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(どうしてこうなった)

 形成逆転。セリーヌに馬乗りになられたレイモンドは、ひとり顔をひきつらせる。先ほどまで確かにレイモンドがセリーヌを押し倒していた。冷静になったレイモンドがセリーヌから離れようとした瞬間に襟元を引き倒され、逆に押し倒されたのである。

「お嬢さま自ら、私に罰を与えたいとおっしゃるのならもちろん止めることなどいたしません。けれど素手のままでは逆に手をいためてしまいます。どうぞ鞭をお持ちになってください」
「だーかーらー、どうしてそういう方向性にいってしまうのかしら。なんなの、そんなにわたくしって、女性としての魅力にかけるのかしら?」
「お嬢さまは、死ぬほど魅力的な方ですが? そもそも好きな相手でなければ、宦官になってまで嫁ぎ先についていくはずがないでしょう?」

 ぽろりと、つい2度目の人生の話がこぼれてしまった。言うつもりなどなかった、言っても意味が伝わるはずのない、どこかに消えてしまったかつての出来事。男であることを捨ててでも、彼女のそばにいたかった。その覚悟はあのときの彼女に少しでも伝わっていただろうか。

「あら、やっぱりレイモンドにもやり直す前の記憶があったのね。わたくしの記憶は、夢のようにぼんやりとしていて断片的な上にとても不明瞭なものだったけれど」
「お嬢さま、あなたは一体何を……」
「わたくしだって毎回頑張ったのよ。レイモンドの隣にいられるように。それなのにレイモンドときたら、わたくしを拐ってこの身を暴くどころか、自己犠牲の塊で献身的に尽くしてくれるのだもの。嬉しいやら、悔しいやらで、わたくし、頭がどうにかなりそうだったのよ?」

 さらなるトンデモ発言がセリーヌの口から溢れだし、レイモンドは呆然とするしかなかった。セリーヌの幸せのために頭を悩ませていたレイモンドの隣で、セリーヌはセリーヌなりに努力を重ねていたらしい。どうもその努力は明後日の方向であったような気もするが。

「もしかしたら、高慢ちきなわたくしだったから、レイモンドの好みではないのかもと悩んで、今回は男受けするように天然に見える努力だってしていたのに」
「お嬢さま……? つまり、お嬢さまは天然ポンコツ令嬢ではなく、養殖ポンコツ令嬢だった……?」
「何よ、天然でなければ好みではないとでも言うつもりかしら?」
「いいえ、そもそも私が好きなのはお嬢さまですから。どんな性格や雰囲気であろうが、お嬢さまはお嬢さまです」
「……ありがとう」

 はにかんだように笑うその姿は、最初に出会ったセリーヌの姿そのままで、レイモンドは涙が出そうになった。
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