うちの天然お嬢さまが、「悪い男っていいわ。わたくし、騙されてみたいの」などと自分に向かって言い出しやがったのだが、押し倒しても許されますか?

石河 翠

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 4度目の人生を迎えたとき、レイモンドは決めた。今回は、先のことを考えるのはやめようと。18歳までしか生きられないのなら、彼女には好きなことをしてのんびり暮らしてほしい。

 セリーヌの幸せを祈るあまり、レイモンドは時に母親のように口うるさくしてきた自覚があった。それはセリーヌが軽んじられぬよう、足元をすくわれぬようにするためだったけれど、年端のいかない子どもにしてみれば面白いものではなかったはずだ。

 そんな今までの配慮を投げ捨てて、セリーヌの楽しさだけをレイモンドは優先することにしたのだ。

『レイモンド、本当にお部屋を抜け出して大丈夫なの?』
『ええ、せっかくですからお嬢さまのやりたいことを全部やってしまいましょう』
『本当に? わたくしが望むことはなんでも?』
『ええ、お嬢さまが望むことはすべて叶えて差し上げます』
『あらそれじゃあ、とんでもなく悪いことをお願いするかもしれなくてよ』
『お嬢さまのためなら、喜んで悪事に手を染めましょう』

 そう答えた自分を見て、鮮やかに笑ったセリーヌの姿を今でもレイモンドは覚えている。そして言葉通り、影に日向にレイモンドはセリーヌの希望を叶えてきたのだ。

 セリーヌが笑ってくれればそれでいい。そう思っていた。

 けれどそれは、セリーヌの口からはしたない言葉を聞くためではなかったはずだ。彼女には真っ当な、日の当たるあたたかな道で幸せになってほしい。願いはただそれだけだったのに。

 純粋だからこそ笑ってひとを傷つける。子どものような無邪気さにレイモンドは翻弄された。

(私の思いも知らないで。どうしてあなたは……。)

 目の前でセリーヌが違う男の元に嫁ぐのを、血を吐く思いで耐えてきた。その自分に、『悪い男』を紹介させようとするなんて。

(なんて悪い子なのでしょうね)

「ねえレイモンド、どうしたの? もちろんわたくしのために協力してくれるわよね?」

 その言葉に、ぷつんと理性と限界がぶち切れる音がしたような気がする。

 そしてレイモンドは、主人であり手が届くはずのないセリーヌを押し倒したのだった。
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