私はヒロインを辞められなかった……。

くーねるでぶる(戒め)

文字の大きさ
6 / 35

006 日常

しおりを挟む
 ポフポフと赤い絨毯を踏みしめて廊下を歩く。廊下に絨毯が敷いてあるなんて、流石は貴族の通う学校だ。外観もまるで白亜の宮殿みたいで素敵だったけど、内側も花や壺、絵画などが飾られていて豪華だ。窓から見える景色も綺麗な庭園に季節の花が咲いて目を楽しませてくれる。只の廊下なのに、うっすらと花の香りの様な良い香りがする素敵空間になっていた。

「皆様、ごきげんよう!」

 朝から良い気分にさせてくれる廊下だ。テンションが上がった私の声が弾む。

「ごきげんよう、マリアベル様」

 教室に入り、いつも一緒にいる女子グループに合流する。現在教室は4つの女子グループがある。一つ目は第一王子ヴァイス派閥の上級貴族、二つ目は第二王子シュヴァルツ派閥の上級貴族、三つ目は中立ややヴァイス派閥寄りの下級貴族、最後は中立ややシュヴァルツ派閥寄りの下級貴族だ。私は最後のグループに所属している。お父様とお兄様が陸軍に所属しているからね。我が家はシュヴァルツ派閥なのだ。と言っても、下級貴族は、その時強い方に味方する中立勢力だ。この後の情勢次第では我が家もヴァイス派閥になるかもしれない。

「マリアベル様はお聞きになりまして?」

「何をでしょう?」

「この間のテスト、ヴァイス殿下が満点で主席だったそうですわよ」

 あー。この間のテストの事か。たしかゲームでもヴァイスが主席だった。ヴァイスはかなり高スペックな秀才型だ。何でもそつなくハイレベルで熟せるけど、それは彼の努力の結晶である。逆にシュヴァルツはムラッ気のある天才型だ。得意なことではヴァイスすら寄せ付けない程の才能を発揮する。彼の得意なこと、それは軍事だ。シュヴァルツ自体もかなり強いらしい。

「まあ、それは素晴らしいですね」

「はい。生徒会にも入られるようですし、ご活躍が楽しみですわね」

 その後もヴァイスの話で持ち切りだ。一応このグループは中立ややシュヴァルツ派閥寄りのグループなのに、なんでこんなことになっているのかというと、それはシュヴァルツのせいだったりする。シュヴァルツは人混みが鬱陶しいらしく、あまり人前には姿を見せないのだ。授業もサボったりしている。なので、話題に上がるのはヴァイスの方が圧倒的に多い。

「シュヴァルツ殿下はいつも何処にいらっしゃるのかしら?」

「さあ、何処でしょう」

「噂では、王族専用の隠し部屋があるとか…」

 私はすっとぼける。シュヴァルツはいつも、初めて会った場所、林の中の木々で囲まれたテラスに居る。私は木々の間をくぐり抜けてショートカットしてしまったけど、正規ルートであの場所に行くには、木々で作られた迷路をクリアする必要がある。あの場所は迷路のゴール地点なのだ。私もちゃんと正規ルートで行きたいけど、ゴールにある扉はいつもシュヴァルツ達によって閉められており、正規ルートで入ることができない。なので、私は仕方なくショートカットを利用している。



「皆様、ごきげんよう」

「はい。マリアベル様、ごきげんよう」

 授業が終わると、私はすぐに教室を出る。付き合いが悪いので友達にどう思われているのか不安だけど、今は王子達の仲直りが最優先だ。本当は手に持った鞄を寮に置きに行きたいけど、その間すら惜しんでシュヴァルツ達の元へ向かう。だって、いつ次のイベントが起きるのか分からないのだ。ゲームではシュヴァルツのアイコンがピコンと出て、イベントがある日が分かるけど、現実にそんな便利な機能は無い。セーブ&ロードもできないし、やり直しはできないのである。なので私は、イベントを逃さないように、初日からシュヴァルツの元に日参することにした。

「はぁ、はぁ、はぁ、よし、誰も付いて来てないわね」

 私は早歩きで乱れた息を整えながら、後ろを振り返り誰も居ないことを確認すると、林の方へと足を進める。通い慣れた道だ。もう迷うことは無い。一直線に木々の隙間へと向かう。

「一々くぐり抜けるのも大変よね。服も汚れてしまうし。殿下に正規ルートの扉を開けてもらうようにお願いしようかしら」

 文句を言いながら木々の隙間を這ってくぐり抜ける。木の枝が体に刺さって痛い。四つん這いなので掌や膝が土で汚れてしまう。ジメジメしていてあまり良い気分じゃない。

「誰だ!」

「マリアベルです」

 ゲオグラムの鋭い声に、すぐさま答える。そうしないと斬られちゃうからね。ゲオグラムはすぐに剣を抜きに掛かる危ない奴なのだ。ゲームではそんなことなかったのに、どうしてこんな危ない奴になっちゃったんだろう…。

「またお前か」

 ゲオグラムが怒っているような呆れているような顔で私を見ている。そうだね。来て良いとは言われてるけど、毎日来るとは思わないよね。私は立ち上がると挨拶する。

「ごきげんよう。シュヴァルツ殿下、ゲオグラム様」

「また来たのか。お前もよく飽きないものだな」

 シュヴァルツも呆れているようだ。

「こんな所に来てもつまらんだけだろう」

「いいえ、そんなことありませんわ。シュヴァルツ殿下やゲオグラム様とのお話は楽しいですもの」

「そうか。まぁそうだな」

 お世辞に対して否定もしない。流石はオレ様キャラだ。照れたりすると可愛げがあるのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 異世界の伯爵令嬢として生まれたフィオーレ・アメリア。美しい容姿と温かな家族に恵まれ、何不自由なく過ごしていた。しかし、十歳のある日——彼女は突然、前世の記憶を取り戻す。 「私……交通事故で亡くなったはず……。」 前世では地味な容姿と控えめな性格のため、人付き合いを苦手とし、恋愛を経験することなく人生を終えた。しかし、今世では違う。ここでは幸せな人生を歩むために、彼女は決意する。 幼い頃から勉学に励み、運動にも力を入れるフィオーレ。社交界デビューを目指し、誰からも称賛される女性へと成長していく。そして迎えた初めての舞踏会——。 煌めく広間の中、彼女は一人の男に視線を奪われる。 漆黒の短髪、深いネイビーの瞳。凛とした立ち姿と鋭い眼差し——騎士団長、レオナード・ヴェルシウス。 その瞬間、世界が静止したように思えた。 彼の瞳もまた、フィオーレを捉えて離さない。 まるで、お互いが何かに気付いたかのように——。 これは運命なのか、それとも偶然か。 孤独な前世とは違い、今度こそ本当の愛を掴むことができるのか。 騎士団長との恋、社交界での人間関係、そして自ら切り開く未来——フィオーレの物語が、今始まる。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...