってからかう人だったの。そうだっけかな……」
「お前はその歳になってもまだ私を茶化すのか……あと、様はいらんと言っただろうが」
「どれだけ昔の話を持ち出すの。あと、歳のことは言わないで!」
「お前が言い出したんじゃないか」
そうだった?
ダニエル様……普段は私のことをアリス夫人って呼んでいるのに。まぁ、この場では呼びにくいか。ここでは本当に四人きりで使用人も護衛もいない。全て昔のままでいこう。
「じゃ、ダニエルさんとジェニー、今日は二十年以上ぶりの雪辱を果たしてみせるから!」
「はいはい。それじゃ、着替えましょうか」
ジェニーがそう言うと、二人とも立ち上がる。
「じゃ、俺たちもこの部屋の外で着替えて待っているから。声をかけてよ」
さて!
ものすごい年月ぶりのジェニーとの二人っきり時間だ! それだけでウキウキするよね!
子供たちの成長に伴い、会い方も変わっていった。一人目の子供が小さい時期は、互いの子を連れてしか会わなかった。今は私たちだけで会うことも多く、通常なら今回もその予定だったけれど……。
今日はレイモンドとセドリックと私の三人だ。
「こちらで両陛下とステファニー様がお待ちです」
「ああ、ありがとう」
三人で、案内された貴賓室に入る。金と真紅に彩られた高級感のある部屋だ。
「よく来てくれたな。待っていた」
相変わらずのダニエル様だ。
服の上からでも未だ胸筋がすごいことが分かる。ものすごい迫力の国王陛下になったものだよね。
「本日もお会いできる機会を賜り、ありがたく思います」
子供連れの時はレイモンドもこうなる。
寂しいよね、やっぱり。
「アリス、会いたかったわ。セドリックも見るたびに立派になるわね」
ジェニーも四十歳を越えているはずなのに、めちゃくちゃ色っぽい。たぶん私の方がおばさん感が出てしまっているよね……。頑張って太らないようにはしているけど。
「ありがとうございます。まだ学ばねばならないことがたくさんある身ですが、期待に添えるよう力を尽くします」
うんうん、我が息子ながらいい男だ。
私もしゃべらないと。
「私もお会いしたかったですわ。ステファニー様も、とてもお美しくなられましたね。結婚式が待ち遠しいですわ」
ジェニーの長女ちゃんのステファニーは、髪がダニエル様と同じで緑という以外の見た目はジェニーそっくりだ。大人しくて品がいいけど色っぽい子という印象だよね。
「ありがとうございます。私もとても楽しみですわ。早くお義母様とお呼びしたいです」
「あら、とても嬉しいわ。私も今すぐ呼ばれたくて仕方がないの。だって……ふふ、若い時のジェニファー様にそっくりだもの。早く家族になりたいわ」
何度も会っているのでこれくらいの軽口は叩ける。
「では、来てもらってすぐに悪いが早めに決めたいことも多い。しばらくはセドリックを借りる。すまないな、レイモンド」
「いえ、多くをお任せして申し訳ありませんが、息子を頼みます」
「ああ」
ダニエル様の言葉を受けて、控えていた使用人が二人を連れていく。
さすがにジェニーたちの娘ちゃんとの結婚となると、ここで執り行われる。祝福を願う儀式やらなんやらもあるからで、今日からその打ち合わせだ。ステファニーの卒業を待って半年後の予定だ。早すぎる気もするけれど、二人とも遠距離すぎる恋愛に耐えられないらしい。
準備も今からたくさんあって、学園が夏休みの間はセドリックをここに置いておき、最終日にレイモンドが白薔薇邸に出口をつくって召喚でまた戻す手筈になっている。
ちなみに……私たちの領土でも祝宴も開き、空の上を手を振りながら凱旋もしてもらう。えらいこっちゃだ。
「では、私たちも行こう。緊急時には呼べ。魔女を通してすぐに戻る」
「かしこまりました」
残っていた使用人にダニエル様がそう言うと、隅に置いてあった袋を持ってきて――。
「魔女、準備はできた」
「分かったわぁ」
突然現れた魔女さんと、予定通り私たちはワープをした。
◆◇◆◇◆
「はー……疲れたな。少し休もう」
森のコテージ。
春に水晶球を見て私が号泣した場所で、ダニエル様が簡素な背もたれに体を預ける。
「だよね。俺だってダニエル相手にあの口調は疲れるよ」
「聞く方だって疲れる。気持ち悪いからな」
「俺だって気持ち悪いのを堪えているのにさー」
「もう、いいんじゃないか。いつも通りで」
「息子の前でそれは俺の威厳がなくなりすぎるよね。ダニエルだって無理してるじゃないか」
「お前が無理するからだ」
完全にプライベートのレイモンドに戻っている。
「準備ができたら呼んでねぇ~?」
「ごめんなさい。魔女様をこんなふうに使ってもいいのかしら……」
「最近は便利アイテムにされることはなかったものねぇ~。アリスちゃんの心持ちが少し変わったようね?」
「アリスの?」
「それじゃ、私は行くわねぇ~」
魔女さんが一瞬で消えて、皆が私を見る。
レイモンドは分かっているけどね。
「人間はね、いつか死ぬの!」
机を平手でポンと叩く。
「……その口調のアリス、久々すぎるほどに久々ね。まだそうだったの」
普段は給仕してくれる使用人さんもいる手前、口調だけは気を付けているしね。気安い関係だと知られてはいるし、会話内容自体は砕けている。人払いされなかったのは、私とレイモンドの魔法の才能が規格外であることも知られているし、護衛さんが頷かなかったのだろうと思ってはいる。
「魔女さんに頼ってばかりではいけないと思っていたし、子供には魔女さんがいる前提の暮らしにならないように会わせないようにしていたけど……私は会っちゃったわけだし。死ぬまでの思い出づくりに協力してもらおうと考え方を変えたの」
「そ……そう……。それで、こうなったのね」
「時間を捻出するのは大変だと思うけど……魔女さんが許してくれる限り、年に一度くらいは遊びたいなーって」
「ふふ、アリスらしいわね。どれだけの年月が経っても、アリスは可愛らしいままね」
「さすがにそれは……無理があると思うけど……」
心は若いままなのに、鏡を見ると「誰だ、このマダムは」と思うことがたまにある。
「大丈夫、大丈夫。アリスはまだ可愛いよ」
「昔の面影を今の私に見ているだけでしょ。今知り合ったら、ただのおばさんに足突っ込んでる人だと思う」
「アリス……ここまで変わらなかったのね……」
「アリス嬢、安心しろ。お前は今でも可愛らしい」
「え……国王様がそう言うならそうなのかな。いや、からかってるよね。ダニエル様ってからかう人だったの。そうだっけかな……」
「お前はその歳になってもまだ私を茶化すのか……あと、様はいらんと言っただろうが」
「どれだけ昔の話を持ち出すの。あと、歳のことは言わないで!」
「お前が言い出したんじゃないか」
そうだった?
ダニエル様……普段は私のことをアリス夫人って呼んでいるのに。まぁ、この場では呼びにくいか。ここでは本当に四人きりで使用人も護衛もいない。全て昔のままでいこう。
「じゃ、ダニエルさんとジェニー、今日は二十年以上ぶりの雪辱を果たしてみせるから!」
「はいはい。それじゃ、着替えましょうか」
ジェニーがそう言うと、二人とも立ち上がる。
「じゃ、俺たちもこの部屋の外で着替えて待っているから。声をかけてよ」
さて!
ものすごい年月ぶりのジェニーとの二人っきり時間だ! それだけでウキウキするよね!
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