私はヒロインを辞められなかった……。

くーねるでぶる(戒め)

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027 卒業

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 私は離れたくなくて、シュヴァルツを強く抱きしめる。大きな体だ。女の体とは違う、ゴツゴツとしていて固い男の体だ。抱きしめることで温かさがじんわりと伝わってくる。私はシュヴァルツの温もりをもっと感じたくて、更に強く抱きしめた。

 私が強く抱きしめるのと同時に、シュヴァルツも強く私を抱きしめ返してきた。ちょっと痛いくらいだ。胸がむぎゅっと潰れて少し息苦しい。でも、その痛みも苦しみも、今は愛おしい。シュヴァルツが抱きしめてくれる。それだけで私は幸せを感じる。

 でも、この幸せも長くは続かない。残り時間が少ない事を、私はひしひしと感じていた。

 今日、貴族院の卒業式があった。卒業生代表は王太子であるヴァイスが立派に務め、私達は今日から貴族の仲間入りだ。貴族院を卒業しないと、貴族とは認められないのである。皆、貴族と認められて嬉しそうにしていた。

 でも、私はちっとも嬉しくない。貴族院を卒業してしまったら、シュヴァルツに会えなくなってしまう。

 貴族院という環境だからこそ、こうしてシュヴァルツと気軽に会うことができるのだ。シュヴァルツが王城に入ってしまえば、シュヴァルツに会う為に面会の申し込みをしないといけない。王様が私達の婚約を認めなかった以上、私にシュヴァルツとの面会の許可なんて下りるわけがない。シュヴァルツとは会えなくなってしまう。

 冬休みがそうだった。結局シュヴァルツとは一度も会えなかった。冬休みの時は、貴族院が始まればシュヴァルツに会えると希望を持つことができたけど、今回は……。もし、シュヴァルツに会うことを許される日がくるならば、それは私とシュヴァルツの婚約が許される日だろう。今のところ、私達の婚約が許される気配なんて欠片もない。……もしかしたら、シュヴァルツと会えるのはこれが最後かもしれない……。

 そう思うと涙が溢れそうになる。でも、最後になるなら尚更、笑顔の私を憶えていて欲しくて涙をグッと堪え、溢れ出た涙をそっと拭った。

『必ず迎えに行く』

 シュヴァルツが私の耳元で囁く。耳からゾクゾクとした感覚が全身を駆け回り、思わず全身からフッと力が抜けてしまう。シュヴァルツに体を委ねる形になってしまったけど、シュヴァルツはビクともせず私を支えてくれた。頼もしい。でも、シュヴァルツの頼もしさをもってしても、私の中の不安は完全には消えてくれない。それだけ私とシュヴァルツを取り巻く状況は悪いのだ。

『マリアベル』

 シュヴァルツに名を呼ばれ、至近距離からシュヴァルツと見つめ合う。シュヴァルツは真剣な面持ちで、その黒曜石の様な瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

『任せておけ』

 信じてみよう。そう思った。何より私は信じたかった。シュヴァルツとの未来を私は信じたかったのだ。

 私はシュヴァルツに応える代わりに目を閉じて踵を少し上げた。
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