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009 ゴブリンの殲滅に向けて
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次の日。ついにゴブリン殲滅作戦当日。
この日は朝から慌ただしかった。男たちが手に武器を持ち、森の中を行軍している。その数、ざっと百人以上。オレと父上は、彼らの先頭に立って森の中を歩いていく。
オレはこの殲滅作戦にも参加を許されていた。たぶん、オレの神聖魔法が目的なのだろう。だが、父上に力量を認められたようでオレは嬉しかった。
オレたちを先導してくれるのは、昨日ゴブリンの巣を見つけた狩人親子の親の方セザールだ。白髪交じりの初老の男だが、その力量は辺境でも随一と聞いている。
セザールは道もないし、同じような景色が続く森の中を迷うことなく進んでいく。時折、木の幹に付けられた傷を確認しているから、きっとあれが目印なのだろう。
「ここからは領主様だけで」
セザールに導かれて森を歩くこと二時間ほど。セザールが小声で呟いた。
「ふむ。アベルも連れて行く。アベルも鍛えねばならんからな。構わんか?」
「へい。そういうことでしたら」
どうやら父上は、オレを鍛えてくれるらしい。それだけでオレの心は踊りそうだ。
「いいか、アベル。これから偵察に行くぞ。だが、アベルに発言は許さない。気になることがあったら、屋敷に帰ってから聞いてくれ」
「はい」
実際に見せて仕事を覚えさせるって感じかな? 半人前扱いはしょんぼりだが、実際に半人前なのだから仕方がない。
そのことにめげている時間はない。よし! 今回も完璧にこなしてみせるぞ!
オレはお口チャックを意識して、父上とセザールの偵察に付いて行く。しばらく歩くと、木々の間から切り立った崖が見えてきた。
「ここからご覧くだせえ」
「うむ」
「……ッ!」
父上と一緒に木々の間から少し顔を出すと、切り立った崖の前には少し開けた空間があり、そこに大量のゴブリンが思い思いにくつろいでいるのが見えた。その数は五十を超えるだろう。その大量のゴブリンも脅威だが、それよりもオレの視線を奪った存在がいた。
大きい。それは二メートルを超えるピンクの獣毛に覆われたブタ顔のモンスターだった。オーク。ゲームでも登場したわりとポピュラーなモンスターだ。
オークはゲームは特に気にする必要すらなかったモンスターだ。状態異常攻撃をしてくるわけじゃないし、強力な全体魔法攻撃を使うわけでもない。
だが現実的には、あの縦にも横にも大きな体は十分脅威だ。オレではまず一撃では倒せない脂肪の鎧と、太い筋肉による打撃力。現実で対峙すると、かなり危険なモンスターであることがわかる。
今のオレに勝てるだろうか……?
「ふむ。ここが巣穴で間違いないようだな」
父上の呟きにオレはオークから無理やり意識を取り戻す。
「アベル、見えるか? あれが奴らの巣穴だ」
父上の指差す方向を見ると、切り立った崖には大きな洞穴が開いていた。そこをゴブリンたちが出入りしている姿が見える。
「戻るぞ」
「へい」
オレたちは父上の言葉にその場を後にする。オレはゴブリンたちの巣穴から離れて、知らず知らずのうちに体が強張っていたことに気が付いた。
「どうします?」
「予想よりも数が多いが、作戦に変更はない。予定通りの陣形を急がせろ」
「へい」
父上の言葉にセザールが走ってみんなのいる方へと戻っていく。
「アベル、もうしゃべってもいいぞ」
「はい、父上」
「どうだった? アベルは何を感じた?」
オレは気になっていたオークについてしゃべることにした。
「父上、オークが三体いました。あの大きさは脅威です。私でも倒せるかどうか……」
「ふふっ」
オレが真剣にオークを倒すビジョンを考えているのに、父上は噴き出したように笑い出した。
「父上?」
「いや、すまん、すまん。真っ先に強敵との戦闘を考えるとは。お前も辺境の男らしくなってきたな」
「おとと……」
父上に頭をぐりぐりと撫でられ、危うく転びそうになった。
「だが、それだけではいかんぞ? お前は民を導く領主になるのだ。民を指揮することも覚えなければならん。今回はワシの傍で勉強することだな」
「はい……」
なるほど。オレには一兵士ではなく指揮官になってほしいってところかな?
それ自体はごもっともな話だ。だが、オークとの戦闘をしたくて仕方がない。オレの目指すのは、最強の戦士なのだ。そして、最強の戦士と良い領主というのは両立できると思っている。
「ふむ。仕方のない奴だ。お前にオークの相手をさせてやろう」
オレが残念に思っていることを察したのか、父上がやれやれとばかりに肩をすくめて言った。
「いいんですか!?」
「うむ。強敵との戦いでのわくわくはワシにも覚えがあるからな。己の血に従うといい。その代わり、ちゃんとワシが民を指揮するところを見ているんだぞ?」
「はい!」
普通の親なら、たぶん危ないからと言って自分の子どもを戦いから遠ざけることだろう。だが、父上の考えは違うようだ。オレは父上のこういうところを気に入っている。戦士としても尊敬できるし、言うことなしだ。
最高の父親と言っても過言じゃないね!
