聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠

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「おはよう、愛しいひと」
「ひ、ひええええ、だ、団長! ど、どうしてここに?」
「結婚した夫婦がひとつ屋根の下で過ごすことは当たり前だろう」
「けっ、けっ、けっ」
「どうした。寝起きでむせたか」
「結婚ですか!」
「なんだ、覚えていないのか。昨夜、自分が熱烈に求婚してきたじゃないか」

 回想することしばし。普段は滅多に口にしない酒に飲まれて酔いつぶれたあげく、通りすがりの騎士団長にうざ絡みした記憶が蘇ってくる。エリカは慌ててベッドから降りると、騎士団長に頭を下げた。

「も、申し訳ありません! もしかして、私、聖獣保護のために結婚してくれって団長に泣きつきました?」
「酒場に響き渡る声で叫んでいたとも。だが、安心してほしい。婚姻届はすでに受理されているし、あの場にいたのはみな俺の部下たちだ。口外しないと約束しよう。約束を破るような奴は、物理的に物言わぬようにしてやるだけのこと」

(それはつまり、部下さんたちはうっかり秘密を漏らすとこの世に別れを告げることになると?)

 エリカの疑問に騎士団長は柔らかく微笑むだけ。その笑顔の優しさに、思わず冷や汗が出る。慌てて別の話題にすり替えた。

「それにしてもここはどこでしょうか」
「ここは俺の家だ」
「騎士団長って高給取りなんですね」
「俺が誰かわかっていて、俺に契約結婚を申し込んだのでは?」
「はあ。少なくとも私よりはお金を稼いでいそうだとは思っていましたが、まさかこんなお貴族さまのようなお屋敷だったなんて」

 メイドさんとか出てきちゃったりなんかして。冗談混じりで笑いかけようとしたとき、エリカは顔をひきつらせた。タイミングよくノックされた扉の向こう側からは、なんとも渋い家令と頭を下げたメイドたちが待機していたからだ。

「旦那さま、準備が整いました」
「ああ、ありがとう。エリカ、湯浴みが済んだら朝食にしよう。昨日はそのまま寝てしまっただろう?」

(さらりと呼び捨て!)

 騎士団長の言葉に、まだ年若いメイドが頬を染めた。

 どことなくそわそわした眼差しを向けてくる家令たちに止まっていたはずの冷や汗が再び吹き出す。

(ち、違うから! 確かに同衾していたみたいなんですが、色っぽい話じゃないんです。酔っぱらいが意識を失ったあげく、今現在もちょっとばかり二日酔いなだけで……)

 はたと気がつき、エリカは騎士団長に飛びついた。周囲のメイドたちが黄色い声をあげる。弁解したい気持ちを抑え、ひそひそと耳元で囁いた。

「自宅の件ですが、どうなるのでしょう? 聖獣保護協会のかたは聖獣に関してはお任せできるとは思うのですが、鶏たちについては玄人ではないはず。この猛暑の中でちゃんとお世話していただけているのか心配です」
「その件だが、もう少し手続きと裏取りに時間がかかりそうだ。聖獣の卵に鶏たち、自宅のことなど気になるのはよくわかるが、どうかもう少し堪えてくれ。部下たちも鶏たちのお世話を頑張っているんだ。……どうも、ピヨリーヌ殿には嫌われているようだが」

(うちのピヨリーヌにどつき回される騎士さまたちって……。本当に、お転婆な娘ですみません!)

 深々と団長に頭を下げられて、とんでもないとエリカは首をぶんぶんと振り続けていた。
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