推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。

石河 翠

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 というわけで、やってきました。王家主催の夜会です。

 ちらりと会場の中を確認してみたけれど、エドワードきゅんは見当たらない。侯爵家の跡取りというだけではなく、王太子の側近としても動いているようなので、意外と忙しいのかもしれない。この辺り、私の知っているWeb小説とやっぱり状況が変わっているんだよなあ。

 まあ変わったものは、エドワードきゅんだけではないのだけれど。私はなぜか私のパートナーとして出席しているグウィンを見ながら、会場の隅っこで絶品デザートをつついていた。

「それでこれからどうするつもりですか?」
「どうするって?」
「そもそもお嬢さまは、エドワードさまを応援することを目標としていたはず。ここでエドワードさまが無事にお相手と結婚した後は、お嬢さまの目標はどうなるのでしょうか」
「いやあ、本当にどうしようかしら。実はお父さまには、エドワードきゅんが幸せを掴むまでは婚約とかちょっと待ってほしいってお願いしていたのよ。でもエドワードきゅんがヒロインちゃんと結婚するなら、今後は政略結婚の相手を探すことになるんじゃないかしら? まあお父さまのことだし、もう相手は決まっているのかもしれないけれど」
「達観なさっているようですね。エドワードさまがお相手でないのなら、誰と結婚しても一緒だとお思いですか」
「あははは。そんな殊勝な心掛けじゃないって。この世界に来てから、推しというのは、恋愛対象とは違うものなんだなって実感しちゃったし」
「はあ?」

 いつも沈着冷静なグウィンがお酒の入ったグラスを取り落とす姿なんて、私は初めて目撃した。

「お嬢さま、一体何をおっしゃって……」
「いや、推しへの愛は永遠だと思っていたんだけれどね」

 この世界のエドワードきゅんは私にとってどうにもニセモノ感がぬぐえないのだ。現実世界からWeb小説の世界に転生してきた上に、ヤンデレ化を阻止しようとしてきたお前が言うなって話だけれど、こればかりはどうしようもない。

 だってあまりにも違いすぎる。イメージしていた声や見た目と違うとかそういうレベルではない。キャラクターの性格や行動が根本的に違う。あれだけ違ったら、もう別人なんだよ。

 私は心の中に闇を抱えつつも、一生懸命それを押さえてヒロインちゃんの幸せを願う彼が好きだった。前世、家族に恵まれなかった私にしてみれば、狂おしいまでにまっすぐにヒロインちゃんだけを求めるエドワードきゅんの姿こそが好ましかったのだ。

 もちろん何でもできるくせに大事なところで不器用な彼が幸せになることは、喜ぶべきことだとわかっている。彼の不幸な未来を変えたがったくせに、変わってしまった彼は彼ではないと言い出すなんて、私はどうかしているのかもしれない。

 でもきっと、エドワードきゅんが変わってしまったように、私も大きく変わってしまったのだと思う。蝶の羽ばたきは、私の心持ちにまで影響してしまったらしい。

 前世の私がエドワードきゅんに心のよりどころを求めたように、今世の私にはグウィンこそがこの世界でまっすぐ立つための手すりのようなものだった。グウィンは、私の妄想や妄言にずっと付き合ってくれた。彼がいなければ、前世を覚えていることに負担を感じ心を壊してきたかもしれない。怖いとか寂しいとか思わずに、ただただ日々を楽しく過ごせたのは辛辣に見えて実はとても優しいグウィンがいてくれたおかげだ。よくもまあ、この世界の常識を知らない私を見放すことなくお世話してくれたものだと思う。……給金がいいのかな?

 彼がいなければ、私はこの世界で生きていくことはできなかっただろう。社交界は、前世コミュ障には辛すぎる。そんな状況では、グウィンが現在最大の推しになっているのは当然とも言える。推し変、やってしまった……。浮気である。裏切りである。こんなことを本人に言える訳がない。ここまでエドワードきゅんへの愛を語っておいて、一番身近な相手に心惹かれちゃいましたとか絶対言えないじゃん。そう思っていたのに。

「お嬢さま、詳しく話を聞かせていただきましょうか?」

 眼鏡を光らせたグウィンにバルコニーに押し込まれた。やっぱり散々協力してきたのに、ここに来ての推し変とか許しがたいよね? ひとの道から外れた行いだよね? ひいいいい、ごめんなさいいいい。
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