【勇者の友人】~【勇者】のギフトの本体が、僕だった件について~戻って来いって言われたって、今更君たちを“友人”だとは思えないよ。

くーねるでぶる(戒め)

文字の大きさ
43 / 77

043 光柱

しおりを挟む
「……シ……ン……」

 クルトの傍に座り、己の無力を呪う私、リリーの耳に微かに響いた弱弱しい男の人の声。ハルトではありません。私は慌てて振り向くと、今にも閉じてしまいそうになりながらも必死に抗って震えている黒い瞳を見つけました。クルトです。クルトが目を覚ましました。

「リ……ク……ン……」

 クルトが私を見ながら必死に唇を動かしています。私は少し恥ずかしかったですけど、クルトの唇にくっついてしまうほど耳を近づけました。そうしないと聞き逃してしまいそうだったので、これは仕方のないことです。そう自分に言い訳して、限界まで近づいてクルトの顔に自分の顔を重ねます。

「………ション……」

 こんな時ですが、耳にクルトの吐息がかかってくすぐったいような変な気持ちでした。思わず漏れそうになる声を噛み殺してクルトの紡ぐ言葉を拾い集めます。

「リザレクション…?」

 私の紡いだ言葉にクルトが小さく頷くと、ガクッと落ちたかのように力が抜けて、先程まで懸命に開いていた瞳も閉じられてしまいます。まるで伝えるべきは伝えたといった満足げな顔です。

「リザレクション……」

 初めて聞いた言葉だと思います。リザレクション……いったい何なのでしょう?

 ですが、クルトがこの場面でいい加減なことを言うとも思えません。まだ出会ってすぐですが、クルトは信頼できる方だと思います。だって彼は主の寵愛が格別に深い方。だからきっと何か意味があるはずです。

「リザレクション……」

 詳細は分かりませんが、おそらく勇者による力だと思います。耳慣れない言葉の響きからして、おそらく魔法の言葉。問題は、どんな魔法かということですが……。

 魔法の発動にはいくつも方法がありますけれど、揃って大事なのは想像力だといいます。同じ環境、同じ人が同じ魔法を使っても、この想像力によって効果の強弱がまるで違うといいます。誰か、それこそ神様が頭の中を覗いて採点でもしているのでしょうか。あるいは、人の想う力というのは、それだけ大きな力を秘めているということかもしれません。そう考えると、なんだか素敵ですね。

 ですが、今はその想像力が足を引っ張っています。リザレクションがどんな魔法なのか分からない私には、何を想像すれば良いのかすら分かりません。一説によれば、想像の伴わない魔法は、本来の半分以下の効力しかないとか……。困りました。

 いっそのこと、今からクルトを起こして聞き出そうなんて考えも浮かんできます。半死人のような状態の人に鞭を打つようなマネはしたくないのですが……。いざとなればやらなくてはなりません。

「ふぅ……」

 それにしても、安らかな寝顔ですね。クルトはなにも心配事なんて無いかのように微笑を浮かべているようにさえ見えました。イザベルが死んでいるのに微笑? 私の中でなにかが引っ掛かります。なぜクルトはこの状況で笑うことができたのでしょうか? イザベルの死を知らなかっただけでしょうか? だとしたら、この魔法の呪文は何の為に…?

「まさ、か……」

 私の頭の中でなにかが弾けるような感覚がしました。弾けた欠片が頭の中で激しく渦巻いて竜巻を起こします。竜巻の中央に欠片が再度集まり、ある1つの仮説を形作っていきます。

 もし、クルトがイザベルの死を知っていたとしたら?

 クルトはイザベルの死んだ直後に笑えるような人ではありません。クルトはなぜ笑えたのでしょうか?

 クルトがイザベルの死という悪夢の中で笑うことができたのは、それは悪夢を根底からひっくり返す方法を知っていたからではないでしょうか?

 イザベルの死という悪夢をひっくり返す。イザベルの蘇生。

 蘇生なんて主の御業のようなマネが本当にできるかどうかなんて分かりません。でも、試す価値はあります。

 私は立ち上がるとイザベルの方を振り向きます。

「イザベル……」

 血の海に沈むイザベルは、とても痛々しく見えました。当然ですね、胸に穴が空いていますし、死んでいるのですから。血の気の無いイザベルの顔は、まるで作り物のようにすら感じて人間味がありませんでした。そんな風に見えるのは、私の弱い心がまだイザベルの死を受け入れられていないからでしょうか。

「覆す…!」

 私は目を瞑って想起します。元気なイザベルを、笑顔のイザベルを、怒った顔のイザベルを、照れた顔のイザベルを、冷たく突き離したような態度を取って、本当は人一倍仲間思いなイザベルを……。

「リザレクション…!」

 唱えた途端に、私の中のお腹の奥から全身に溢れる熱い力がスッと消え去るのを感じました。勇者を解除された時のような大きな喪失感を覚えて不安になります。

「ッ!?」

 しかし、その心配は杞憂でした。クルトに教えてもらった魔法の呪文リザレクションを唱えた直後、イザベルを中心に淡い緑色を帯びた白い光の柱が起立しました。イザベルの姿も白い光の洪水に飲み込まれ、眩しくて目も開けていられないほどです。

「なに!?」
「まぶしっ!?」
「いったいなにが!?」

 突然のことに驚くルイーゼたちの言葉を後ろに、私は指を組んで懸命に光に祈ります。どうか、イザベルを――。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...