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100 ガストン・ヴィアラット②
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「ありがとう、エタン。お前の気持ちをワシは嬉しく思う」
ワシは右手をエタンに差し出すと、エタンは押し抱くようにワシの手を取った。
「菲才の身ではありますが、私もがんばります! 必ずや辺境を豊かにしましょう!」
「うむ!」
「それで、なのですが、私に考えがございます」
「ほう? 聞かせてくれ」
「はい。まず、飛空艇を使い、資金を集めます。おそらく、莫大な資産が必要になりますので――――」
「待ってくれ、エタン。それではヴィアラットだけが裕福になってしまう。それでは意味がない。ワシは辺境全体を豊かにしたいのだ」
エタンはワシの言葉を聞いて笑顔で頷いた。
「承知しております。話はまだ途中なのです。一度お聞きください」
「ふむ……。わかった」
「ありがとうございます。辺境の領地を苦しめているものの正体。私はこれを辺境伯様への借金だと考えています」
「ふむ……」
たしかに、そうかもしれない。
ダルセー辺境伯は、辺境の貴族たちを借金漬けにしている。辺境で出た僅かな儲けもダルセー辺境伯への借金返済の利子として吸われる構造だ。これをどうにかしないといけないのはわかっている。
だが、どうやって?
ワシの顔に疑問が浮かんでいたのだろう。エタンは一度咳払いすると、口を開いた。
「これを解決するには、誰かが借金を肩代わりするしかございません。そのために、資金を集めるのです。まず返済不可能なほど膨れ上がったダルセー辺境伯への借金を返し、辺境の借金を男爵様に集めます。辺境の方々からは無利子でのんびり回収すればいいのです」
「ほう……!」
そうか。皆、借金の利子が膨れ上がって苦労しているのだ。それを帳消しにし、無利子にすれば……今すぐは無理かもしれないが、必ず返せる。終わりが見える!
「今ならば、すべての辺境を回り、辺境に少しだけ余裕のある今ならば、飛空艇を自由に動かせます。飛空艇を使った広範囲の貿易を始めるのです。ヴァネッサの速さがあれば、すぐにでも莫大な富が築けます! なにとぞ、ご決断を!」
「わかった! やるぞ!」
「よろしいのですね?」
「うむ! 千載一遇のチャンスなのだ。必ずや、成功させるぞ!」
「はい!」
ワシが立ち上がって吠えると、エタンも釣られたように立ち上がった。そして、いつも腰にぶら下げていた革袋をワシに差し出す。
「これは?」
「これは私がいつか自分の店を持てるように貯めていた資金になります。どうぞ、お使いください」
「いいのか?」
「はい。男爵様の夢は私の夢です!」
「恩に着るぞ、エタン!」
「もったいないお言葉!」
こうして、貿易をする上で重要な最初の纏まった資金を手に入れたワシは、居ても立っても居られずにこの日から動き出した。まずはヴィアラット領内にて街で換金できる物を買い取っていく。
村の男たちに協力してもらい荷物を詰め込むと、一路王都へと向かった。
王都に店を持つエタンの師匠にヴィアラット領の産物を買い取ってもらい、エタンの助言に従って塩をこれでもかというくらい買う。
荷物を積んでいる時間にエタンと街に繰り出し、物の値段を見て書き記していく。
昔、授業で場所によって物価が異なるのは習ったが、こんなにも違うとはな。この差額が、ワシらの儲けになる。
王都で塩を買ったら、今度は王国の北へ。
王国の北には鉱山がいくつもあり、大層賑わっていた。ここで塩を売る。
驚くべきことに、塩が王都の倍ほどの値段でも即座に飛ぶように売れてしまった。
エタンの話では、王国の北側は海からも遠く、有力な河川もないため、塩が高騰しているのとのことだった。
高騰していると言っても、物価が高い王都のさらに倍だ。こんな値段でいいのかとも思ったが、街は鉱山から出る金や銀、銅で潤っているので大丈夫らしい。
北の街では貴金属製品を買って、一路、王都の南に飛ぶ。
密集した濃い緑の草木が目立つ、なんとも開放的な姿の人間が多い場所だった。心なしかなんだかむあっと暑い気がする。
ここでは北から運んできた貴金属製品を売りつけた。
さすがのエタンもここには宝飾店をしている知り合いはおらず、相場よりも幾分安い金額で買われてしまったらしいが、それでも莫大な富を得ることができた。
そして今度はここ南の街で食料品をわんさか買う。小麦はわかるが、あとは見たことも聞いたこともないような野菜や穀物だった。
これを今度は北の街に売りつける。
エタンの話では、王国の南では農業が盛んで、王国の北では金属の加工が得意らしい。そして、王国の南には鉱山がなく、宝石や貴金属の需要が高い。逆に、王国の北では土地の狭さや寒さでろくに農業ができず、食料品が高いということだった。
ワシもエタンも飛空艇を使った広範囲の貿易には不得手だ。それなのに、僅かな知識だけでどんどんヴァネッサの金庫の中に金が溜まっていく。今では金庫に入りきらず、空き部屋に無理やり入れているくらいだ。
これは思ったよりも早く資金が集まるかもしれん。
ワシは右手をエタンに差し出すと、エタンは押し抱くようにワシの手を取った。
「菲才の身ではありますが、私もがんばります! 必ずや辺境を豊かにしましょう!」
「うむ!」
「それで、なのですが、私に考えがございます」
「ほう? 聞かせてくれ」
「はい。まず、飛空艇を使い、資金を集めます。おそらく、莫大な資産が必要になりますので――――」
「待ってくれ、エタン。それではヴィアラットだけが裕福になってしまう。それでは意味がない。ワシは辺境全体を豊かにしたいのだ」
エタンはワシの言葉を聞いて笑顔で頷いた。
「承知しております。話はまだ途中なのです。一度お聞きください」
「ふむ……。わかった」
「ありがとうございます。辺境の領地を苦しめているものの正体。私はこれを辺境伯様への借金だと考えています」
「ふむ……」
たしかに、そうかもしれない。
ダルセー辺境伯は、辺境の貴族たちを借金漬けにしている。辺境で出た僅かな儲けもダルセー辺境伯への借金返済の利子として吸われる構造だ。これをどうにかしないといけないのはわかっている。
だが、どうやって?
