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それからも日記帳を通しての交流は、滞りなく続いていった。
「エドワードきゅん、ヒロインちゃんをデートに誘うんだって。すごーい」
「まあ想いを寄せる相手なのですから、デートくらい行くでしょう」
「いや、エドワードきゅんは宝物は見せびらかさずに宝箱に隠して眺めるタイプだから。そうか、閉じ込めないでちゃんとお外に連れて行っているのか。妙だな」
「そもそも監禁は犯罪です」
「監禁じゃなくって、軟禁ね。でもさあ、家の中にいれば面倒な社交はやらなくていいんだよ?」
「お嬢さま」
「三食美味しい食事に本やお菓子といった娯楽。お風呂も入れるし、好きなことだけやっていて構わないんだよ。最高だよ」
もちろん大前提として、相思相愛の中であるという条件はあるのだけれど。首を傾げる私に、グウィンが頭を抱える。
「ヒロインちゃんと一日中一緒にいられないことが辛いけれど、刺繍入りのハンカチを持って寂しさに耐えているらしいわ。青春ねえ」
「一日中一緒でないと無理だとか、愛が重すぎるでしょう」
「まあ確かに、一日中どこへ行くにも一緒っていうのは辛いこともあるとは思うけれど」
「さすがのお嬢さまも、自分の時間を確保できないのは苦痛という意見をお持ちのようですね」
「だってさあ、さすがにお手洗いについてこられたら嫌でしょ。音とか臭いとか、どんな美男美女であろうともロマンチックな魔法をかけられない気がする」
「……お手洗い。聞いたわたしが馬鹿でした」
やれやれとグウィンが肩をすくめた。そこまで大きくため息を吐かなくてもいいんじゃない? 乙女にとっては切実な問題なのよ?
「難しい顔をしてどうしました?」
「今度王宮で開かれる夜会で着用するヒロインちゃんのドレスをどうしたらよいかって。どんなドレスをヒロインちゃんに贈ったらいいか悩んでいるみたい。はえええ、すごいよねえ。ドレスを贈るレベルに仲良くなれているんだもんね。婚約済みってことでしょ? ……バグかな?」
「ヒロインちゃんとやらとエドワードさまをくっつけるために、努力してきたのでしょう? 何を首を傾げているのです」
「いやあ、なんかしっくりこないんだよねえ。まあいいや。とりあえず返事が先だから」
なんと言葉にすればよいものか。この「なんか違うんだよねえ」という曖昧な反応をしている限り、グウィンの同意は得られないだろう。彼に理解してもらうには、違和感を言語化しなければいけないのだ。
「何とお答えするのです?」
「裸に足枷みたいな格好を求めなければ、何でもいいと思うよ。脱がせる楽しみはとっておきなさいって書いておいて」
「絶対にダメです」
だってエドワードきゅんの妄想内でのヒロインちゃんは、かろうじて薄布をまとっただけのほぼ全裸だったからなあ。超絶美人のナイスバディだから、コミカライズ映えしただろうね。Web小説は全部文字だから知らんけど! 全年齢の範囲の表現だったしね。
ここまでくればおわかりの通り、私はエドワードきゅんのヤンデレ行為を見ても、あまりNG行為だとは感じないのだ。これ以上はマズいなあという基準がガバガバすぎて、参考にならないのである。あばたもえくぼ、蓼食う虫も好き好き。重い愛は大好物。何とでも言ってくれ。
「じゃあ、相手の希望を聞いてから準備したらいいじゃん」
「はっきり聞くのは、野暮なのですよ。問われずとも、完璧なドレスを贈ることが重要なのです」
「もう我儘だなあ。劇的にセンスが良くない限り、サプライズは危ないって。仕方がないから、いつもヒロインちゃんのドレスを用意してくれているドレスメーカーを抱きこめばいいじゃない。そのまま侯爵家の出資を受け入れてくれたらなお良し!」
「そういえば、こちらの夜会にはお嬢さまも招待されていましたね。ドレスの用意はいかがいたしましょう」
「いつも通り、グウィンがいいと思うドレスを注文しておいて」
「相手の希望を聞くことは大切とおっしゃったばかりではありませんか?」
「グウィンがドレス選びに失敗したことなんてないじゃない。グウィンの見立ては完璧だもの。あと私が選ぶなら、コルセットなしで着用できるだるだるネグリジェもどきにするけれど大丈夫?」
「どうぞお任せください」
てきぱきと私の指示に従うグウィンは、今日は一段とカッコいい。いけないいけない、うっかり見惚れちゃったわ。何をしていても彼がキラキラと輝いて見えるのは、どうしてなのだろう。
「エドワードきゅん、ヒロインちゃんをデートに誘うんだって。すごーい」
「まあ想いを寄せる相手なのですから、デートくらい行くでしょう」
「いや、エドワードきゅんは宝物は見せびらかさずに宝箱に隠して眺めるタイプだから。そうか、閉じ込めないでちゃんとお外に連れて行っているのか。妙だな」
「そもそも監禁は犯罪です」
「監禁じゃなくって、軟禁ね。でもさあ、家の中にいれば面倒な社交はやらなくていいんだよ?」
「お嬢さま」
「三食美味しい食事に本やお菓子といった娯楽。お風呂も入れるし、好きなことだけやっていて構わないんだよ。最高だよ」
もちろん大前提として、相思相愛の中であるという条件はあるのだけれど。首を傾げる私に、グウィンが頭を抱える。
「ヒロインちゃんと一日中一緒にいられないことが辛いけれど、刺繍入りのハンカチを持って寂しさに耐えているらしいわ。青春ねえ」
「一日中一緒でないと無理だとか、愛が重すぎるでしょう」
「まあ確かに、一日中どこへ行くにも一緒っていうのは辛いこともあるとは思うけれど」
「さすがのお嬢さまも、自分の時間を確保できないのは苦痛という意見をお持ちのようですね」
「だってさあ、さすがにお手洗いについてこられたら嫌でしょ。音とか臭いとか、どんな美男美女であろうともロマンチックな魔法をかけられない気がする」
「……お手洗い。聞いたわたしが馬鹿でした」
やれやれとグウィンが肩をすくめた。そこまで大きくため息を吐かなくてもいいんじゃない? 乙女にとっては切実な問題なのよ?
「難しい顔をしてどうしました?」
「今度王宮で開かれる夜会で着用するヒロインちゃんのドレスをどうしたらよいかって。どんなドレスをヒロインちゃんに贈ったらいいか悩んでいるみたい。はえええ、すごいよねえ。ドレスを贈るレベルに仲良くなれているんだもんね。婚約済みってことでしょ? ……バグかな?」
「ヒロインちゃんとやらとエドワードさまをくっつけるために、努力してきたのでしょう? 何を首を傾げているのです」
「いやあ、なんかしっくりこないんだよねえ。まあいいや。とりあえず返事が先だから」
なんと言葉にすればよいものか。この「なんか違うんだよねえ」という曖昧な反応をしている限り、グウィンの同意は得られないだろう。彼に理解してもらうには、違和感を言語化しなければいけないのだ。
「何とお答えするのです?」
「裸に足枷みたいな格好を求めなければ、何でもいいと思うよ。脱がせる楽しみはとっておきなさいって書いておいて」
「絶対にダメです」
だってエドワードきゅんの妄想内でのヒロインちゃんは、かろうじて薄布をまとっただけのほぼ全裸だったからなあ。超絶美人のナイスバディだから、コミカライズ映えしただろうね。Web小説は全部文字だから知らんけど! 全年齢の範囲の表現だったしね。
ここまでくればおわかりの通り、私はエドワードきゅんのヤンデレ行為を見ても、あまりNG行為だとは感じないのだ。これ以上はマズいなあという基準がガバガバすぎて、参考にならないのである。あばたもえくぼ、蓼食う虫も好き好き。重い愛は大好物。何とでも言ってくれ。
「じゃあ、相手の希望を聞いてから準備したらいいじゃん」
「はっきり聞くのは、野暮なのですよ。問われずとも、完璧なドレスを贈ることが重要なのです」
「もう我儘だなあ。劇的にセンスが良くない限り、サプライズは危ないって。仕方がないから、いつもヒロインちゃんのドレスを用意してくれているドレスメーカーを抱きこめばいいじゃない。そのまま侯爵家の出資を受け入れてくれたらなお良し!」
「そういえば、こちらの夜会にはお嬢さまも招待されていましたね。ドレスの用意はいかがいたしましょう」
「いつも通り、グウィンがいいと思うドレスを注文しておいて」
「相手の希望を聞くことは大切とおっしゃったばかりではありませんか?」
「グウィンがドレス選びに失敗したことなんてないじゃない。グウィンの見立ては完璧だもの。あと私が選ぶなら、コルセットなしで着用できるだるだるネグリジェもどきにするけれど大丈夫?」
「どうぞお任せください」
てきぱきと私の指示に従うグウィンは、今日は一段とカッコいい。いけないいけない、うっかり見惚れちゃったわ。何をしていても彼がキラキラと輝いて見えるのは、どうしてなのだろう。
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