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101 ガストン・ヴィアラット③
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「ふぅー……」
思わず野太い息が漏れる。疲れた……。
あれから休まずに十日間もヴァネッサに乗って貿易に手を出していた。ヴァネッサの廊下には、まさに屍累々といった感じにヴィアラットの村人が転がり、その奥には部屋に入りきらなかった金貨が山となっていた。
たった十日でこれだけ稼いだんだな……。その凄まじさに背筋が凍ったように冷たくなった。
「集まったな……」
「はい……」
隣では、目の下に濃いクマを浮かべたエタンが眩い光を放つ金貨を見つめていた。
「これだけあれば足りるな」
「おそらくは」
ワシらは辺境全体がどれほど借金をしているのかわからん。だから、少しでも多くの金を集めたのだが……。もしかしたら、集めすぎたかもしれない。それほどまでの金貨の量だ。
「このままダルセー辺境伯の所まで行きますか?」
目をギラギラさせたままエタンがワシを見上げてきた。どうやら寝不足でハイになっているらしい。
「いや、一度ゆっくり寝よう。ヴァネッサ、帰還だ」
『承知いたしました』
ヴァネッサの涼やかな声が聞こえた後、壁に寄りかかって目を閉じていると、ヴァネッサがすぐに村への到着を告げた。窓から外を見れば、夕日に染まった我が屋敷が見えた。久しぶりに帰ってきたな。
「総員起きろ! 村に着いたぞ!」
「うぃーっす……」
廊下に倒れていた村の男たちが、のろのろとまるでゾンビのような緩慢な動きで動き始める。タラップを降りる頃には、ヴァネッサの降りた我が屋敷の周りには村人たちが集まっていた。
十日間も村を留守にしたのは初めてだからな。みんな心配していたのだろう。こんなことなら毎晩村に帰ってくればよかったな。
しかし、ヴァネッサにはトイレはもちろん、シャワー室や食堂も完備で、個室にはベッドや机もあったんだ。あまり大きな声では言えないが、屋敷で過ごすよりも快適だったまである。
メイドをしてくれているデボラに悪いから言わないがな。
「十日間も留守にして悪かったな! この通り、一人も欠けることなく全員無事だ!」
村人たちが男たちを出迎えていく。男たちの動きはのろのろと緩慢な動きで家族に付き添われて帰路に付いていく。男たちにも無理をさせてしまったな。これは報酬を弾まねば。
「あなた」
「アポリーヌ……」
声に振り向けば、眉を逆立て、腰に手を当てたアポリーヌの姿があった。どう見ても怒っている。
いやまぁ、なんで怒っているかも知っているんだがな。
「あなた、十日もどこに行っていたのですか?」
「すまなかったな、アポリーヌ」
ワシはそっとアポリーヌの肩を抱こうとすると、アポリーヌにペチッと手を払われてしまった。
これは相当怒っているな。
「どこに行っていたかと問われると、一言で答えるのが難しいな。王都や王国の北や南、いろんな所に行ったぞ」
「北や南……?」
「ああ。飛空艇を使って貿易をしていたんだ。これがワシの想像以上に上手くいってな。帰ってくる時間も惜しくなって、寝る間も惜しんで貿易していたというわけだ」
「それはよかったです。ですが、何も言わずに十日間もいなくなったら、心配してしまいます。村人たちも主人はいつ帰ってくるのかと何度も訊きに来ましたし……」
「心配かけて悪かった……。村人たちにも悪いことをした……。だが、おかげで貿易は大成功だ! ちょっと来てくれ」
「あなた?」
とはいえ、アポリーヌは身重だ。ここはワシの筋肉の出番だろう。
「よいせっと」
「あなた!?」
ワシはアポリーヌを抱きかかえると、いそいそとヴァネッサのタラップを登っていく。
「もう。あなたはいつも急なんですから……。重たくありませんか?」
「幸せの重みだ、気にするな。それよりも見てくれ!」
「まあ……」
腕の中でアポリーヌが絶句するのがわかった。
それはそうだろう。アポリーヌの前には、部屋から溢れ出した金貨が廊下に転がっている光景が広がっていた。正直、廊下に転がっている金貨は稼いできた金貨のほんの一部でしかないが、こんなにたくさんの金貨をアポリーヌは見たことないだろう。ワシもなかったからな。
「十日も帰ってこられなかったのは、すまないと思っている。申し訳ないことをした。だが、見てくれ。これがワシたちの十日の成果だ」
「十日でこんなに……?」
「うむ。ワシも最初は半信半疑だったんだが、エタンが指揮を執ってくれてな。とんとん拍子に上手くいった。そうだ。アポリーヌも欲しいものがあったらなんでも言ってくれ。ワシが見つけてくるぞ」
コンスタンタンもデルフィーヌの機嫌が悪い時はプレゼント作戦と言っていたからな。今までワシに甲斐性がなくてできなかったが、今ならばできる気がする。
「まるで夢みたいです……」
「夢ではないさ。今まで苦労させたな。これからは、存分に甘えてくれ」
