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102 ガストン・ヴィアラット④
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村に帰ってから、ワシは丸二日間も寝ていたらしい。やはり、疲れがたまっていたのだろう。エタンや貿易を手伝ってくれた男たちも似たようなものだったみたいだ。
「ついに来たか……」
「はい……」
ワシの目の前には、朝日に照らされた大きな門がある。ダルセー辺境伯の屋敷の門だ。
今日はここで一勝負となる。慣れない舌戦の予感に今から疲れてしまいそうだ。
隣にいるエタンも緊張したようにダルセー辺境伯の屋敷の門を見上げていた。
一応、ワシのサポートとして商人で口が上手いエタンを連れてきたが……。呑まれているようだな。
「あぼッ!? あびゃッ!?」
ワシは緊張をほぐしてやろうとエタンの背中をバシバシ叩く。
エタンの口からは訳のわからん言葉が飛び出した。
大丈夫だろうか?
「そう緊張するな、エタンよ。主に辺境伯としゃべるのはワシだ。お前はワシのサポートをしてくれればよい」
「ごほッ、ごはッ……は、はい!」
「では、行くぞ」
「はっ!」
エタンを供にダルセー辺境伯の屋敷の敷地に入る。事前にエタンの案で先触れを出しておいたのがよかったのか、いつものように待たされることなく敷地の中に案内された。
広い庭を抜けると、大きなまるで宮殿のような屋敷が見えてくる。こんな立派な屋敷を建てるほど余裕があるなら、もっと辺境に目を配ればいいものを……。
豪華な応接間に通され、さほど待つことなく立派な衣装に身を包んだでっぷりとした四十代ほどの男が姿を現した。ダルセー辺境伯だ。久しぶりに見たが、またずいぶんと太ったな。
ワシとエタンは立って辺境伯を迎えると、辺境伯は機嫌が悪そうな顔をして吐き捨てる。
「野蛮人が、多少の礼儀を知ったか。それにしてもずいぶん時間がかかったな。ご自慢の飛空艇は見た目だけで性能はよくないのか? ふんっ。まあいい。座れ」
相変わらず失礼な奴だな。これだから辺境伯には会いたくないんだ。
「今日、お前を呼び出したのは他でもない。お前には破棄してもらいたいものがあってな。おい」
「失礼いたします」
辺境伯が合図を出すと、老執事が銀のトレイに乗せた手紙をワシの前に差し出した。
ワシは手紙を受け取って読み始めると、なんと決闘の結果が書かれていた。
それによると、アベルが辺境伯の息子を二回も決闘で撃破し、さまざまな権利を得たことが書いてある。
ヴィアラット男爵家の独立、辺境伯が持っている辺境貴族への借金の帳消し、そして、借金の額と同じだけの賠償金。読めば読むほど痛快な条件だった。
アベルよ、お前も辺境の現状に憂いを感じていたのだな。
ワシは息子が自分だけではなく他人も気にかけることができる子に育って誇らしい気持ちでいっぱいになった。
「読んだな? なんともバカバカしい内容だ。こんなものをいちいち認めていたら、辺境の秩序が保たれない。お前にはそのすべての権利を破棄してもらうぞ。いいな?」
「いいわけがないだろう?」
「なに……?」
「破棄はしないといったのだ」
その瞬間、辺境伯の顔が火でも着いたように赤くなった。
「バカなことを言うな! こんな子どもの遊びで――――」
「遊びではない! 神聖なる決闘の結果だ! アベルの勝ち取った成果である!」
辺境伯の言葉に被せるように吠えると、辺境伯が今度は顔を青くしながら口を開く。
「み、認められん! こんなものが認められるわけがないだろう! 貴様には秩序というものがわからんのか!?」
「知らぬわそんなもの。覆したくば、かかってこい」
「図に乗りおって!」
決闘を起こしたのが未成年の場合、その結果をどうするかは親に委ねられる。つまり、子どもの起こした決闘の責任は親が取るのだ。
だが、子どもゆえに無茶な条件を言い合うこともままある。その場合は、親の方で調整し決定する場合が多い。
そして、今回のように親が決闘の内容を認めない場合は――――。
「認めたくないのだろう? ならば、決闘だ」
「く……っ」
子ども同士の決闘の結果を巡って、改めて今度は親同士で決闘するしかない。親には特例として、一度だけなにも賭けずに子どもの決闘内容を白紙にする決闘ができるのだ。
ダルセー辺境伯は小心者だ。アベルの飛空艇を欲しがっていたが、絶対に決闘とは言い出さなかっただろう。決闘という不確実なものに飛空艇と同価値のものを賭けることを嫌がるからだ。
ダルセー辺境伯は、ワシが辺境最強などと呼ばれているからか、決闘を避けてきたきらいがある。
だから、ワシは今まで決闘という手段で辺境の現状を変えることができなかった。
ワシがどれだけダルセー辺境伯に決闘を申し込もうと、辺境伯が頷かねば決闘はできないからな。
だが、アベルのおかげでダルセー辺境伯は追い込まれた。
もうダルセー辺境伯には、ワシと決闘するしか手段がない。
「いいだろう……。いつまでも貴様が辺境最強などという幻想は、ここで壊してやる! 決闘だ!」
「その決闘、応じよう」
「ついに来たか……」
「はい……」
ワシの目の前には、朝日に照らされた大きな門がある。ダルセー辺境伯の屋敷の門だ。
今日はここで一勝負となる。慣れない舌戦の予感に今から疲れてしまいそうだ。
隣にいるエタンも緊張したようにダルセー辺境伯の屋敷の門を見上げていた。
一応、ワシのサポートとして商人で口が上手いエタンを連れてきたが……。呑まれているようだな。
「あぼッ!? あびゃッ!?」
ワシは緊張をほぐしてやろうとエタンの背中をバシバシ叩く。
エタンの口からは訳のわからん言葉が飛び出した。
大丈夫だろうか?
「そう緊張するな、エタンよ。主に辺境伯としゃべるのはワシだ。お前はワシのサポートをしてくれればよい」
「ごほッ、ごはッ……は、はい!」
「では、行くぞ」
「はっ!」
エタンを供にダルセー辺境伯の屋敷の敷地に入る。事前にエタンの案で先触れを出しておいたのがよかったのか、いつものように待たされることなく敷地の中に案内された。
広い庭を抜けると、大きなまるで宮殿のような屋敷が見えてくる。こんな立派な屋敷を建てるほど余裕があるなら、もっと辺境に目を配ればいいものを……。
豪華な応接間に通され、さほど待つことなく立派な衣装に身を包んだでっぷりとした四十代ほどの男が姿を現した。ダルセー辺境伯だ。久しぶりに見たが、またずいぶんと太ったな。
ワシとエタンは立って辺境伯を迎えると、辺境伯は機嫌が悪そうな顔をして吐き捨てる。
「野蛮人が、多少の礼儀を知ったか。それにしてもずいぶん時間がかかったな。ご自慢の飛空艇は見た目だけで性能はよくないのか? ふんっ。まあいい。座れ」
相変わらず失礼な奴だな。これだから辺境伯には会いたくないんだ。
「今日、お前を呼び出したのは他でもない。お前には破棄してもらいたいものがあってな。おい」
「失礼いたします」
辺境伯が合図を出すと、老執事が銀のトレイに乗せた手紙をワシの前に差し出した。
ワシは手紙を受け取って読み始めると、なんと決闘の結果が書かれていた。
それによると、アベルが辺境伯の息子を二回も決闘で撃破し、さまざまな権利を得たことが書いてある。
ヴィアラット男爵家の独立、辺境伯が持っている辺境貴族への借金の帳消し、そして、借金の額と同じだけの賠償金。読めば読むほど痛快な条件だった。
アベルよ、お前も辺境の現状に憂いを感じていたのだな。
ワシは息子が自分だけではなく他人も気にかけることができる子に育って誇らしい気持ちでいっぱいになった。
「読んだな? なんともバカバカしい内容だ。こんなものをいちいち認めていたら、辺境の秩序が保たれない。お前にはそのすべての権利を破棄してもらうぞ。いいな?」
「いいわけがないだろう?」
「なに……?」
「破棄はしないといったのだ」
その瞬間、辺境伯の顔が火でも着いたように赤くなった。
「バカなことを言うな! こんな子どもの遊びで――――」
「遊びではない! 神聖なる決闘の結果だ! アベルの勝ち取った成果である!」
辺境伯の言葉に被せるように吠えると、辺境伯が今度は顔を青くしながら口を開く。
「み、認められん! こんなものが認められるわけがないだろう! 貴様には秩序というものがわからんのか!?」
「知らぬわそんなもの。覆したくば、かかってこい」
「図に乗りおって!」
決闘を起こしたのが未成年の場合、その結果をどうするかは親に委ねられる。つまり、子どもの起こした決闘の責任は親が取るのだ。
だが、子どもゆえに無茶な条件を言い合うこともままある。その場合は、親の方で調整し決定する場合が多い。
そして、今回のように親が決闘の内容を認めない場合は――――。
「認めたくないのだろう? ならば、決闘だ」
「く……っ」
子ども同士の決闘の結果を巡って、改めて今度は親同士で決闘するしかない。親には特例として、一度だけなにも賭けずに子どもの決闘内容を白紙にする決闘ができるのだ。
ダルセー辺境伯は小心者だ。アベルの飛空艇を欲しがっていたが、絶対に決闘とは言い出さなかっただろう。決闘という不確実なものに飛空艇と同価値のものを賭けることを嫌がるからだ。
ダルセー辺境伯は、ワシが辺境最強などと呼ばれているからか、決闘を避けてきたきらいがある。
だから、ワシは今まで決闘という手段で辺境の現状を変えることができなかった。
ワシがどれだけダルセー辺境伯に決闘を申し込もうと、辺境伯が頷かねば決闘はできないからな。
だが、アベルのおかげでダルセー辺境伯は追い込まれた。
もうダルセー辺境伯には、ワシと決闘するしか手段がない。
「いいだろう……。いつまでも貴様が辺境最強などという幻想は、ここで壊してやる! 決闘だ!」
「その決闘、応じよう」
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