この日は朝から慌ただしかった。男たちが手に武器を持ち、森の中を行軍している。その数、ざっと百人以上。オレと父上は、彼らの先頭に立って森の中を歩いていく。
オレはこの殲滅作戦にも参加を許されていた。たぶん、オレの神聖魔法が目的なのだろう。だが、父上に力量を認められたようでオレは嬉しかった。
オレたちを先導してくれるのは、昨日ゴブリンの巣を見つけた狩人親子の親の方セザールだ。白髪交じりの初老の男だが、その力量は辺境でも随一と聞いている。
セザールは道もないし、同じような景色が続く森の中を迷うことなく進んでいく。時折、木の幹に付けられた傷を確認しているから、きっとあれが目印なのだろう。
「ここからは領主様だけで」
セザールに導かれて森を歩くこと二時間ほど。セザールが小声で呟いた。
「ふむ。アベルも連れて行く。アベルも鍛えねばならんからな。構わんか?」
「へい。そういうことでしたら」
どうやら父上は、オレを鍛えてくれるらしい。それだけでオレの心は踊りそうだ。
「いいか、アベル。これから偵察に行くぞ。だが、アベルに発言は許さない。気になることがあったら、屋敷に帰ってから聞いてくれ」
「はい」
実際に見せて仕事を覚えさせるって感じかな? 半人前扱いはしょんぼりだが、実際に半人前なのだから仕方がない。
そのことにめげている時間はない。よし! 今回も完璧にこなしてみせるぞ!
オレはお口チャックを意識して、父上とセザールの偵察に付いて行く。しばらく歩くと、木々の間から切り立った崖が見えてきた。
「ここからご覧くだせえ」
「うむ」
「……ッ!」
父上と一緒に木々の間から少し顔を出すと、切り立った崖の前には少し開けた空間があり、そこに大量のゴブリンが思い思いにくつろいでいるのが見えた。その数は五十を超えるだろう。その大量のゴブリンも脅威だが、それよりもオレの視線を奪った存在がいた。
大きい。それは二メートルを超えるピンクの獣毛に覆われたブタ顔のモンスターだった。オーク。ゲームでも登場したわりとポピュラーなモンスターだ。
オークはゲームは特に気にする必要すらなかったモンスターだ。状態異常攻撃をしてくるわけじゃないし、強力な全体魔法攻撃を使うわけでもない。
だが現実的には、あの縦にも横にも大きな体は十分脅威だ。オレではまず一撃では倒せない脂肪の鎧と、太い筋肉による打撃力。現実で対峙すると、かなり危険なモンスターであることがわかる。
今のオレに勝てるだろうか……?
「ふむ。ここが巣穴で間違いないようだな」
父上の呟きにオレはオークから無理やり意識を取り戻す。
「アベル、見えるか? あれが奴らの巣穴だ」
父上の指差す方向を見ると、切り立った崖には大きな洞穴が開いていた。そこをゴブリンたちが出入りしている姿が見える。
「戻るぞ」
「へい」
オレたちは父上の言葉にその場を後にする。オレはゴブリンたちの巣穴から離れて、知らず知らずのうちに体が強張っていたことに気が付いた。
「どうします?」
「予想よりも数が多いが、作戦に変更はない。予定通りの陣形を急がせろ」
「へい」
父上の言葉にセザールが走ってみんなのいる方へと戻っていく。
「アベル、もうしゃべってもいいぞ」
「はい、父上」
「どうだった? アベルは何を感じた?」
オレは気になっていたオークについてしゃべることにした。
「父上、オークが三体いました。あの大きさは脅威です。私でも倒せるかどうか……」
「ふふっ」
オレが真剣にオークを倒すビジョンを考えているのに、父上は噴き出したように笑い出した。
「父上?」
「いや、すまん、すまん。真っ先に強敵との戦闘を考えるとは。お前も辺境の男らしくなってきたな」
「おとと……」
父上に頭をぐりぐりと撫でられ、危うく転びそうになった。
「だが、それだけではいかんぞ? お前は民を導く領主になるのだ。民を指揮することも覚えなければならん。今回はワシの傍で勉強することだな」
「はい……」
なるほど。オレには一兵士ではなく指揮官になってほしいってところかな?
それ自体はごもっともな話だ。だが、オークとの戦闘をしたくて仕方がない。オレの目指すのは、最強の戦士なのだ。そして、最強の戦士と良い領主というのは両立できると思っている。
「ふむ。仕方のない奴だ。お前にオークの相手をさせてやろう」
オレが残念に思っていることを察したのか、父上がやれやれとばかりに肩をすくめて言った。
「いいんですか!?」
「うむ。強敵との戦いでのわくわくはワシにも覚えがあるからな。己の血に従うといい。その代わり、ちゃんとワシが民を指揮するところを見ているんだぞ?」
「はい!」
普通の親なら、たぶん危ないからと言って自分の子どもを戦いから遠ざけることだろう。だが、父上の考えは違うようだ。オレは父上のこういうところを気に入っている。戦士としても尊敬できるし、言うことなしだ。
最高の父親と言っても過言じゃないね!
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