91 / 117
091 いざ『嘆きの地下墳墓』
しおりを挟む
シャルリーヌと女子寮の前で別れたオレは、男子寮の自室まで帰ってきていた。
「でへへ……」
机と椅子、クローゼット、そしてベッド。学校から支給された最低限の物しか置かれていない寂しい部屋の中にまるで変質者のような粘っこい笑いが聞こえてくる。
オレだった。
だが、今だけはこのみっともない顔を許してほしい。だって、ゲームでも登場しなかったマジックバッグという高性能アイテムを手に入れたんだ。そりゃもう笑いが止まらないよ。
「うえへへ。このマジックバッグさえあれば、諦めていたダンジョンも攻略できるぞ!」
『ヒーローズ・ジャーニー』では、食事は回復やバフの効果がある消費アイテムに過ぎなかったが、この世界では違う。当たり前の話だけど、人間は飲まず食わずだと死ぬのだ。これはオレにとって大きな課題だった。
人間一人が運べる荷物の量なんてたかが決まっている。つまり、ダンジョン攻略にかけられる時間は決まっているのだ。
だが、オレの知る限り、最高で百階層もあるダンジョンがいくつもある。この間の『嘆きの地下墳墓』が五階層のダンジョンだった。それを攻略するのに五時間弱かかったことを考えると、百階層のダンジョンをクリアするために必要な時間はおよそ百時間。睡眠や休憩の時間を加えると、百五十時間くらいになるんじゃないか?
つまり、百科階層のダンジョンをクリアするためには、最低でも六日間分の水と食料を用意しないといけない。
他にもいざという時のポーションなどの薬品や包帯、松明などの必要アイテムなんかも必要になるだろう。そんなの、とても運べる量じゃない。
しかも、六日間というのはかなり甘く見積もってだ。ダンジョンは奥に潜れば潜るほどモンスターも強くなるし、マップも広く複雑になる。たぶん、六日じゃとてもクリアできない。
そうなると、必要な物資の量はさらに増えることになる。
だから、ぶっちゃけダンジョン攻略には限界があって無理じゃないかとも思っていた。
そんなオレの諦めた心を叩き直してくれたのがマジックバッグだ。
マジックバッグのおかげで、オレはもっと高みへ行くことができる。
「ありがとう! マジックバッグありがとう!」
ついに叫んでしまったよ。それに応えるように自室の壁がダンダン鳴る。
たぶん、お隣さんからの無言のクレームだね。でも、心が叫びたがっていたんだ。仕方ないね。
オレはお金を貸してくれたシャルリーヌに感謝しながら眠りについたのだった。
◇
次の日。朝練を終えると、オレはさっそくマジックバッグを腰に着けて学園の校舎裏へとやって来た。
先日攻略した『嘆きの地下墳墓』に挑戦するためだ。そのために、マスクと匂い袋も持ってきた。
「よしっ!」
持ってきたマスクと匂い袋を装着し、『嘆きの地下墳墓』に続く階段を降りていく。
「うほっ。くっせー!」
やっぱり最初に感じる臭いはヤバいな。もう挫けそうになるほどの腐敗臭だ。地下にあるからか、換気もされなくて臭いが溜まり続けているのだろう。病気になりそうだ。
だが、オレは怯まずに階段を降りていく。見えてくるのは、錆の浮いたデカい鉄の扉だ。
階段の下でカチカチと火打石を打ち鳴らして松明に火を着ける。
「うぐっ……」
扉を開けて『嘆きの地下墳墓』の中に入ると、臭気がぐっと強くなった。
先の見通せないほどの真っ暗な通路を松明の光を頼りに進んでいく。前回のようにホーリーライトが使えればいいのだが、今回はできるだけMPの消費を抑えておきたい。オレ一人の挑戦だからね。
ゲームでは、自由行動でダンジョンへの挑戦もできた。その時は主人公一人でダンジョンに潜るのだが、『嘆きの地下墳墓』くらい初期装備の主人公一人でも楽に攻略できるほどだった。
そう。これは間接的な主人公への挑戦でもあるのだ。
オレはべつに主人公のような華々しい活躍を望んでいるわけじゃない。ただ最強になりたいだけだ。
辺境はモンスターの巣窟。ゲームの知識はあっても、いつどこでモンスターに襲われるかもわからない。
その時、せめて自分の大切な人たちくらいは、周りの人々くらいは、助けたいじゃないか。
「よし、行くぞ……!」
『嘆きの地下墳墓』の真っ暗な通路を松明の明かりを頼りに一人で進んでいく。
ブーツの底で砂をジャリジャリと潰す音、松明のパチパチという音だけが静寂の中に響いていた。
「ん?」
その時、カチャカチャとまるで乾いた木を打ち鳴らすような音が聞こえた。
この音は聞き覚えがある。スケルトンの骨の鳴る音だ。
どうでもいいが、スケルトンってなんで律儀に人の形で動いているんだろうな?
どうせ不思議な力で動いているのなら、手とかロケットパンチみたいに飛ばせば強いと思うのだが……無理なのか?