ワシはそう言うと、アポリーヌの頬にキスの雨を降らせるのだった。
思わず野太い息が漏れる。疲れた……。
あれから休まずに十日間もヴァネッサに乗って貿易に手を出していた。ヴァネッサの廊下には、まさに屍累々といった感じにヴィアラットの村人が転がり、その奥には部屋に入りきらなかった金貨が山となっていた。
たった十日でこれだけ稼いだんだな……。その凄まじさに背筋が凍ったように冷たくなった。
「集まったな……」
「はい……」
隣では、目の下に濃いクマを浮かべたエタンが眩い光を放つ金貨を見つめていた。
「これだけあれば足りるな」
「おそらくは」
ワシらは辺境全体がどれほど借金をしているのかわからん。だから、少しでも多くの金を集めたのだが……。もしかしたら、集めすぎたかもしれない。それほどまでの金貨の量だ。
「このままダルセー辺境伯の所まで行きますか?」
目をギラギラさせたままエタンがワシを見上げてきた。どうやら寝不足でハイになっているらしい。
「いや、一度ゆっくり寝よう。ヴァネッサ、帰還だ」
『承知いたしました』
ヴァネッサの涼やかな声が聞こえた後、壁に寄りかかって目を閉じていると、ヴァネッサがすぐに村への到着を告げた。窓から外を見れば、夕日に染まった我が屋敷が見えた。久しぶりに帰ってきたな。
「総員起きろ! 村に着いたぞ!」
「うぃーっす……」
廊下に倒れていた村の男たちが、のろのろとまるでゾンビのような緩慢な動きで動き始める。タラップを降りる頃には、ヴァネッサの降りた我が屋敷の周りには村人たちが集まっていた。
十日間も村を留守にしたのは初めてだからな。みんな心配していたのだろう。こんなことなら毎晩村に帰ってくればよかったな。
しかし、ヴァネッサにはトイレはもちろん、シャワー室や食堂も完備で、個室にはベッドや机もあったんだ。あまり大きな声では言えないが、屋敷で過ごすよりも快適だったまである。
メイドをしてくれているデボラに悪いから言わないがな。
「十日間も留守にして悪かったな! この通り、一人も欠けることなく全員無事だ!」
村人たちが男たちを出迎えていく。男たちの動きはのろのろと緩慢な動きで家族に付き添われて帰路に付いていく。男たちにも無理をさせてしまったな。これは報酬を弾まねば。
「あなた」
「アポリーヌ……」
声に振り向けば、眉を逆立て、腰に手を当てたアポリーヌの姿があった。どう見ても怒っている。
いやまぁ、なんで怒っているかも知っているんだがな。
「あなた、十日もどこに行っていたのですか?」
「すまなかったな、アポリーヌ」
ワシはそっとアポリーヌの肩を抱こうとすると、アポリーヌにペチッと手を払われてしまった。
これは相当怒っているな。
「どこに行っていたかと問われると、一言で答えるのが難しいな。王都や王国の北や南、いろんな所に行ったぞ」
「北や南……?」
「ああ。飛空艇を使って貿易をしていたんだ。これがワシの想像以上に上手くいってな。帰ってくる時間も惜しくなって、寝る間も惜しんで貿易していたというわけだ」
「それはよかったです。ですが、何も言わずに十日間もいなくなったら、心配してしまいます。村人たちも主人はいつ帰ってくるのかと何度も訊きに来ましたし……」
「心配かけて悪かった……。村人たちにも悪いことをした……。だが、おかげで貿易は大成功だ! ちょっと来てくれ」
「あなた?」
とはいえ、アポリーヌは身重だ。ここはワシの筋肉の出番だろう。
「よいせっと」
「あなた!?」
ワシはアポリーヌを抱きかかえると、いそいそとヴァネッサのタラップを登っていく。
「もう。あなたはいつも急なんですから……。重たくありませんか?」
「幸せの重みだ、気にするな。それよりも見てくれ!」
「まあ……」
腕の中でアポリーヌが絶句するのがわかった。
それはそうだろう。アポリーヌの前には、部屋から溢れ出した金貨が廊下に転がっている光景が広がっていた。正直、廊下に転がっている金貨は稼いできた金貨のほんの一部でしかないが、こんなにたくさんの金貨をアポリーヌは見たことないだろう。ワシもなかったからな。
「十日も帰ってこられなかったのは、すまないと思っている。申し訳ないことをした。だが、見てくれ。これがワシたちの十日の成果だ」
「十日でこんなに……?」
「うむ。ワシも最初は半信半疑だったんだが、エタンが指揮を執ってくれてな。とんとん拍子に上手くいった。そうだ。アポリーヌも欲しいものがあったらなんでも言ってくれ。ワシが見つけてくるぞ」
コンスタンタンもデルフィーヌの機嫌が悪い時はプレゼント作戦と言っていたからな。今までワシに甲斐性がなくてできなかったが、今ならばできる気がする。
「まるで夢みたいです……」
「夢ではないさ。今まで苦労させたな。これからは、存分に甘えてくれ」
ワシはそう言うと、アポリーヌの頬にキスの雨を降らせるのだった。
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