うちの天然お嬢さまが、「悪い男っていいわ。わたくし、騙されてみたいの」などと自分に向かって言い出しやがったのだが、押し倒しても許されますか?

石河 翠

文字の大きさ
7 / 8

(7)

しおりを挟む
「それにしても、どうして人生をやり直すことができたのでしょうか。私もお嬢さまも魔法の素養なんて持ち合わせておりませんのに」
「それは、あなたに渡したブローチのせいかもしれないわね。おばあさまの形見なのだけれど、持ち主の願いを叶える力があるそうよ」
「そ、そんな大切なものを、私に与えていたのですか! 何を考えておられるのです!」
「だっておばあさまに、本当に大切な相手ができたら、渡すように言われていたんだもの。真実の愛があれば、効果を発揮するだろうっておっしゃっていたのよ」

 ブローチの価値やら、やり直しの秘密やら、情報量の多さに頭がくらくらした。

「記憶があったのなら、話してほしかったです」

 やり直しの日々は孤独で寂しくて、セリーヌの隣だというのにときどきわけもなく消えたくなった。あがくことをやめなかったのは、やり直しの理由がセリーヌの幸福のためだったからだ。自分だけの事情なら、レイモンドの精神はとっくに破綻していただろう。

「レイモンド、あなただってわたくしに内緒にしていたでしょう」
「それは……」
「それは? まさか狂人扱いされるのが怖かったなんて言うつもりではないでしょうね?」

 レイモンドに言えるわけがない。セリーヌに記憶がなかった場合、無駄に怖がらせることになってしまう。それを自分は恐れていたなんて。今のセリーヌを見ていれば、それが杞憂だったことがわかる。たとえ記憶がなかっとしても、自分の心配を笑い飛ばし、未来へ突き進むだけの強さが彼女にだってあったはずなのだ。

「ねえ、レイモンド。あなた本当に、わたくしが『悪い男に騙されたい』と言った意味がわからないの?」
「……自惚れてもかまいませんか?」
「むしろわたくしのほうこそ聞きたいのだけれど、養殖はお嫌い?」
「まさか。手に入るはずのない女神が微笑んでくれたのです。手を離したりしませんとも」

 セリーヌに出会ったときから、自分はすでに彼女に心奪われていたのだと、レイモンドはようやく自覚した。だからこそ、彼女が身につけていたブローチがどうしても欲しくなったのだ。あんな足がすぐついて換金できないような代物、普段のレイモンドなら絶対に手を出さなかったのだから。

 泥棒と呼ばれていたレイモンドだが、その実すべてを根こそぎ奪われたのは自分のほうだと思う。命どころか運命まですべて彼女に委ねてしまった。しかもそれが少しも不快ではないのだから始末が悪い。

「レイモンド、あなた、わたくしのこと」
「ええ、愛しております。そうですね! お嬢さまの許可もとれたことですし、続きをいたしましょうか」
「いいの?」
「ああ、ここでは腰が痛くなってしまいますし、せめてベッドに移動しましょうね」

 輝くような笑顔でにっこりと微笑みながら、レイモンドはセリーヌの手にそっと口づけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...