ワシの顔に疑問が浮かんでいたのだろう。エタンは一度咳払いすると、口を開いた。
「これを解決するには、誰かが借金を肩代わりするしかございません。そのために、資金を集めるのです。まず返済不可能なほど膨れ上がったダルセー辺境伯への借金を返し、辺境の借金を男爵様に集めます。辺境の方々からは無利子でのんびり回収すればいいのです」
「ほう……!」
そうか。皆、借金の利子が膨れ上がって苦労しているのだ。それを帳消しにし、無利子にすれば……今すぐは無理かもしれないが、必ず返せる。終わりが見える!
「今ならば、すべての辺境を回り、辺境に少しだけ余裕のある今ならば、飛空艇を自由に動かせます。飛空艇を使った広範囲の貿易を始めるのです。ヴァネッサの速さがあれば、すぐにでも莫大な富が築けます! なにとぞ、ご決断を!」
「わかった! やるぞ!」
「よろしいのですね?」
「うむ! 千載一遇のチャンスなのだ。必ずや、成功させるぞ!」
「はい!」
ワシが立ち上がって吠えると、エタンも釣られたように立ち上がった。そして、いつも腰にぶら下げていた革袋をワシに差し出す。
「これは?」
「これは私がいつか自分の店を持てるように貯めていた資金になります。どうぞ、お使いください」
「いいのか?」
「はい。男爵様の夢は私の夢です!」
「恩に着るぞ、エタン!」
「もったいないお言葉!」
こうして、貿易をする上で重要な最初の纏まった資金を手に入れたワシは、居ても立っても居られずにこの日から動き出した。まずはヴィアラット領内にて街で換金できる物を買い取っていく。
村の男たちに協力してもらい荷物を詰め込むと、一路王都へと向かった。
王都に店を持つエタンの師匠にヴィアラット領の産物を買い取ってもらい、エタンの助言に従って塩をこれでもかというくらい買う。
荷物を積んでいる時間にエタンと街に繰り出し、物の値段を見て書き記していく。
昔、授業で場所によって物価が異なるのは習ったが、こんなにも違うとはな。この差額が、ワシらの儲けになる。
王都で塩を買ったら、今度は王国の北へ。
王国の北には鉱山がいくつもあり、大層賑わっていた。ここで塩を売る。
驚くべきことに、塩が王都の倍ほどの値段でも即座に飛ぶように売れてしまった。
エタンの話では、王国の北側は海からも遠く、有力な河川もないため、塩が高騰しているのとのことだった。
高騰していると言っても、物価が高い王都のさらに倍だ。こんな値段でいいのかとも思ったが、街は鉱山から出る金や銀、銅で潤っているので大丈夫らしい。
北の街では貴金属製品を買って、一路、王都の南に飛ぶ。
密集した濃い緑の草木が目立つ、なんとも開放的な姿の人間が多い場所だった。心なしかなんだかむあっと暑い気がする。
ここでは北から運んできた貴金属製品を売りつけた。
さすがのエタンもここには宝飾店をしている知り合いはおらず、相場よりも幾分安い金額で買われてしまったらしいが、それでも莫大な富を得ることができた。
そして今度はここ南の街で食料品をわんさか買う。小麦はわかるが、あとは見たことも聞いたこともないような野菜や穀物だった。
これを今度は北の街に売りつける。
エタンの話では、王国の南では農業が盛んで、王国の北では金属の加工が得意らしい。そして、王国の南には鉱山がなく、宝石や貴金属の需要が高い。逆に、王国の北では土地の狭さや寒さでろくに農業ができず、食料品が高いということだった。
ワシもエタンも飛空艇を使った広範囲の貿易には不得手だ。それなのに、僅かな知識だけでどんどんヴァネッサの金庫の中に金が溜まっていく。今では金庫に入りきらず、空き部屋に無理やり入れているくらいだ。
これは思ったよりも早く資金が集まるかもしれん。
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