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木漏れ日の願い
木漏れ日の願い・・・その19
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「冤罪で誤認逮捕されたのは私の父なんです」
「・・・」
「部屋で首を吊って死んでいる父を最初に見つけたのが私・・・そして、その瞬間、私の心も死んじゃいました」
紗耶香の言葉に倉根は視界に映る全ての景色が色あせていくかのように言葉を失くしてしまう。
「ふふっ。・・・そんなに気に病まなくてもいいんですよ」
「しかし・・・同じ刑事として言葉もありません」
「それよりも、自ら命を絶ったという刑事さん、かわいそうにただの死に損でしたね」
「いや・・・あの、それはちょっと・・・という言葉を言い返してはいけないんですよね」
「あら?珍しい事を言うんですね?ちょっと驚きました」
「えっ?」
「皆さん、言い返してきますよ。それはちょっと言い過ぎですとか、何も亡くなった人とそんな風に言うのはのエトセトラとかって」
「はあ・・・僕としては何とも・・・でも、それでさっきあんな風に言っていたんですね」
「冤罪として警察をという事ですか?」
「ええ・・・。よほど警察に何か恨みがあるのかな?と思ったものですから」
「ふふっ。・・・でも、正直、どうでもいいんですけどね。そんな事なんて」
「どうでもいいって・・・あの・・・」
「ただの言葉遊びです」
いや~・・・どうみても、ただの言葉遊びとは思えなかったんだけどな~僕としては。
だって、突き落として差し上げようと・・・なんて、ただの言葉遊びで言うだろうか?
「でもね、容疑者の男の人が殺人の罪で起訴されて、裁判になって裁判官が殺人罪で裁いた後に、もし、私があの事件が実は・・・って、言いだしたら面白いかもしれませんよね」
「いや・・・それは・・・」
「私がですよ?他の誰でもない私がですから。なにせ、私は過去に警察の冤罪で容疑者にされた男性の娘ですから、きっとマスコミもテレビも大騒ぎになっちゃうと思いません?」
「想像するだけで怖いですよ」
「何言ってるんですか?怖いんじゃなくて楽しいんですよ。その上、過去の冤罪事件を苦に自ら命を絶ってしまった刑事がいたなんて、日本全国でもう笑いが止まらなくなってしまいますよね!」
「いや、あの、紗耶香さん、それはいくら何でも言い過ぎだと思います」
「そう思うんなら時間を欲しいな。ついでに私の大好きだったお父さんを生き返らせて欲しいなって・・・駄目かしら?」
倉根はどことなく言い知れない怖さを感じてしまった。
声を荒げるわけなく、かといって反射的に言い返すように口をとがらせるわけでもない。
まるで知らぬ間に海水が増していく静かな津波のように言葉を口にする紗耶香の声音にである。
「すみません。そう言われてしまうと返す言葉が見つかりません」
「人が不幸になればなるほど面白くて仕方がないマスコミにテレビの世界。それを酒の肴に同情という旬の感情で良い人になれちゃう不思議な人間たち。世の中なんてそんなもんですから刑事さんが気に病むことなんてこれっぽちも無いんですよ」
「紗耶香さんの言いたい事は分かります。分かりますけど・・・でも・・・」
「それじゃあんまりって?」
「ええ・・・まあ・・・何と言うか身も蓋もないというか・・・」
「だから、先程、言ったじゃないですか?自ら命を絶った刑事さんは死に損だって」
「いや・・・あの・・・」
「いいですか?その刑事さんが何十回、何百回と命を絶ったとしても亡くなった私の父親は生き返ってはくれないんです。それだったら、他の刑事さんと同じ様に、別に命を絶たなくてもよかったのにって言われた方が私はよっぽど気が楽じゃないですか?」
「それは・・・あの・・・」
「そうしたら、私はそう言った刑事たちを憎めるし、生涯ずっと恨んで生きていけるじゃないですか?」
「でも、それは・・・えっ?」
「困るんですよね、そういうのって。大切な人を失った私には大切な人を失った人の悲しみが分かるから・・・。その刑事さんにも大切に思っている人がいたはずなのに、不幸な人を作って欲しくなかったって・・・だから困るんです」
どうして、自分と同じ悲しみを・・・
それは、誰が知る事もない、微かに香るだけでよかった紗耶香一人だけの想い。
大切な父親を死に追いやった一人の刑事の死。
たとへ、自ら命を絶って詫びたとしても決して許せるはずもない。
それなのに、紗耶香はその刑事にも大切な人がいたはずなのに・・・と。
おそらく予想外の言葉だったのだろう。思わず、有難う御座いますと言ってしまう倉根であった。
「・・・」
「部屋で首を吊って死んでいる父を最初に見つけたのが私・・・そして、その瞬間、私の心も死んじゃいました」
紗耶香の言葉に倉根は視界に映る全ての景色が色あせていくかのように言葉を失くしてしまう。
「ふふっ。・・・そんなに気に病まなくてもいいんですよ」
「しかし・・・同じ刑事として言葉もありません」
「それよりも、自ら命を絶ったという刑事さん、かわいそうにただの死に損でしたね」
「いや・・・あの、それはちょっと・・・という言葉を言い返してはいけないんですよね」
「あら?珍しい事を言うんですね?ちょっと驚きました」
「えっ?」
「皆さん、言い返してきますよ。それはちょっと言い過ぎですとか、何も亡くなった人とそんな風に言うのはのエトセトラとかって」
「はあ・・・僕としては何とも・・・でも、それでさっきあんな風に言っていたんですね」
「冤罪として警察をという事ですか?」
「ええ・・・。よほど警察に何か恨みがあるのかな?と思ったものですから」
「ふふっ。・・・でも、正直、どうでもいいんですけどね。そんな事なんて」
「どうでもいいって・・・あの・・・」
「ただの言葉遊びです」
いや~・・・どうみても、ただの言葉遊びとは思えなかったんだけどな~僕としては。
だって、突き落として差し上げようと・・・なんて、ただの言葉遊びで言うだろうか?
「でもね、容疑者の男の人が殺人の罪で起訴されて、裁判になって裁判官が殺人罪で裁いた後に、もし、私があの事件が実は・・・って、言いだしたら面白いかもしれませんよね」
「いや・・・それは・・・」
「私がですよ?他の誰でもない私がですから。なにせ、私は過去に警察の冤罪で容疑者にされた男性の娘ですから、きっとマスコミもテレビも大騒ぎになっちゃうと思いません?」
「想像するだけで怖いですよ」
「何言ってるんですか?怖いんじゃなくて楽しいんですよ。その上、過去の冤罪事件を苦に自ら命を絶ってしまった刑事がいたなんて、日本全国でもう笑いが止まらなくなってしまいますよね!」
「いや、あの、紗耶香さん、それはいくら何でも言い過ぎだと思います」
「そう思うんなら時間を欲しいな。ついでに私の大好きだったお父さんを生き返らせて欲しいなって・・・駄目かしら?」
倉根はどことなく言い知れない怖さを感じてしまった。
声を荒げるわけなく、かといって反射的に言い返すように口をとがらせるわけでもない。
まるで知らぬ間に海水が増していく静かな津波のように言葉を口にする紗耶香の声音にである。
「すみません。そう言われてしまうと返す言葉が見つかりません」
「人が不幸になればなるほど面白くて仕方がないマスコミにテレビの世界。それを酒の肴に同情という旬の感情で良い人になれちゃう不思議な人間たち。世の中なんてそんなもんですから刑事さんが気に病むことなんてこれっぽちも無いんですよ」
「紗耶香さんの言いたい事は分かります。分かりますけど・・・でも・・・」
「それじゃあんまりって?」
「ええ・・・まあ・・・何と言うか身も蓋もないというか・・・」
「だから、先程、言ったじゃないですか?自ら命を絶った刑事さんは死に損だって」
「いや・・・あの・・・」
「いいですか?その刑事さんが何十回、何百回と命を絶ったとしても亡くなった私の父親は生き返ってはくれないんです。それだったら、他の刑事さんと同じ様に、別に命を絶たなくてもよかったのにって言われた方が私はよっぽど気が楽じゃないですか?」
「それは・・・あの・・・」
「そうしたら、私はそう言った刑事たちを憎めるし、生涯ずっと恨んで生きていけるじゃないですか?」
「でも、それは・・・えっ?」
「困るんですよね、そういうのって。大切な人を失った私には大切な人を失った人の悲しみが分かるから・・・。その刑事さんにも大切に思っている人がいたはずなのに、不幸な人を作って欲しくなかったって・・・だから困るんです」
どうして、自分と同じ悲しみを・・・
それは、誰が知る事もない、微かに香るだけでよかった紗耶香一人だけの想い。
大切な父親を死に追いやった一人の刑事の死。
たとへ、自ら命を絶って詫びたとしても決して許せるはずもない。
それなのに、紗耶香はその刑事にも大切な人がいたはずなのに・・・と。
おそらく予想外の言葉だったのだろう。思わず、有難う御座いますと言ってしまう倉根であった。
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