【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)

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091 いざ『嘆きの地下墳墓』

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 シャルリーヌと女子寮の前で別れたオレは、男子寮の自室まで帰ってきていた。

「でへへ……」

 机と椅子、クローゼット、そしてベッド。学校から支給された最低限の物しか置かれていない寂しい部屋の中にまるで変質者のような粘っこい笑いが聞こえてくる。

 オレだった。

 だが、今だけはこのみっともない顔を許してほしい。だって、ゲームでも登場しなかったマジックバッグという高性能アイテムを手に入れたんだ。そりゃもう笑いが止まらないよ。

「うえへへ。このマジックバッグさえあれば、諦めていたダンジョンも攻略できるぞ!」

 『ヒーローズ・ジャーニー』では、食事は回復やバフの効果がある消費アイテムに過ぎなかったが、この世界では違う。当たり前の話だけど、人間は飲まず食わずだと死ぬのだ。これはオレにとって大きな課題だった。

 人間一人が運べる荷物の量なんてたかが決まっている。つまり、ダンジョン攻略にかけられる時間は決まっているのだ。

 だが、オレの知る限り、最高で百階層もあるダンジョンがいくつもある。この間の『嘆きの地下墳墓』が五階層のダンジョンだった。それを攻略するのに五時間弱かかったことを考えると、百階層のダンジョンをクリアするために必要な時間はおよそ百時間。睡眠や休憩の時間を加えると、百五十時間くらいになるんじゃないか?

 つまり、百科階層のダンジョンをクリアするためには、最低でも六日間分の水と食料を用意しないといけない。

 他にもいざという時のポーションなどの薬品や包帯、松明などの必要アイテムなんかも必要になるだろう。そんなの、とても運べる量じゃない。

 しかも、六日間というのはかなり甘く見積もってだ。ダンジョンは奥に潜れば潜るほどモンスターも強くなるし、マップも広く複雑になる。たぶん、六日じゃとてもクリアできない。

 そうなると、必要な物資の量はさらに増えることになる。

 だから、ぶっちゃけダンジョン攻略には限界があって無理じゃないかとも思っていた。

 そんなオレの諦めた心を叩き直してくれたのがマジックバッグだ。

 マジックバッグのおかげで、オレはもっと高みへ行くことができる。

「ありがとう! マジックバッグありがとう!」

 ついに叫んでしまったよ。それに応えるように自室の壁がダンダン鳴る。

 たぶん、お隣さんからの無言のクレームだね。でも、心が叫びたがっていたんだ。仕方ないね。

 オレはお金を貸してくれたシャルリーヌに感謝しながら眠りについたのだった。


 ◇


 次の日。朝練を終えると、オレはさっそくマジックバッグを腰に着けて学園の校舎裏へとやって来た。

 先日攻略した『嘆きの地下墳墓』に挑戦するためだ。そのために、マスクと匂い袋も持ってきた。

「よしっ!」

 持ってきたマスクと匂い袋を装着し、『嘆きの地下墳墓』に続く階段を降りていく。

「うほっ。くっせー!」

 やっぱり最初に感じる臭いはヤバいな。もう挫けそうになるほどの腐敗臭だ。地下にあるからか、換気もされなくて臭いが溜まり続けているのだろう。病気になりそうだ。

 だが、オレは怯まずに階段を降りていく。見えてくるのは、錆の浮いたデカい鉄の扉だ。

 階段の下でカチカチと火打石を打ち鳴らして松明に火を着ける。

「うぐっ……」

 扉を開けて『嘆きの地下墳墓』の中に入ると、臭気がぐっと強くなった。

 先の見通せないほどの真っ暗な通路を松明の光を頼りに進んでいく。前回のようにホーリーライトが使えればいいのだが、今回はできるだけMPの消費を抑えておきたい。オレ一人の挑戦だからね。

 ゲームでは、自由行動でダンジョンへの挑戦もできた。その時は主人公一人でダンジョンに潜るのだが、『嘆きの地下墳墓』くらい初期装備の主人公一人でも楽に攻略できるほどだった。

 そう。これは間接的な主人公への挑戦でもあるのだ。

 オレはべつに主人公のような華々しい活躍を望んでいるわけじゃない。ただ最強になりたいだけだ。

 辺境はモンスターの巣窟。ゲームの知識はあっても、いつどこでモンスターに襲われるかもわからない。

 その時、せめて自分の大切な人たちくらいは、周りの人々くらいは、助けたいじゃないか。

「よし、行くぞ……!」

 『嘆きの地下墳墓』の真っ暗な通路を松明の明かりを頼りに一人で進んでいく。

 ブーツの底で砂をジャリジャリと潰す音、松明のパチパチという音だけが静寂の中に響いていた。

「ん?」

 その時、カチャカチャとまるで乾いた木を打ち鳴らすような音が聞こえた。

 この音は聞き覚えがある。スケルトンの骨の鳴る音だ。

 どうでもいいが、スケルトンってなんで律儀に人の形で動いているんだろうな?

 どうせ不思議な力で動いているのなら、手とかロケットパンチみたいに飛ばせば強いと思うのだが……無理なのか?

 そんなバカなことを考えながら、オレは左手で松明を持ち、腰に佩いた片手剣を右手で抜くのだった。
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