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026 おねだり
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長かった冬休みも終わり、漸く再開された貴族院での生活。私は毎日のようにシュヴァルツの元へ会いに来ていた。場所は勿論、貴族院の林の中、バラの立体迷路を抜けた先にあるテラスだ。最近シュヴァルツに教えてもらったのだけど、此処の正式名称は『終の薔薇』と言うらしい。テラス自体がバラをイメージした造りになっており、バラの迷宮を抜けた先にある最後のバラという意味でその名が付けられたそうだ。
確かに、言われて見るとテラスの床はバラをモチーフにしてるし、イスやテーブルにもバラの飾りが施されている。バラづくしだ。シュヴァルツやゲオグラムには似合わないほど少女趣味な空間である。いや、シュヴァルツには似合うかな?黒いバラとか似合いそうだ。本人は花に興味は無さそうだけどね。
今も花なんて眼中に無いかのように紅茶を楽しんでいる。その姿は足を組んで椅子に座って偉そうだ。マナーからは外れるけど、その偉そうな態度がシュヴァルツに良く似合っている。
それでいて、公式な場ではマナー通りにビシッと決めるのだから、流石は王族だ。今シュヴァルツが格好を崩しているのは、今が私的な時間だからだろう。シュヴァルツの私的な時間を私に割いてくれるのは嬉しいし、シュヴァルツが格好を崩しているのは、私になら見せても大丈夫という信頼の現れで、やっぱり嬉しく感じてしまう。
マナーと言えば……。私はシュヴァルツにお願いしてみたいことを思い出した。今ならゲオグラムも居なくて二人っきりだし、良いタイミングかもしれない。
ゲオグラムは、私がシュヴァルツと会っている間、席を外してくれるようになった。私がシュヴァルツに危害を加えることは無いと信頼してくれたのかもしれない。ちょっと嬉しい。
「殿下、わたくし、殿下にお願いしたいことがあります」
「どうした急に?」
シュヴァルツはお願いと聞いても身構えたりせず、今もゆっくりと紅茶を楽しんで悠然とした態度だった。声色も優しいし、その余裕のある態度は頼もしさすら感じるくらいだ。
「その……わたくし、殿下に愛を囁いていただきたくて」
「ブッ!?」
私は今見たものが信じられなかった。なんと、あのシュヴァルツが、紅茶を噴き出したのだ。それはもう綺麗な噴き出しっぷりだった。あんまりな態度に、先程までシュヴァルツに感じていた余裕や頼もしさなどどこかに飛んでいってしまったくらいだ。
「ゴホッゴッケハッ…!おま、なんと言った!?」
聞いていなかったのだろうか?それにしてはリアクションが……。
「ですから、殿下に愛を囁いていただきたいのです」
ちょっと恥ずかしいから何度も言わせないで欲しい。
「いや、お前、それは…」
シュヴァルツがしどろもどろに口を動かす。こんな煮え切らない態度のシュヴァルツは珍しい。よく見ると、顔に少し赤みが差している。ひょっとして、照れているのだろうか?
「お手紙では、あんなに情熱的だったではありませんか」
「手紙で言ってるのだから良いだろう!手紙を読み返せば良いではないか!」
「直接殿下の口からお聞きしたいのです!」
シュヴァルツが大声を出すから、私までヒートアップしてしまう。
「不安なのです…」
勢いに乗って、本当は言うつもりが無かったことまで口走ってしまう。そう、私は不安なのだ。ゲームのヒロインちゃんは、純真無垢な誰からも好かれるような良い娘だった。私とは全然違う。私はヒロインちゃんみたいに健気で良い娘でもなければ可愛げもない。私はこの違いがとても恐ろしい。いつかその違いが原因でシュヴァルツの私を思う心が冷えてしまうのではないか、そのことがとても恐ろしいのだ。私ではシュヴァルツの心を繋ぎ止める事ができないかもしれない。ようするに、私がヒロインちゃんに対して抱いている劣等感が原因なのだろう。そのせいでシュヴァルツに愛想を尽かされることを恐れている。こんな私でも本当にシュヴァルツに愛してもらえるか不安なのだ。
「………はぁ、分かった」
そう言ってシュヴァルツが立ち上がるとこちらに近づいてきた。
「ほら、お前も立て」
シュヴァルツに言われるがままに立ち上がる。シュヴァルツは真剣な表情で私を見下ろしていた。ちょっと怖い。立って何をするのだろう?ひょっとして別れ話とか?私、重かった?面倒になっちゃった?嫌だ、シュヴァルツと別れたくなんてない!
「殿下、その…」
言い訳を口にしようとした私を、シュヴァルツは優しく抱きしめた。そして、シュヴァルツの顔が私の耳元に近づいてきて……。
『オレは、マリアベルを愛している』
シュヴァルツの囁きに、私の心臓が跳ね上がる音が聞こえた気がした。顔がどんどん熱くなるのを感じる。背筋にゾクゾクした電気のようなものが走り、クタッと脚の力が抜けて、シュヴァルツに体重を預けてしまう。シュヴァルツの体とこれ以上ないくらい密着してしまう。
「お、おい!?」
シュヴァルツが、なぜか焦ったような声を上げた。
「す、すみません。力が抜けてしまって……」
私の脚には力が入らず、プルプルと震えている。今シュヴァルツに手を離されたら、倒れてしまう。私はシュヴァルツに縋り付くように抱きしめて、なんとか倒れるのを防ぐ。
「あーもう。はぁ……」
シュヴァルツは呆れたようなため息を吐くと、私が倒れないように、キュッと抱きしめ返してくれるのだった。
確かに、言われて見るとテラスの床はバラをモチーフにしてるし、イスやテーブルにもバラの飾りが施されている。バラづくしだ。シュヴァルツやゲオグラムには似合わないほど少女趣味な空間である。いや、シュヴァルツには似合うかな?黒いバラとか似合いそうだ。本人は花に興味は無さそうだけどね。
今も花なんて眼中に無いかのように紅茶を楽しんでいる。その姿は足を組んで椅子に座って偉そうだ。マナーからは外れるけど、その偉そうな態度がシュヴァルツに良く似合っている。
それでいて、公式な場ではマナー通りにビシッと決めるのだから、流石は王族だ。今シュヴァルツが格好を崩しているのは、今が私的な時間だからだろう。シュヴァルツの私的な時間を私に割いてくれるのは嬉しいし、シュヴァルツが格好を崩しているのは、私になら見せても大丈夫という信頼の現れで、やっぱり嬉しく感じてしまう。
マナーと言えば……。私はシュヴァルツにお願いしてみたいことを思い出した。今ならゲオグラムも居なくて二人っきりだし、良いタイミングかもしれない。
ゲオグラムは、私がシュヴァルツと会っている間、席を外してくれるようになった。私がシュヴァルツに危害を加えることは無いと信頼してくれたのかもしれない。ちょっと嬉しい。
「殿下、わたくし、殿下にお願いしたいことがあります」
「どうした急に?」
シュヴァルツはお願いと聞いても身構えたりせず、今もゆっくりと紅茶を楽しんで悠然とした態度だった。声色も優しいし、その余裕のある態度は頼もしさすら感じるくらいだ。
「その……わたくし、殿下に愛を囁いていただきたくて」
「ブッ!?」
私は今見たものが信じられなかった。なんと、あのシュヴァルツが、紅茶を噴き出したのだ。それはもう綺麗な噴き出しっぷりだった。あんまりな態度に、先程までシュヴァルツに感じていた余裕や頼もしさなどどこかに飛んでいってしまったくらいだ。
「ゴホッゴッケハッ…!おま、なんと言った!?」
聞いていなかったのだろうか?それにしてはリアクションが……。
「ですから、殿下に愛を囁いていただきたいのです」
ちょっと恥ずかしいから何度も言わせないで欲しい。
「いや、お前、それは…」
シュヴァルツがしどろもどろに口を動かす。こんな煮え切らない態度のシュヴァルツは珍しい。よく見ると、顔に少し赤みが差している。ひょっとして、照れているのだろうか?
「お手紙では、あんなに情熱的だったではありませんか」
「手紙で言ってるのだから良いだろう!手紙を読み返せば良いではないか!」
「直接殿下の口からお聞きしたいのです!」
シュヴァルツが大声を出すから、私までヒートアップしてしまう。
「不安なのです…」
勢いに乗って、本当は言うつもりが無かったことまで口走ってしまう。そう、私は不安なのだ。ゲームのヒロインちゃんは、純真無垢な誰からも好かれるような良い娘だった。私とは全然違う。私はヒロインちゃんみたいに健気で良い娘でもなければ可愛げもない。私はこの違いがとても恐ろしい。いつかその違いが原因でシュヴァルツの私を思う心が冷えてしまうのではないか、そのことがとても恐ろしいのだ。私ではシュヴァルツの心を繋ぎ止める事ができないかもしれない。ようするに、私がヒロインちゃんに対して抱いている劣等感が原因なのだろう。そのせいでシュヴァルツに愛想を尽かされることを恐れている。こんな私でも本当にシュヴァルツに愛してもらえるか不安なのだ。
「………はぁ、分かった」
そう言ってシュヴァルツが立ち上がるとこちらに近づいてきた。
「ほら、お前も立て」
シュヴァルツに言われるがままに立ち上がる。シュヴァルツは真剣な表情で私を見下ろしていた。ちょっと怖い。立って何をするのだろう?ひょっとして別れ話とか?私、重かった?面倒になっちゃった?嫌だ、シュヴァルツと別れたくなんてない!
「殿下、その…」
言い訳を口にしようとした私を、シュヴァルツは優しく抱きしめた。そして、シュヴァルツの顔が私の耳元に近づいてきて……。
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シュヴァルツの囁きに、私の心臓が跳ね上がる音が聞こえた気がした。顔がどんどん熱くなるのを感じる。背筋にゾクゾクした電気のようなものが走り、クタッと脚の力が抜けて、シュヴァルツに体重を預けてしまう。シュヴァルツの体とこれ以上ないくらい密着してしまう。
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シュヴァルツが、なぜか焦ったような声を上げた。
「す、すみません。力が抜けてしまって……」
私の脚には力が入らず、プルプルと震えている。今シュヴァルツに手を離されたら、倒れてしまう。私はシュヴァルツに縋り付くように抱きしめて、なんとか倒れるのを防ぐ。
「あーもう。はぁ……」
シュヴァルツは呆れたようなため息を吐くと、私が倒れないように、キュッと抱きしめ返してくれるのだった。
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