そんなバカなことを考えながら、オレは左手で松明を持ち、腰に佩いた片手剣を右手で抜くのだった。
「でへへ……」
机と椅子、クローゼット、そしてベッド。学校から支給された最低限の物しか置かれていない寂しい部屋の中にまるで変質者のような粘っこい笑いが聞こえてくる。
オレだった。
だが、今だけはこのみっともない顔を許してほしい。だって、ゲームでも登場しなかったマジックバッグという高性能アイテムを手に入れたんだ。そりゃもう笑いが止まらないよ。
「うえへへ。このマジックバッグさえあれば、諦めていたダンジョンも攻略できるぞ!」
『ヒーローズ・ジャーニー』では、食事は回復やバフの効果がある消費アイテムに過ぎなかったが、この世界では違う。当たり前の話だけど、人間は飲まず食わずだと死ぬのだ。これはオレにとって大きな課題だった。
人間一人が運べる荷物の量なんてたかが決まっている。つまり、ダンジョン攻略にかけられる時間は決まっているのだ。
だが、オレの知る限り、最高で百階層もあるダンジョンがいくつもある。この間の『嘆きの地下墳墓』が五階層のダンジョンだった。それを攻略するのに五時間弱かかったことを考えると、百階層のダンジョンをクリアするために必要な時間はおよそ百時間。睡眠や休憩の時間を加えると、百五十時間くらいになるんじゃないか?
つまり、百科階層のダンジョンをクリアするためには、最低でも六日間分の水と食料を用意しないといけない。
他にもいざという時のポーションなどの薬品や包帯、松明などの必要アイテムなんかも必要になるだろう。そんなの、とても運べる量じゃない。
しかも、六日間というのはかなり甘く見積もってだ。ダンジョンは奥に潜れば潜るほどモンスターも強くなるし、マップも広く複雑になる。たぶん、六日じゃとてもクリアできない。
そうなると、必要な物資の量はさらに増えることになる。
だから、ぶっちゃけダンジョン攻略には限界があって無理じゃないかとも思っていた。
そんなオレの諦めた心を叩き直してくれたのがマジックバッグだ。
マジックバッグのおかげで、オレはもっと高みへ行くことができる。
「ありがとう! マジックバッグありがとう!」
ついに叫んでしまったよ。それに応えるように自室の壁がダンダン鳴る。
たぶん、お隣さんからの無言のクレームだね。でも、心が叫びたがっていたんだ。仕方ないね。
オレはお金を貸してくれたシャルリーヌに感謝しながら眠りについたのだった。
◇
次の日。朝練を終えると、オレはさっそくマジックバッグを腰に着けて学園の校舎裏へとやって来た。
先日攻略した『嘆きの地下墳墓』に挑戦するためだ。そのために、マスクと匂い袋も持ってきた。
「よしっ!」
持ってきたマスクと匂い袋を装着し、『嘆きの地下墳墓』に続く階段を降りていく。
「うほっ。くっせー!」
やっぱり最初に感じる臭いはヤバいな。もう挫けそうになるほどの腐敗臭だ。地下にあるからか、換気もされなくて臭いが溜まり続けているのだろう。病気になりそうだ。
だが、オレは怯まずに階段を降りていく。見えてくるのは、錆の浮いたデカい鉄の扉だ。
階段の下でカチカチと火打石を打ち鳴らして松明に火を着ける。
「うぐっ……」
扉を開けて『嘆きの地下墳墓』の中に入ると、臭気がぐっと強くなった。
先の見通せないほどの真っ暗な通路を松明の光を頼りに進んでいく。前回のようにホーリーライトが使えればいいのだが、今回はできるだけMPの消費を抑えておきたい。オレ一人の挑戦だからね。
ゲームでは、自由行動でダンジョンへの挑戦もできた。その時は主人公一人でダンジョンに潜るのだが、『嘆きの地下墳墓』くらい初期装備の主人公一人でも楽に攻略できるほどだった。
そう。これは間接的な主人公への挑戦でもあるのだ。
オレはべつに主人公のような華々しい活躍を望んでいるわけじゃない。ただ最強になりたいだけだ。
辺境はモンスターの巣窟。ゲームの知識はあっても、いつどこでモンスターに襲われるかもわからない。
その時、せめて自分の大切な人たちくらいは、周りの人々くらいは、助けたいじゃないか。
「よし、行くぞ……!」
『嘆きの地下墳墓』の真っ暗な通路を松明の明かりを頼りに一人で進んでいく。
ブーツの底で砂をジャリジャリと潰す音、松明のパチパチという音だけが静寂の中に響いていた。
「ん?」
その時、カチャカチャとまるで乾いた木を打ち鳴らすような音が聞こえた。
この音は聞き覚えがある。スケルトンの骨の鳴る音だ。
どうでもいいが、スケルトンってなんで律儀に人の形で動いているんだろうな?
どうせ不思議な力で動いているのなら、手とかロケットパンチみたいに飛ばせば強いと思うのだが……無理なのか?
そんなバカなことを考えながら、オレは左手で松明を持ち、腰に佩いた片手剣を右手で抜くのだった。
105
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる