90 / 117
090 マジックバッグ入手と借金
しおりを挟む
「できればもっと容量が欲しいな。難しいか?」
「でしたら鞄型のマジックバッグがお勧めです。鞄型は指輪型などとは比べ物にならないほど物が入りますので」
「失礼いたします」
従業員が静かに置いたのは、大きな縦長のランドセルのようなバックパックだった。これもマジックバッグなのか?
「こちらは当店でも最大の容量を誇るマジックバッグです。そうですな……。この店を入れてもまだ余裕があるかと」
「そんなに!?」
それってもう戦略級のアイテムじゃないか?
隣に座るシャルリーヌも目を見開いて驚いている。
だが、そんな規格外のアイテム、お値段も規格外なんじゃないか?
オレは恐る恐る口を開く。
「いくらなのか、訊いてもいいか?」
「もちろんです」
すると、ジャンは紙に羽ペンで数字を書き始めた。
「こちらになります」
「ッ!?」
ヤベー金額だわ。手も足も出そうにない。それこそ、家どころか砦とか城とか建つんじゃないか?
「とても買えそうにないな。もっと手頃なものはないか?」
「でしたら、こちらなどがお勧めです」
そんなこんなでいくつもマジックバッグを見ては性能や金額を確認していく。
なんとか買えそうなのは、マジックバッグの性能としては最底辺の革袋タイプだった。それでも、腕輪型の何倍もの容量があるし、ぜひとも欲しい逸品だ。
だが……。
「うーん……」
オレは悩みに悩む。
実は、革袋タイプのもう一つ上のランクであるポシェットタイプにもがんばれば手が届きそうなのだ。
とはいえ、大金が必要だからすぐには買えないし、稼ぐ当てもない。
ブラシェール伯爵のマヨネーズの販売が始まればお金が転がり込んでくるのだが、それはまだまだ先の話だ。
できれば今すぐにでも欲しいのだが、革袋タイプとポシェットタイプでは容量に二倍以上の差がある。
本当に今、革袋タイプを買ってしまってもいいのだろうか?
悩むなぁ。
「アベルはこっちが欲しいの?」
「ああ。だが、金が足りないんだ……」
シャルリーヌがポシェットタイプのマジックバッグを指差して確認してきたので頷く。
「わかったわ。じゃあ、わたくしが足りない分を貸してあげる」
「え?」
だって、足りない分って言ってもかなりの大金だよ?
それをシャルリーヌに貸してもらえるのは正直なところ助かるけど、なんだかかっこ悪い気がした。
「いや、助かるけど……でも……」
「いいのいいの」
そう言うシャルリーヌは、頭のリボンをちょんと弾いた。
もしかして、リボンのお礼に?
でも、リボンとマジックバッグじゃ値段が違い過ぎるよ。
「シャルリーヌ、あの、やっぱり……」
「アベルは言ったでしょ? 初デートの記念よ。それに貸すだけだから。後からちゃんと返してもらうわ。だから、気にしないで」
「ありがとう、シャルリーヌ。助かるよ」
「ええ」
にっこりと笑うシャルリーヌの手を取って、オレはお礼を口にする。
まさか、初デートでシャルリーヌに借金ができるとは……。
だが、おかげでポシェットタイプのマジックバッグが買えた。
その見た目は黒い革製のポシェットで、わりとシンプルな作りだ。パッと見、これがすごいマジックバッグだとはわからない。
「ふふっ。お揃いね」
シャルリーヌが自分の腰のポシェットを撫でてみせる。
「そうだね」
そういえば、シャルリーヌもポシェットタイプのマジックバッグを使ってるんだったね。オレのマジックバッグもポシェットタイプだし、お揃いだ。もしかしたら、オレとお揃いにするためにお金を貸してくれたのかな?
そんなのぼせた考えまで頭の中に浮かんだ。
まぁ、それはないか。一応、婚約者ではあるけど、シャルリーヌにそこまで好きになってもらえるようなことをした覚えがないしね。
その後、オレたちは馬車に乗って王都デートを楽しんだのだった。
◇
「ぜはぁー、ぜはぁー、ひゅ、ぜはぁー」
「ほらほらがんばって。あと少しで学園だから」
わたくしブリジットは、アリソンに肩を貸しながら夕暮れの王都の街中を歩いていた。
もうアリソンは淑女としてだいぶアウトは荒い呼吸で疲労困憊といった感じだ。
だから、意地を張らずにわたくしたちも馬車に乗ろうと言ったのに。
そもそも、歩くよりも馬車の方が速いのだから、こうなることはわかりそうなものだけど……。ちょっと抜けているのがアリソンクオリティよね。
「でも、意外とアベル様は紳士だったわね。ちょっと驚いたわ」
「そう、ね……。かはっ、ぜひゅっ」
「ほら、辛いなら無理にしゃべらなくてもいいから」
力が抜けたようにコクリと頷くアリソン。アリソンはシャルリーヌ様の貞操を心配していたけど、アベル様はビックリするほど紳士にシャルリーヌ様を丁重に扱っていた。
ずっと馬車を追いかけていたけど、アリソンが危惧していたように、連れ込み宿に行くこともなかったし、お二人とも楽しそうだった。
やっぱりアリソンの考え過ぎだったのよ。
「これで少しはアベル様のことを信用してもいいんじゃない?」
「そう、ね……。ぜひゅっ、べはっ!?」
「もう、だから無理にしゃべらなくってもいいってば」
「でしたら鞄型のマジックバッグがお勧めです。鞄型は指輪型などとは比べ物にならないほど物が入りますので」
「失礼いたします」
従業員が静かに置いたのは、大きな縦長のランドセルのようなバックパックだった。これもマジックバッグなのか?
「こちらは当店でも最大の容量を誇るマジックバッグです。そうですな……。この店を入れてもまだ余裕があるかと」
「そんなに!?」
それってもう戦略級のアイテムじゃないか?
隣に座るシャルリーヌも目を見開いて驚いている。
だが、そんな規格外のアイテム、お値段も規格外なんじゃないか?
オレは恐る恐る口を開く。
「いくらなのか、訊いてもいいか?」
「もちろんです」
すると、ジャンは紙に羽ペンで数字を書き始めた。
「こちらになります」
「ッ!?」
ヤベー金額だわ。手も足も出そうにない。それこそ、家どころか砦とか城とか建つんじゃないか?
「とても買えそうにないな。もっと手頃なものはないか?」
「でしたら、こちらなどがお勧めです」
そんなこんなでいくつもマジックバッグを見ては性能や金額を確認していく。
なんとか買えそうなのは、マジックバッグの性能としては最底辺の革袋タイプだった。それでも、腕輪型の何倍もの容量があるし、ぜひとも欲しい逸品だ。
だが……。
「うーん……」
オレは悩みに悩む。
実は、革袋タイプのもう一つ上のランクであるポシェットタイプにもがんばれば手が届きそうなのだ。
とはいえ、大金が必要だからすぐには買えないし、稼ぐ当てもない。
ブラシェール伯爵のマヨネーズの販売が始まればお金が転がり込んでくるのだが、それはまだまだ先の話だ。
できれば今すぐにでも欲しいのだが、革袋タイプとポシェットタイプでは容量に二倍以上の差がある。
本当に今、革袋タイプを買ってしまってもいいのだろうか?
悩むなぁ。
「アベルはこっちが欲しいの?」
「ああ。だが、金が足りないんだ……」
シャルリーヌがポシェットタイプのマジックバッグを指差して確認してきたので頷く。
「わかったわ。じゃあ、わたくしが足りない分を貸してあげる」
「え?」
だって、足りない分って言ってもかなりの大金だよ?
それをシャルリーヌに貸してもらえるのは正直なところ助かるけど、なんだかかっこ悪い気がした。
「いや、助かるけど……でも……」
「いいのいいの」
そう言うシャルリーヌは、頭のリボンをちょんと弾いた。
もしかして、リボンのお礼に?
でも、リボンとマジックバッグじゃ値段が違い過ぎるよ。
「シャルリーヌ、あの、やっぱり……」
「アベルは言ったでしょ? 初デートの記念よ。それに貸すだけだから。後からちゃんと返してもらうわ。だから、気にしないで」
「ありがとう、シャルリーヌ。助かるよ」
「ええ」
にっこりと笑うシャルリーヌの手を取って、オレはお礼を口にする。
まさか、初デートでシャルリーヌに借金ができるとは……。
だが、おかげでポシェットタイプのマジックバッグが買えた。
その見た目は黒い革製のポシェットで、わりとシンプルな作りだ。パッと見、これがすごいマジックバッグだとはわからない。
「ふふっ。お揃いね」
シャルリーヌが自分の腰のポシェットを撫でてみせる。
「そうだね」
そういえば、シャルリーヌもポシェットタイプのマジックバッグを使ってるんだったね。オレのマジックバッグもポシェットタイプだし、お揃いだ。もしかしたら、オレとお揃いにするためにお金を貸してくれたのかな?
そんなのぼせた考えまで頭の中に浮かんだ。
まぁ、それはないか。一応、婚約者ではあるけど、シャルリーヌにそこまで好きになってもらえるようなことをした覚えがないしね。
その後、オレたちは馬車に乗って王都デートを楽しんだのだった。
◇
「ぜはぁー、ぜはぁー、ひゅ、ぜはぁー」
「ほらほらがんばって。あと少しで学園だから」
わたくしブリジットは、アリソンに肩を貸しながら夕暮れの王都の街中を歩いていた。
もうアリソンは淑女としてだいぶアウトは荒い呼吸で疲労困憊といった感じだ。
だから、意地を張らずにわたくしたちも馬車に乗ろうと言ったのに。
そもそも、歩くよりも馬車の方が速いのだから、こうなることはわかりそうなものだけど……。ちょっと抜けているのがアリソンクオリティよね。
「でも、意外とアベル様は紳士だったわね。ちょっと驚いたわ」
「そう、ね……。かはっ、ぜひゅっ」
「ほら、辛いなら無理にしゃべらなくてもいいから」
力が抜けたようにコクリと頷くアリソン。アリソンはシャルリーヌ様の貞操を心配していたけど、アベル様はビックリするほど紳士にシャルリーヌ様を丁重に扱っていた。
ずっと馬車を追いかけていたけど、アリソンが危惧していたように、連れ込み宿に行くこともなかったし、お二人とも楽しそうだった。
やっぱりアリソンの考え過ぎだったのよ。
「これで少しはアベル様のことを信用してもいいんじゃない?」
「そう、ね……。ぜひゅっ、べはっ!?」
「もう、だから無理にしゃべらなくってもいいってば」
115
あなたにおすすめの小説
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~
犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。
塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。
弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。
けれども違ったのだ。
この世の中、強い奴ほど才能がなかった。
これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。
見抜いて、育てる。
育てて、恩を売って、いい暮らしをする。
誰もが知らない才能を見抜け。
そしてこの世界を生き残れ。
なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。
更新不定期
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる