私はヒロインを辞められなかった……。

くーねるでぶる(戒め)

文字の大きさ
14 / 35

014 STOPいじめ。ダメ、絶対

しおりを挟む
 次の日。
 私は今日も元気に林を抜けて、木々の隙間に潜り込む。カラ元気でも出さないとやってられないわ。女子同士のいじめって陰湿よね。嫌になっちゃう。どうやら世界が違っても女子のいじめは陰湿なものらしい。最近は口だけじゃなくて手も出るようになってきたし…。手が出ると言っても、直接殴られたとかそういう意味じゃない。机の中に虫の死骸を入れられたり、寮の部屋の窓ガラスを割られたり、窓からネズミの死体を投げ入れられたり…そういった言葉以上のいじめが増えてきた。いじめがエスカレートするって本当だったのね。このままの調子でエスカレートを続けたら…正直、怖いわ。今でもやり過ぎだと思うのに、これ以上って…私、耐えられるかしら…。

「はぁ…」

 不安や嫌な気持ちをため息に乗せて吐き出す。これからシュヴァルツ達に会うんだもん、暗い顔してちゃダメよね。楽しいことを考えましょう。これからイケメン二人に囲まれるなんてラッキー!二人を独り占めできるなんて、私の幸せ者!

 なんて、バカなことを考えながら木々の隙間を潜り抜け、隙間から顔だけ出して素早く左右を確認する。シュヴァルツとゲオグラムは居るわね。システィーナの影は無しっと。

 私はシスティーナが居ないことを確認すると、漸く立ち上がり、服に付いた土や葉っぱを手で払う。

「マリアベルか…」

「ごきげんよう、ゲオグラム様」

 ゲオグラムが私に気が付いたみたいだ。いつもより私の接近に気が付くのが遅い気がする。顔色も暗い気がするし、どうかしたのかしら?

 ゲオグラムの後について、シュヴァルツの座るテーブルへと向かう。

「ごきげんよう、シュヴァルツ殿下」

「ああ…。まぁ座れ」

 シュヴァルツの許しを得て椅子に座る。どうしたんだろう?シュヴァルツの顔も憂い顔だ。覇気がない。二人ともイケメンだから憂い顔も絵になるわね…。普段と違う二人の姿は魅力的だけど、何か悪いことでもあったのかな?

 ……まさか!ベグウィグがヴァイスに手紙を届けるのに失敗したんじゃ?!

「殿下、どうかいたしましたか?もしかして、ベグウィグが…」

「ん?ああ、手紙を運ばせる件か。あちらはまだ試していない。おそらく今日の夜に試すことになるだろう」

 ベグウィグの件じゃないみたい。だとしたら、どうしたんだろう?

「マリアベル…」

 シュヴァルツが憂い顔で私を見て、私の名を呼ぶ。憂い顔のシュヴァルツに見つめられてドキドキする。普段オレ様な態度で皮肉気で意地悪な笑みを浮かべているシュヴァルツのしおらしい一面に鼓動が早くなり、頬が熱をもって紅潮するのを感じる。守ってあげたい、抱きしめてあげたい。そんな気持ちでいっぱいになる。シュヴァルツへの愛おしさが溢れてくる。正直、まだお子ちゃまだと思っていたシュヴァルツの真面目な表情に胸がキュンキュンする。ヤバイ。ヤバイと思っても止められない。今の私、きっと顔真っ赤だ。恥ずかしい。まさかシュヴァルツがこんな表情をするなんて。でも、ダメ、ダメよマリアベル。気持ちを抑えないと。シュヴァルツにはシスティーナという婚約者がいるのだ。この国では略奪愛は白い目で見られる。だから、ダメ。眺めるだけで満足しないと!でも、でも…。

「貴様…いじめに遭っているな?」

 ん?
 いじめという単語に、急に現実へと帰される。どうやら私の想像していたような甘い話ではないみたいだ。残念なような、ホッとしたような気持ちが胸に広がる。

「システィーナには貴様へのいじめを止めるように言っておいた。もう大丈夫だ」

「え?」

 シュヴァルツが私を安心させる為か、笑顔を浮かべて言う。心が温まるような良い笑顔だ。また私の気持ちが蕩けそうになる。

 でもちょっと待って!シュヴァルツがヒロインちゃんへのいじめに気が付くのって、もっと後のイベントじゃなかったっけ?いじめが止まるのはとてもありがたいけど、イベント順序が狂ってしまったことに、私は不安を覚える。

「そう不安そうな顔をするな。システィーナもいじめを止めると言っていた。奴にオレとの仲を拗らせてまで貴様をいじめる理由は無い。安心しろ」

「え!?」

 システィーナがいじめを止めることに同意した!?ゲームでは、最後までヒロインちゃんをいじめることを止めなかったシスティーナが…まさかそんな…こんなのゲームのシナリオになかった!一体何が起きているの!?

「その…ありがとうございます」

 いじめを止めてくれたシュヴァルツにお礼を言うけれど、私の頭の中は疑問でいっぱいだ。

「元はと言えばオレが原因だからな。貴様には辛い思いをさせた。許せ」

 シュヴァルツが顎を引くように、ちょこんと頭を下げた。あのオレ様なシュヴァルツが頭を下げるなんて…。王族が貴族に頭を下げるなんて、普通はありえないことだ。ましてや、プライドの高いシュヴァルツが私に頭を下げるなんて…。本当に、何が起きているのよ…?

 こんなにゲームのシナリオと違うことになるなんて…。私のせいなの?それとも他の人の…ハッ!?まさか、私以外にも転生者がいる!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 異世界の伯爵令嬢として生まれたフィオーレ・アメリア。美しい容姿と温かな家族に恵まれ、何不自由なく過ごしていた。しかし、十歳のある日——彼女は突然、前世の記憶を取り戻す。 「私……交通事故で亡くなったはず……。」 前世では地味な容姿と控えめな性格のため、人付き合いを苦手とし、恋愛を経験することなく人生を終えた。しかし、今世では違う。ここでは幸せな人生を歩むために、彼女は決意する。 幼い頃から勉学に励み、運動にも力を入れるフィオーレ。社交界デビューを目指し、誰からも称賛される女性へと成長していく。そして迎えた初めての舞踏会——。 煌めく広間の中、彼女は一人の男に視線を奪われる。 漆黒の短髪、深いネイビーの瞳。凛とした立ち姿と鋭い眼差し——騎士団長、レオナード・ヴェルシウス。 その瞬間、世界が静止したように思えた。 彼の瞳もまた、フィオーレを捉えて離さない。 まるで、お互いが何かに気付いたかのように——。 これは運命なのか、それとも偶然か。 孤独な前世とは違い、今度こそ本当の愛を掴むことができるのか。 騎士団長との恋、社交界での人間関係、そして自ら切り開く未来——フィオーレの物語が、今始まる。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...