2 / 8
(2)
しおりを挟む
誰にも言ったことはないが、レイモンドは今までに3回人生をやり直している。
1度目の人生で、セリーヌは別の女性に懸想した王太子から婚約を破棄されたあげく、辺境の修道院への追放を言い渡された。
セリーヌは物語で登場する悪役令嬢のようなきつい顔立ちと物言いをしていたが、身分が下の人間を理不尽にいじめるようなそんな下衆な女性ではない。けれど落ち目のセリーヌをかばう人間は皆無だった。
公爵家は領地を取り上げられ多くの財産も没収された。追放されるセリーヌに、十分な護衛をつけることも叶わぬほどに。
そしてセリーヌとレイモンドは北の修道院に向かう途中で野盗に襲われた。もちろん統率の取れっぷりからして、野盗ではなく王太子から指示を受けた騎士団であろうことは明白だ。しかし正体がわかったところで、レイモンドが有利となることはない。
そもそもレイモンドは、セリーヌの気まぐれで貧民街で拾われ、執事をしていただけ。そんな彼では騎士団を撃退することは難しい。せめて主人が辱めを受けることだけは避けなければ。
レイモンドはセリーヌを強く抱きしめると、ごうごうと流れる濁流に向かって崖から飛び降りた。公爵令嬢セリーヌ及び執事レイモンド。ともにわずか18年の短い人生だった。
2度目の人生で、レイモンドはセリーヌを幸せにするために奔走した。
セリーヌは立ち回りがうまくない。どれだけ賢く優れていても、相手に与える印象が悪ければ損をする。
頻繁に起こる他者とのすれ違いをセリーヌ以上にもどかしく思っていたレイモンドは、セリーヌの言葉遣いや立ち居振る舞いをそれとなく誘導した。
1度目の人生ではそんなことをしようものなら癇癪を起こしたに違いないセリーヌだったが、不思議と2度目の人生では素直に従った。
不幸だったことは、セリーヌの聡明さに隣国の王が目をつけたことだ。戦争を仕掛けられたあげく、セリーヌは王太子との婚約をなかったことにされ、年の離れた国王に嫁がされた。
けれど結婚後も表舞台に立つことはなかった。彼女が逃げ出すことを恐れた国王によって、幽閉されたのだ。国王は自分がセリーヌに愛されることはないだろうということだけは理解していたらしい。
宦官として付き従ったレイモンドを目の敵にした王は、セリーヌの目の前でレイモンドを酷くいたぶった。2度目の人生でレイモンドが最後に見た光景は、なぶられ息絶える寸前のレイモンドの横で、人生に絶望し自害するセリーヌの姿だった。この時のセリーヌとレイモンドもやはり18歳だった。
3度目の人生。レイモンドは今までと趣向を変えることにした。目立たず、病弱な令嬢としてセリーヌを過ごさせる。普通にしていれば、王太子との婚約は立場上避けられない。目立てば他国から横やりを入れられる。だからこそ、セリーヌの両親さえもふたりで欺いた。
どうしてセリーヌが自分の突飛な提案を受け入れてくれたのか、いまだにレイモンドにはわからない。年頃の高位貴族の少女だ。社交界や王子さまに憧れを持つほうが普通だというのに、彼女は王都から離れた公爵家の領地でのレイモンドとの生活を選んでくれた。もしかしたらセリーヌは、自分が思っている以上に拾ったレイモンドのことを気に入ってくれていたのかもしれない。
だが突然領内で流行した流行病にかかり、セリーヌは本当にベッドから起き上がれない体になった。いっそ穏やかにも思える静かな療養生活は、世話をしていたレイモンドが先に病を重篤化させたことで終わりを告げる。自分の最期をレイモンドは覚えていないが、きっとふたりしてそのまま天に召されたのだろう。結局18歳を超えて生き残ることはできなかった。
1度目の人生で、セリーヌは別の女性に懸想した王太子から婚約を破棄されたあげく、辺境の修道院への追放を言い渡された。
セリーヌは物語で登場する悪役令嬢のようなきつい顔立ちと物言いをしていたが、身分が下の人間を理不尽にいじめるようなそんな下衆な女性ではない。けれど落ち目のセリーヌをかばう人間は皆無だった。
公爵家は領地を取り上げられ多くの財産も没収された。追放されるセリーヌに、十分な護衛をつけることも叶わぬほどに。
そしてセリーヌとレイモンドは北の修道院に向かう途中で野盗に襲われた。もちろん統率の取れっぷりからして、野盗ではなく王太子から指示を受けた騎士団であろうことは明白だ。しかし正体がわかったところで、レイモンドが有利となることはない。
そもそもレイモンドは、セリーヌの気まぐれで貧民街で拾われ、執事をしていただけ。そんな彼では騎士団を撃退することは難しい。せめて主人が辱めを受けることだけは避けなければ。
レイモンドはセリーヌを強く抱きしめると、ごうごうと流れる濁流に向かって崖から飛び降りた。公爵令嬢セリーヌ及び執事レイモンド。ともにわずか18年の短い人生だった。
2度目の人生で、レイモンドはセリーヌを幸せにするために奔走した。
セリーヌは立ち回りがうまくない。どれだけ賢く優れていても、相手に与える印象が悪ければ損をする。
頻繁に起こる他者とのすれ違いをセリーヌ以上にもどかしく思っていたレイモンドは、セリーヌの言葉遣いや立ち居振る舞いをそれとなく誘導した。
1度目の人生ではそんなことをしようものなら癇癪を起こしたに違いないセリーヌだったが、不思議と2度目の人生では素直に従った。
不幸だったことは、セリーヌの聡明さに隣国の王が目をつけたことだ。戦争を仕掛けられたあげく、セリーヌは王太子との婚約をなかったことにされ、年の離れた国王に嫁がされた。
けれど結婚後も表舞台に立つことはなかった。彼女が逃げ出すことを恐れた国王によって、幽閉されたのだ。国王は自分がセリーヌに愛されることはないだろうということだけは理解していたらしい。
宦官として付き従ったレイモンドを目の敵にした王は、セリーヌの目の前でレイモンドを酷くいたぶった。2度目の人生でレイモンドが最後に見た光景は、なぶられ息絶える寸前のレイモンドの横で、人生に絶望し自害するセリーヌの姿だった。この時のセリーヌとレイモンドもやはり18歳だった。
3度目の人生。レイモンドは今までと趣向を変えることにした。目立たず、病弱な令嬢としてセリーヌを過ごさせる。普通にしていれば、王太子との婚約は立場上避けられない。目立てば他国から横やりを入れられる。だからこそ、セリーヌの両親さえもふたりで欺いた。
どうしてセリーヌが自分の突飛な提案を受け入れてくれたのか、いまだにレイモンドにはわからない。年頃の高位貴族の少女だ。社交界や王子さまに憧れを持つほうが普通だというのに、彼女は王都から離れた公爵家の領地でのレイモンドとの生活を選んでくれた。もしかしたらセリーヌは、自分が思っている以上に拾ったレイモンドのことを気に入ってくれていたのかもしれない。
だが突然領内で流行した流行病にかかり、セリーヌは本当にベッドから起き上がれない体になった。いっそ穏やかにも思える静かな療養生活は、世話をしていたレイモンドが先に病を重篤化させたことで終わりを告げる。自分の最期をレイモンドは覚えていないが、きっとふたりしてそのまま天に召されたのだろう。結局18歳を超えて生き残ることはできなかった。
2
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
上手に騙してくださらなかった伯爵様へ
しきど
恋愛
アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。
文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。
彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。
貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。
メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる