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第二章

060 東へ

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 王都の東、王都を半周するように流れるテナウ川を渡ると、どこまでも見渡せる広大な平地が続いている。少し前までは見事な金色の海が広がっていたけど、今はもう皆刈り取られてしまい、茶色い大地が顔を出していた。

 赤茶けた大地を貫くように一直線に走るのは、馬車が余裕を持ってすれ違えるほど広い石畳の街道だ。イルクナー街道。王都の東の都市、イルクナーへと続く王国の大動脈だ。今日も朝早くから、多くの人と物が行き交っている。いくつも荷馬車が通り過ぎ、荷物を括り付けられたロバを引く者や、山のように荷物を背負った者も居る。中には冒険者のパーティなのか、武装したグループの姿も見えた。

 そんな人の群れの中を僕たち『融けない六華』は、時に冗談を交わしながら朝日に向かって歩いていく。

 歩く、ただひたすらに歩く。冒険者といえば、華々しい戦闘やダンジョンの謎解き、人跡未踏の地での未知との遭遇など、冒険と呼ぶに相応しい活躍を想像しがちだけど、実際には、そんなシーンは極僅かで、冒険のほとんどの時間は歩くことに費やされる。高位冒険者なら馬や馬車を使うのだろうけど、まだまだ駆け出しの僕たちには、そんな金銭的な余裕はなく、自分の足で歩くしかない。

「あーし、お腹空いたー!」

 マルギットの声に上を向けば、いつの間にか太陽が真上にあった。そろそろお昼時だろう。

「あたしもお腹空いたわ。疲れたし」
「そうね。そろそろ休憩したいわ」
「ご飯…」
「だそうですけど、どうしますか、クルト?」

 ラインハルトが面白がるように、いたずらっ子な笑みを浮かべて訊いてくる。この冒険では、リーダーは僕だ。僕が決定しろということだろう。こういう小さな些細なことから決定を下して、リーダーとして慣れさせようとしている。僕があまり負担に思わないように、からかうような笑みを浮かべているのは、ラインハルトの優しさだ。まったく、相変わらずのイケメンっぷりだなラインハルトは!

「お昼ご飯の休憩にしよう」
「やりー!」
「当然ね」

 僕の決定に反対意見はなかった。そのことに少し安堵する。本当は皆が声を上げる前にお昼休憩の決定を下せれば一番良いのだけど……なかなか難しいね。

 僕たちは石畳の街道の端に寄り、草原へと出る。ここからが僕の出番だ。

 僕は皆の前に出ると、腰のポシェットから丸められた大きな茶色い落ち着いた絨毯をよっこいしょと取り出す。どう見てもポシェットに収まるサイズの絨毯じゃない。まるで童話の魔法使いのような仕業だけど、僕が突然魔法に目覚めたわけではない。これには当然、訳がある。

 僕の着けてるこの茶色い革製の丈夫そうなポシェット。実はマジックバッグなのだ。見た目以上に物が入る魔法の鞄。全ポーター憧れの品だろう。これさえあれば、もうポーターもどきとバカにされることもなくなるほど強力な宝具だ。

 絨毯をバサッと広げて草原に敷くと、今度はマジックバッグからクッションや食器、カトラリーを並べていく。今日は天気も良いし、まるでピクニックみたいだね。

「よっこいしょっと!」
「はぁ……足が疲れたわ。ブーツで絞めつけられた足が解放されて気持ち良い……」
「早くごはーん!」
「はいはい」

 僕は笑みを浮かべながら料理を並べていく。今日のメインはスパイシーな豚すね肉の煮込み料理アイスバインだ。もちろん付け合わせにマッシュポテトとザワークラウトもある。アイスバインは、そのまま食べるも良し、パンに挟んで食べても良しだ。

「ワインとビールもあるよ」
「ひゅー♪」
「やった…!」

 せっかくアイスバインを食べるなら、やっぱりワインやビールは欲しくなる。冒険の最中に飲酒なんて、本来は良くないけど、まだ王都から半日の距離、それも大きな街道の傍である。王都の騎士団が治安維持をしているので、魔物や盗賊に襲われる心配はない。本当にピクニックみたいなものだ。これから先へと進むほどそんな贅沢は許されなくなるけど、それなら今のうちに贅沢しちゃおうという発想だ。

「もちろんヴルストもある!」

 ドンッと取り出した大皿には、黒いのから白いのまで多種多様なヴルストがてんこ盛りとなっていた。マジックバッグによって時間が止められていたヴルストは、プスプスと脂を弾けさせて、焼きたてのように熱々だ。

「おぉー!」
「これは…!」
「ひゃっはー!」
「あら、美味しそうね」
「ヴルスト、ビール…!」

 ヴルストの登場に、皆が瞳を輝かせる。そうだね。王国民は皆ヴルスト大好きだもんね。アイスバインも国民食と云ってもいいけど、やっぱりヴルストの人気には勝てないだろう。いやぁ僕も王都に来て驚いたけど、ヴルストと一口に云っても、本当にいろんな種類があるんだ。いつか食べ比べてみたいと思っていたんだけど、せっかくだから今日にしてみた。

「それじゃあ熱いうちに……」
「ええ!」
「さっそく食べましょう!」
「お腹空いたわ」
「手を、組んで…!」
「りょっ」

 リリーの言葉に、皆が手を合わせて指を組み静寂が訪れた。
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