56 / 117
056 決闘の理由
しおりを挟む
「バカな……。そんなバカな……。三年生だぞ? エルネスト先輩だぞ? なんで勝てるんだよ……」
闘技場の隅っこで俯いてブツブツとしゃべっているテオドール。その姿は先ほどまでの憎たらしい態度ではなく、ひどく哀愁が漂っていた。
「テオドール」
「ひっ!?」
オレが声をかけると、テオドールはビクッと顔を上げて悲鳴のような声をあげた。
「約束は覚えているな?」
「くっ! お、覚えている……」
「後ほどコランティーヌ先生から辺境伯に詳細が送られるだろうが……。お前自身がしなくちゃいけないものがある」
「俺が……?」
「ああ、お前はオレの父を侮辱した。訂正と謝罪を求めるんだが……」
周りを見れば、シャルリーヌたちだけではなく、闘技場にいた人々がこちらを見ている。こんな大勢の中で土下座を求めるのはさすがにかわいそうな気がする。
「土下座はしなくていい。ただ、誠心誠意謝ってくれ」
「慈悲のつもりか……?」
「そんなつもりはない」
「ちっ。わかった……」
テオドールはオレに向き直る。正面から見たテオドールは、なんだか今にも泣きそうな顔をしていた。
「アベル、お前のお父上をバカにして悪かった……」
そう言って、テオドールはちょこんと頭を下げた。
「オレはお前を許そう、テオドール」
オレはテオドールに右手を伸ばす。仲直りの握手だ。
「ふんっ」
テオドールは鼻を鳴らしながらも、オレの手を握った。
テオドールが本当に反省しているのか、オレにはわからない。
でも、謝っている相手をいつまでも責めるのは辺境の男じゃない。
こうして、テオドールが父上を侮辱したことから始まった決闘騒動は終結した。
そして、テオドールの尋問が始まる。
オレとしては、今からが本番だ。
さすがに大勢の目がある場所で前世のことを訊くのはリスクがあるな。
オレとテオドールは、闘技場の中の一室に入った。テーブルはなく、椅子や武器、防具がたくさん置かれていた部屋だ。倉庫かな?
「テオドール、オレはお前に訊きたいことがある。正直に答えてくれ」
「わかっている。もうどうにでもしろ……」
この部屋にはオレとテオドールしかいない。シャルリーヌたちにも遠慮してもらった。
「テオドールは、前世の記憶があるか?」
「はあ? お前は何を言ってるんだ?」
オレとしてはド直球に訊いてみたのだが、テオドールはわけがわからないといった表情だ。
オレはテオドールの表情をジッと見る。
嘘は吐いてなさそうだが……。
わからんな。次の質問にいこう。
「お前はなんでオレに絡んできたんだ? お互い、初対面だろ?」
本来ならば、テオドールが絡むのはオレのようなモブではなく、主人公だったはずだ。
なぜゲームのシナリオ通りに動かなかったんだ?
「それは……」
「それは?」
テオドールは口ごもると視線を泳がせる。
「答えてくれ、テオドール」
テオドールがようやく重たそうに口を開いた。
「…………羨ましかったんだ……」
「羨ましい?」
「そうだ。俺はお前が羨ましかったんだ! なぜ辺境の者たちは俺ではなくお前と親しくするんだ? 俺は辺境伯の嫡子だぞ! 本来なら、俺こそが辺境の者たちの羨望を集める存在になるはずだった! それなのに……」
テオドールはやりきれない感情を昇華するように部屋の壁を殴り始めた。
「だから、取り戻そうと思ったんだ。アベルがちやほやされている理由が飛空艇なら、飛空艇を奪えばいいと思った。俺は火の魔法が使える。負けないと思ったんだ。その結果がこれだ……」
今度はしょぼくれたように肩を落として俯くテオドール。
なんとも子どもっぽい自己中心的な理由だと思った。
だが、考えてみれば、テオドールはまだ十二歳のガキなんだよなぁ。
まぁ、貰うものは貰うんだが。
闘技場の隅っこで俯いてブツブツとしゃべっているテオドール。その姿は先ほどまでの憎たらしい態度ではなく、ひどく哀愁が漂っていた。
「テオドール」
「ひっ!?」
オレが声をかけると、テオドールはビクッと顔を上げて悲鳴のような声をあげた。
「約束は覚えているな?」
「くっ! お、覚えている……」
「後ほどコランティーヌ先生から辺境伯に詳細が送られるだろうが……。お前自身がしなくちゃいけないものがある」
「俺が……?」
「ああ、お前はオレの父を侮辱した。訂正と謝罪を求めるんだが……」
周りを見れば、シャルリーヌたちだけではなく、闘技場にいた人々がこちらを見ている。こんな大勢の中で土下座を求めるのはさすがにかわいそうな気がする。
「土下座はしなくていい。ただ、誠心誠意謝ってくれ」
「慈悲のつもりか……?」
「そんなつもりはない」
「ちっ。わかった……」
テオドールはオレに向き直る。正面から見たテオドールは、なんだか今にも泣きそうな顔をしていた。
「アベル、お前のお父上をバカにして悪かった……」
そう言って、テオドールはちょこんと頭を下げた。
「オレはお前を許そう、テオドール」
オレはテオドールに右手を伸ばす。仲直りの握手だ。
「ふんっ」
テオドールは鼻を鳴らしながらも、オレの手を握った。
テオドールが本当に反省しているのか、オレにはわからない。
でも、謝っている相手をいつまでも責めるのは辺境の男じゃない。
こうして、テオドールが父上を侮辱したことから始まった決闘騒動は終結した。
そして、テオドールの尋問が始まる。
オレとしては、今からが本番だ。
さすがに大勢の目がある場所で前世のことを訊くのはリスクがあるな。
オレとテオドールは、闘技場の中の一室に入った。テーブルはなく、椅子や武器、防具がたくさん置かれていた部屋だ。倉庫かな?
「テオドール、オレはお前に訊きたいことがある。正直に答えてくれ」
「わかっている。もうどうにでもしろ……」
この部屋にはオレとテオドールしかいない。シャルリーヌたちにも遠慮してもらった。
「テオドールは、前世の記憶があるか?」
「はあ? お前は何を言ってるんだ?」
オレとしてはド直球に訊いてみたのだが、テオドールはわけがわからないといった表情だ。
オレはテオドールの表情をジッと見る。
嘘は吐いてなさそうだが……。
わからんな。次の質問にいこう。
「お前はなんでオレに絡んできたんだ? お互い、初対面だろ?」
本来ならば、テオドールが絡むのはオレのようなモブではなく、主人公だったはずだ。
なぜゲームのシナリオ通りに動かなかったんだ?
「それは……」
「それは?」
テオドールは口ごもると視線を泳がせる。
「答えてくれ、テオドール」
テオドールがようやく重たそうに口を開いた。
「…………羨ましかったんだ……」
「羨ましい?」
「そうだ。俺はお前が羨ましかったんだ! なぜ辺境の者たちは俺ではなくお前と親しくするんだ? 俺は辺境伯の嫡子だぞ! 本来なら、俺こそが辺境の者たちの羨望を集める存在になるはずだった! それなのに……」
テオドールはやりきれない感情を昇華するように部屋の壁を殴り始めた。
「だから、取り戻そうと思ったんだ。アベルがちやほやされている理由が飛空艇なら、飛空艇を奪えばいいと思った。俺は火の魔法が使える。負けないと思ったんだ。その結果がこれだ……」
今度はしょぼくれたように肩を落として俯くテオドール。
なんとも子どもっぽい自己中心的な理由だと思った。
だが、考えてみれば、テオドールはまだ十二歳のガキなんだよなぁ。
まぁ、貰うものは貰うんだが。
121
あなたにおすすめの小説
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。
空
ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。
冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。
その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。
その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。
ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。
新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。
いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。
これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。
そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。
そんな物語です。
多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。
内容としては、ざまぁ系になると思います。
気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる