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男爵令嬢リリスの事情(3)

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 ダミアンがどういう経緯でひとり暮らしをすることになったのか、リリスは知らない。本人曰く「偉大なる大魔術師は、おつきのものなどいなくても問題ない」ということらしいが、そんな答えで納得できるはずがなかった。

 そもそも魔術師ダミアンといえば、リリスでも知っている超有名人だ。ただし、善人かと聞かれると首をかしげたくなる。小さい子どもが夜遅くまで起きていると、「早く寝ないと、ダミアンにさらわれて薬の材料にされてしまうよ」と脅されるような、そういう類いの人物なのである。

 ひどい人間嫌いで使い魔を通してのみやり取りが可能だったとか、食に興味がなさ過ぎて好き嫌いさえなかったとか。魔法薬のためならどんな極悪非道な行為にでも手を染めたとか、錬金術に長けていて家は黄金でできていたとか。そういう眉唾な噂には事欠かない。

 周囲の迷惑をかえりみずあまりに自由気ままに生きていたため、業を煮やした当時の聖女により、不老と魔封じの呪いをかけられ、庶民に混じってひっそりと暮らしているという言い伝えさえ残っている。

 功罪さまざまな術式を残したこともあり、世紀の偉人とも、神をも恐れぬ愚者とも呼ばれる男。とはいえ、ちょっとカッコつけたいお年頃の男の子に大人気な人物、それが魔術師ダミアンであった。

 おそらくダミアンは、同名である魔術師としてふるまうことで孤独を紛らわせているのではないか。リリスはそう考えている。

 口は悪いが、ダミアンの立ち振る舞いは洗練されており、容姿もかなり整っている。普通の子どもだと思えるはずがなかった。どこぞの王族の落としだねか、はたまた家督争いから落伍したのか。

 たかが男爵の血を引いているだけで、リリスも貴族社会のごちゃごちゃに巻き込まれたのだ。この見るからに高貴な血筋の子どもを野放しにしておくのは危険過ぎる。

 まあ、娼館に送り込まれる前に老婆になってしまう自分のようなおっちょこちょいにはならないかもしれないが、それでも身の振り方を考えられるように、しつけてやらねば。

 下町育ちで、実は結構世話焼きなところのあるリリスは、彼女なりにいろいろと考えて子どもの世話をしているのであった。
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