聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠

文字の大きさ
2 / 7

(2)

しおりを挟む
 エリカは騎士団の付設食堂で働いている、ごくごく平凡な女だ。そんな彼女が自宅の裏庭にある鶏小屋でとんでもなく大きな卵を見つけたのは、つい先日のこと。

(ちょっとこれ、どういうこと?)

 エリカが見つけたのは、両手で抱えなければ持ち運びできないような大きな卵。ずっしりとした卵は、鶏の卵とは思えない。

(しかもなんかうっすら光ってるし!)

 ところが動揺しているのは、エリカだけ。小屋の中の鶏たちは、さも当然のように過ごしていた。一羽の雌鳥――ピヨリーヌ――にいたっては、我が子のように卵を温めていたりする。

(いやいや、おかしいでしょ。どう考えても普通に温めている場合じゃないでしょ。もしかしてこれって聖獣の卵なんじゃないの?)

 無類の聖獣好きであるエリカは、聖獣の卵がたびたびとんでもない場所から発見されていることを知っている。神話として各地に伝わっている聖獣伝説は、実際のところそれぞれ本当に起きたことなのだ。

 火属性の聖獣の卵が、温泉から発見されたこともあるし(あわや温泉卵かと危ぶまれたが、その後問題なく生まれた。中身は火竜だったそうだ)、地属性の聖獣の卵が、改築中のお城の基礎部分で見つかって、工事が百年ほど延びた国だってある。どうもかなりのんびり屋の聖獣だったらしいが、王家が保護者となったので問題はなかったらしい。

 だから今回のようによそさまの鶏小屋の中で生まれたっておかしくはないのだ。地味に驚くけれど。

「痛い、痛い。ちょ、ピヨリーヌさんってばやめて。盗らないから。大丈夫だから! 一応、協会に届け出るだけだからってば。ぎゃー」

 うちの子に何しやがるんですかと、エリカの手をつつき回すピヨリーヌ。雌鳥ごと卵を籠に入れるつもりが、怒れる母性を前にしぶしぶ諦めたエリカは、とりあえず単身で聖獣保護協会へと駆け込んだのだった。

 ところがエリカの予想に反し、聖獣保護協会の窓口の対応はけんもほろろなものだった。

「私ではなく、この土地の領主を保護主として国に報告するですって? そんなの聞いてません! 聖獣の安定した生育環境のためにも、発見場所をできるだけ保全し、その場で養育することは法的に認められているはずです!」
「その通りだよ。だから君は今の家から退去しなくちゃいけない。今すぐに」
「じゃあ正直に届け出た私が馬鹿みたいじゃないですか!」
「お嬢さん、考えてもみてごらん。若い女の子がひとりで聖獣の卵を育てているなんて悪い奴らが知ったらどうなるか」
「それはつまり、聖獣の卵を守るためには何よりも財力が必要だということですか」
「お金だけではなく、男手もね」

 悔しい。どうして、女というだけでこうも理不尽な目に遭わなければならないのか。ぽろりと涙が頬を伝う。

 ずっしりと手に食い込む荷物が重い。生育環境の保護という言い分で、エリカはピヨリーヌをはじめとする鶏たちや家財道具を移動させることも認められなかった。できる限り旅行鞄の中に詰め込むだけで精一杯だった。

「聖獣を私が育てることはできないのはわかりました。生育環境を維持するため、家屋が聖獣優先になることも理解できます。けれど、大事な家族も問答無用で奪われ、その補償も一切ないというのはおかしいでしょう!」
「だが聖獣の保護については取り決められているけれど、発見者が保護できない場合の救済策については定められていなくてね……。必要なら国に異議申し立てをするしかないかな」

 一般市民が国への申し立てなんかできるはずがない。そもそも伝手もお金もないのだから。

 とぼとぼと歩いていたエリカは、とうとうヤケクソで入ったことのない酒場に飛び込んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

『完結・R18』公爵様は異世界転移したモブ顔の私を溺愛しているそうですが、私はそれになかなか気付きませんでした。

カヨワイさつき
恋愛
「えっ?ない?!」 なんで?! 家に帰ると出し忘れたゴミのように、ビニール袋がポツンとあるだけだった。 自分の誕生日=中学生卒業後の日、母親に捨てられた私は生活の為、年齢を偽りバイトを掛け持ちしていたが……気づいたら見知らぬ場所に。 黒は尊く神に愛された色、白は"色なし"と呼ばれ忌み嫌われる色。 しかも小柄で黒髪に黒目、さらに女性である私は、皆から狙われる存在。 10人に1人いるかないかの貴重な女性。 小柄で黒い色はこの世界では、凄くモテるそうだ。 それに対して、銀色の髪に水色の目、王子様カラーなのにこの世界では忌み嫌われる色。 独特な美醜。 やたらとモテるモブ顔の私、それに気づかない私とイケメンなのに忌み嫌われている、不器用な公爵様との恋物語。 じれったい恋物語。 登場人物、割と少なめ(作者比)

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

処理中です...