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024 魔法を斬る
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オレの行動パターンというのは、実はそう多くない。
田舎だからね。どこか遊びに行く場所なんてないし、だいたいは庭先で鍛錬していることが多い。
父上に挑んだり、村の子どもであるバジルたちを指導したりの毎日だ。
そんなオレの生活に色どりを加えてくれるのは、父上や領民たちと一緒に行く他領への援軍とダンジョンへの挑戦だ。
特に今、力を入れているもの。それが――――。
「今日は魔法を斬れるかな……」
『ゴブリンの地下王国』ダンジョンの中ボス、ゴブリンシャーマン。こいつは魔法を使うのだが、父上は大剣で魔法を斬っていた。初めて見た時は本当に驚いたよ。魔法って、剣で斬れるんだ。
だから、オレも魔法を斬れるようになりたいんだけど……。
父上に訊いても「勘だ!」としか答えてもらえなかったからなぁ。
まぁ、父上も長年の経験から魔法を斬れるようになったのだろう。だったら、オレも修行すれば魔法を斬れるようになるよね?
「というわけで、勝負だ!」
オレは隠れていた岩陰から飛び出る。洞窟は広い空間となっており、その奥へと続く道を守るようにゴブリンシャーマンがいた。
ゴブリンシャーマンは、オレを見つけるなり魔法の詠唱を始める。ゴブリンシャーマンが杖を振り上げると、オレとゴブリンシャーマンの間にメロンほどの大きさの火の玉が現れる。
ゴブリンシャーマンが使うファイアボールの魔法だ。
いつもならトウガラシ爆弾などの小細工を使って、ゴブリンシャーマンに魔法を使わせないようにするのだが、今回の目標は魔法を斬ることだ。オレは足を肩幅に開くと、ゴブリンシャーマンの魔法の発動を待つ。
ゴブリンシャーマンが杖を振り下ろすと、それに連動するようにファイアボールが高速で飛んでくる。
オレは剣を構えてそれを待つ。
まるで気分は野球だ。ピッチャーゴブリンシャーマン投げました!
ファイアボールの射線は、当たり前だけどデッドボール一直線なんだよなぁ。
オレはごうごうと音を立てて迫るファイアボールを見つめる。どうやったらこれを斬れるだろうか?
まずはいろいろ試してみるか。
オレは迫るファイアボールに剣を叩きつけた。
その途端、ドゴンッと爆発するファイアボール。剣を握った手や腕がもげそうな勢いで弾かれ、体も後方に吹っ飛ばされる。
「ガハッ!?」
土の壁に叩きつけられ、体がぺちゃんこになるように一気に口から空気が漏れる。空気どころか体の中身が出ちゃいそうだ。
「ごは……ッ」
そして、オレを襲ったのは爆発の衝撃だけではない。
吐ききった空気を吸った瞬間、口や気管、肺が灼熱の空気に焼かれる。それどころか、だんだんと体の表面が火傷でヒリヒリと痛んできだ。
まぁ、ファイアボールを斬れずにまともに受けちゃったからね。仕方がない。必要経費みたいなものだ。
「ぐ……。ヒー、ル」
震える口でなんとか回復魔法を唱えて、少しだけ体の痛みが引いていく。
「よっと……」
こうなることはわかっていた。魔法を斬るなんて最初からできるわけがない。だから覚悟もしていた。だから、混乱せずに冷静に後処理ができている。
オレがなぜこんな無茶な修行を試せるのか。それはアイギスの高い魔法耐性とヒールによる回復能力があるからだ。
そして、オレがなぜここまでがんばるのか。
だって、魔法が斬れたらかっこいいじゃん?
