9 / 9
(9)
しおりを挟む
ちなみに元夫の話も風の噂で聞くことになった。
例の彼女と結婚したそうだが、すぐに離婚する羽目になったらしい。何でも、生まれてきた子どもは夫にまるで似ていなかったのだという。赤子の顔はすぐに変わるとは言うが、明らかに隣国の人々の特徴を持ち合わせた赤子を見ては、悠長なことは言っていられなかったようだ。
これはどういうことかと散々に責め立てたところ、翌日屋敷から煙のように消え失せてしまったのだという。その上、金目のものはすっかりなくなってしまっていたのだとか。元夫の家では、置いて行かれた赤子をどうすべきかで揉めに揉めているそうだ。
となると彼女は子どもを産み捨ててすぐに、クララの父親を引っ掛けたことになる。恐るべき体力と根性だ。まあ、もはや我が家には関係のない話だろう。
「ナンシーお母さま!」
「まあ、クララ。お顔に美味しそうなものがついていますよ」
「見てみて、お庭のいちじくでタルトを作ったの。料理長と一緒に一生懸命頑張ったのだから!」
「まあ、それは楽しみですね」
「甘さ控えめだから、ボニフェースお父さまも大丈夫よ!」
「ありがとう。それじゃあ、お茶の時間になるまでクララのピアノを聞かせてもらおうか」
「わかったわ。わたしはピアノを弾くから、ふたりはちゃんと踊ってね。新婚さんなんだからもう恥ずかしくないでしょう? それにいつダンスがお医者さまによって禁止になるかもわからないわけだし」
「もう、そんなにひとを年寄り扱いするものではありませんよ。しばらくは、たくさん踊れます」
「うーん、そういう意味じゃあないのだけれどなあ」
夫となったボニフェースさまに手を差し伸べられ、そっと自分の手を乗せる。穏やかな午後の昼下がり、屋敷の中では軽やかで楽しげなワルツが絶え間なく聞こえていた。
例の彼女と結婚したそうだが、すぐに離婚する羽目になったらしい。何でも、生まれてきた子どもは夫にまるで似ていなかったのだという。赤子の顔はすぐに変わるとは言うが、明らかに隣国の人々の特徴を持ち合わせた赤子を見ては、悠長なことは言っていられなかったようだ。
これはどういうことかと散々に責め立てたところ、翌日屋敷から煙のように消え失せてしまったのだという。その上、金目のものはすっかりなくなってしまっていたのだとか。元夫の家では、置いて行かれた赤子をどうすべきかで揉めに揉めているそうだ。
となると彼女は子どもを産み捨ててすぐに、クララの父親を引っ掛けたことになる。恐るべき体力と根性だ。まあ、もはや我が家には関係のない話だろう。
「ナンシーお母さま!」
「まあ、クララ。お顔に美味しそうなものがついていますよ」
「見てみて、お庭のいちじくでタルトを作ったの。料理長と一緒に一生懸命頑張ったのだから!」
「まあ、それは楽しみですね」
「甘さ控えめだから、ボニフェースお父さまも大丈夫よ!」
「ありがとう。それじゃあ、お茶の時間になるまでクララのピアノを聞かせてもらおうか」
「わかったわ。わたしはピアノを弾くから、ふたりはちゃんと踊ってね。新婚さんなんだからもう恥ずかしくないでしょう? それにいつダンスがお医者さまによって禁止になるかもわからないわけだし」
「もう、そんなにひとを年寄り扱いするものではありませんよ。しばらくは、たくさん踊れます」
「うーん、そういう意味じゃあないのだけれどなあ」
夫となったボニフェースさまに手を差し伸べられ、そっと自分の手を乗せる。穏やかな午後の昼下がり、屋敷の中では軽やかで楽しげなワルツが絶え間なく聞こえていた。
390
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。
音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。
見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。
だが、それではいけないと奮闘するのだが……
短編 跡継ぎを産めない原因は私だと決めつけられていましたが、子ができないのは夫の方でした
朝陽千早
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
子を授からないのは私のせいだと、夫や周囲から責められてきた。
だがある日、夫は使用人が子を身籠ったと告げ、「その子を跡継ぎとして育てろ」と言い出す。
――私は静かに調べた。
夫が知らないまま目を背けてきた“事実”を、ひとつずつ確かめて。
嘘も責任も押しつけられる人生に別れを告げて、私は自分の足で、新たな道を歩き出す。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ
鍛高譚
恋愛
追放された令嬢クラリティは、冷徹公爵ガルフストリームと形式だけの結婚を結ぶ。
荒れた公爵領の再興に奔走するうち、二人は互いに欠かせない存在へと変わっていく。
陰謀と試練を乗り越え、契約夫婦は“真実の夫婦”へ――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
6 叔父様のs→叔父様のすでは?あえてでしたか?(承認不要です)