父上がオレの目の前でやってのけたんだ。だったら、オレだってやりたくなるだろ。
自分が冷静であることを確認すると、オレは立ち上がる。
ふらふらするな……。
「ヒール」
回復魔法を重ね掛けして剣を構えると、ゴブリンシャーマンがまたファイアボールを生み出していた。
「次こそは……斬るッ!」
◇
「はっはっはっはっはっ。それでそんなにボロボロなのか」
ダンジョンから家に帰ると、父上に笑われてしまった。ちぇ。
「あなた、笑い事ではありませんよ! アベルも無茶ばかりして!」
母上は怒っているようだ。まぁ、ヒールを使ったからオレ自身に怪我はないけど、服をボロボロにしてしまったからなぁ。鎧とか欲しいところだけど、鎧は金がかかるんだよなぁ……。
「まあまあ、いいじゃないか。それでアベルよ、結局魔法は斬れたのか?」
「うぐ……。斬れませんでした……」
「まあ、あれは難しいからな。精進することだ」
「はい!」
「はあ、もう。これだから辺境の男は……」
母上は頭が痛いとばかりに額に手を当てていた。
母上を心配させてしまうのは申し訳ないな。これもオレがまだまだ弱いせいだ。オレが最強なら、母上もオレを心配しなくてもよくなるだろう。
もっとがんばろう。そして辺境最強に、王国最強に、いつかは世界最強になるんだ!
「はぁ……うっ……」
そんなオレを呆れた目で見ていた母上が突然口を押えて外に駆けていった。
「アポリーヌ? どうした?」
母上を追って外に出る父上と一緒に外に出ると、母上が庭でうずくまっていた。
「アポリーヌ!」
「母上!」
母上はどうやら嘔吐したようだ。でも、どうして? 病気か!?
「ヒール!」
オレはヒールを唱えて母上の背中を摩る。
「ありがとう、アベル、あなた。少し楽になりました……」
「どうした、アポリーヌ? なにか拾い食いでもしたか?」
「しませんよ、あなたではないのですから。その、もしかしたらですが……。子を授かったかもしれません」
「えっ!?」
「なんとっ!?」
子を授かった? 赤ちゃんか! つまりこれは、つわりなのか?
「こうしてはおれんぞ! アベル! 産婆の婆さんたちを呼んでこい! 急げ!」
「はい!」
田舎だからね。どこか遊びに行く場所なんてないし、だいたいは庭先で鍛錬していることが多い。
父上に挑んだり、村の子どもであるバジルたちを指導したりの毎日だ。
そんなオレの生活に色どりを加えてくれるのは、父上や領民たちと一緒に行く他領への援軍とダンジョンへの挑戦だ。
特に今、力を入れているもの。それが――――。
「今日は魔法を斬れるかな……」
『ゴブリンの地下王国』ダンジョンの中ボス、ゴブリンシャーマン。こいつは魔法を使うのだが、父上は大剣で魔法を斬っていた。初めて見た時は本当に驚いたよ。魔法って、剣で斬れるんだ。
だから、オレも魔法を斬れるようになりたいんだけど……。
父上に訊いても「勘だ!」としか答えてもらえなかったからなぁ。
まぁ、父上も長年の経験から魔法を斬れるようになったのだろう。だったら、オレも修行すれば魔法を斬れるようになるよね?
「というわけで、勝負だ!」
オレは隠れていた岩陰から飛び出る。洞窟は広い空間となっており、その奥へと続く道を守るようにゴブリンシャーマンがいた。
ゴブリンシャーマンは、オレを見つけるなり魔法の詠唱を始める。ゴブリンシャーマンが杖を振り上げると、オレとゴブリンシャーマンの間にメロンほどの大きさの火の玉が現れる。
ゴブリンシャーマンが使うファイアボールの魔法だ。
いつもならトウガラシ爆弾などの小細工を使って、ゴブリンシャーマンに魔法を使わせないようにするのだが、今回の目標は魔法を斬ることだ。オレは足を肩幅に開くと、ゴブリンシャーマンの魔法の発動を待つ。
ゴブリンシャーマンが杖を振り下ろすと、それに連動するようにファイアボールが高速で飛んでくる。
オレは剣を構えてそれを待つ。
まるで気分は野球だ。ピッチャーゴブリンシャーマン投げました!
ファイアボールの射線は、当たり前だけどデッドボール一直線なんだよなぁ。
オレはごうごうと音を立てて迫るファイアボールを見つめる。どうやったらこれを斬れるだろうか?
まずはいろいろ試してみるか。
オレは迫るファイアボールに剣を叩きつけた。
その途端、ドゴンッと爆発するファイアボール。剣を握った手や腕がもげそうな勢いで弾かれ、体も後方に吹っ飛ばされる。
「ガハッ!?」
土の壁に叩きつけられ、体がぺちゃんこになるように一気に口から空気が漏れる。空気どころか体の中身が出ちゃいそうだ。
「ごは……ッ」
そして、オレを襲ったのは爆発の衝撃だけではない。
吐ききった空気を吸った瞬間、口や気管、肺が灼熱の空気に焼かれる。それどころか、だんだんと体の表面が火傷でヒリヒリと痛んできだ。
まぁ、ファイアボールを斬れずにまともに受けちゃったからね。仕方がない。必要経費みたいなものだ。
「ぐ……。ヒー、ル」
震える口でなんとか回復魔法を唱えて、少しだけ体の痛みが引いていく。
「よっと……」
こうなることはわかっていた。魔法を斬るなんて最初からできるわけがない。だから覚悟もしていた。だから、混乱せずに冷静に後処理ができている。
オレがなぜこんな無茶な修行を試せるのか。それはアイギスの高い魔法耐性とヒールによる回復能力があるからだ。
そして、オレがなぜここまでがんばるのか。
だって、魔法が斬れたらかっこいいじゃん?
父上がオレの目の前でやってのけたんだ。だったら、オレだってやりたくなるだろ。
自分が冷静であることを確認すると、オレは立ち上がる。
ふらふらするな……。
「ヒール」
回復魔法を重ね掛けして剣を構えると、ゴブリンシャーマンがまたファイアボールを生み出していた。
「次こそは……斬るッ!」
◇
「はっはっはっはっはっ。それでそんなにボロボロなのか」
ダンジョンから家に帰ると、父上に笑われてしまった。ちぇ。
「あなた、笑い事ではありませんよ! アベルも無茶ばかりして!」
母上は怒っているようだ。まぁ、ヒールを使ったからオレ自身に怪我はないけど、服をボロボロにしてしまったからなぁ。鎧とか欲しいところだけど、鎧は金がかかるんだよなぁ……。
「まあまあ、いいじゃないか。それでアベルよ、結局魔法は斬れたのか?」
「うぐ……。斬れませんでした……」
「まあ、あれは難しいからな。精進することだ」
「はい!」
「はあ、もう。これだから辺境の男は……」
母上は頭が痛いとばかりに額に手を当てていた。
母上を心配させてしまうのは申し訳ないな。これもオレがまだまだ弱いせいだ。オレが最強なら、母上もオレを心配しなくてもよくなるだろう。
もっとがんばろう。そして辺境最強に、王国最強に、いつかは世界最強になるんだ!
「はぁ……うっ……」
そんなオレを呆れた目で見ていた母上が突然口を押えて外に駆けていった。
「アポリーヌ? どうした?」
母上を追って外に出る父上と一緒に外に出ると、母上が庭でうずくまっていた。
「アポリーヌ!」
「母上!」
母上はどうやら嘔吐したようだ。でも、どうして? 病気か!?
「ヒール!」
オレはヒールを唱えて母上の背中を摩る。
「ありがとう、アベル、あなた。少し楽になりました……」
「どうした、アポリーヌ? なにか拾い食いでもしたか?」
「しませんよ、あなたではないのですから。その、もしかしたらですが……。子を授かったかもしれません」
「えっ!?」
「なんとっ!?」
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「こうしてはおれんぞ! アベル! 産婆の婆さんたちを呼んでこい! 急げ!」
「はい!」
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