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とはいえ、私とトーマスさまの仲が順風満帆というわけではない。殿下のお仕事を手伝いながら参加する予定だったお茶会を思い出し、小さくため息をついた。
「アデル、どうしたの? あ、ごめん。ちょっと疲れちゃったよね。休憩にしようか?」
「ありがとうございます。お茶を用意いたしますね」
「おやつは、僕が準備してきたよ!」
「まあ、こちらは入手困難なことで有名な人気店のものではありませんか」
「うん! アデルに喜んでもらいたくて」
「こちらのお店は、例えどんな身分の方であったとしても予約はお断りだったはずですが。殿下がお店に無理難題をふっかけるはずがありませんし……。まさか殿下、朝から行列に並んだのですか?」
「僕、頑張ったよ!」
「殿下、とても嬉しくはあるのですが、お付きの方を困らせてはいけません。いくら王都とはいえ、御身に何かあっては……」
「うううう、アデル、また僕やっちゃった? 本当にごめんなさい」
はあ、また教育係のようなことを言ってしまった。本当なら、「わざわざありがとうございます。とても嬉しいです」と微笑んでおけばいいのだろう。それなのに、ついいろいろ言いたくなるのは、おじいさまやお父さまのようなあんぽんたんになってほしくないという親心のようなもの。四つも年が違うせいか、私はついつい口うるさくなってしまう。隣国の王女殿下なら、こんなとき何と言って喜ぶのだろう。そんなことを考えてそっと頭を振った。
ちなみに今日のお茶会は、隣国の王女さまも出席予定だ。彼女は殿下よりも二つ年下。私からみれば六つも年下のお姫さまである。本当なら、殿下は彼女と婚約すべきだった。何せそもそも私は王太子殿下の婚約者候補だったのだから。年回りから考えてもそうなるべきだったのだ。それなのにあれよあれよという間に、トーマスさまとの婚約が調ってしまった。
殿下は、私よりも彼女と結婚した方が幸せに暮らせるのではないかしら。つい先日、彼女からいただいた個人的な手紙のことが脳裏をよぎる。久しぶりに会えるのを心待ちにしていると書かれていたけれど、あの手紙があったからこそ私はお茶会に参加したくなかった。
彼女からは、私が殿下と婚約解消をしたいならいつだって力になると言われているのだ。さらには、自分の兄の妻にならないかと誘われているが、私なんかが隣国の王妃になれるはずがない。けれど、彼女がそんな条件を出して揺さぶりをかけてくるくらい私とトーマスさまが釣り合っていないのなら、婚約を解消するべきなのだろうかと考えてしまう。
それに何より私は少し怖くなってしまったのだ。私と結婚したあとに、彼がおじいさまやお父さまのような屑になってしまうのではないかと。おじいさまやお父さまがもともと屑の遺伝子を持っていたのか、あるいはこの家の歴代女当主たちは、屑男を育成する才能に溢れているのかなんて、どうやったって調べようがないというのに。
「アデル、どうしたの? 顔色が悪いようだけれど」
「すみません、殿下、あの、私」
いけない、殿下の前だというのに。年上だというのに、こんなことで動揺してはいけない。ふらつきそうになるのを必死でこらえて微笑めば、おばあさまが部屋を訪ねてきた。
「ごきげんよう、殿下。ちょっと孫娘をお借りしてもいいかしら?」
「もちろんです!」
「それから、わたくしの夫があなたとお茶をしたいと言っているのだけれど」
「わかりました。それでは、今日は男性陣、女性陣でわかれてお茶会といたしましょうか」
「では、男性陣は離れに集合ね。わたくしは、娘と孫娘と一緒にこちらでお茶をいただくことにするわ」
「承知いたしました」
おばあさまの前では、普段はふわふわしている殿下も急に大人っぽくなる。そんな殿下の姿に頼もしさとほんの少しの寂しさを覚えながら、私たちはそれぞれ別のお茶会に参加することになった。
「アデル、どうしたの? あ、ごめん。ちょっと疲れちゃったよね。休憩にしようか?」
「ありがとうございます。お茶を用意いたしますね」
「おやつは、僕が準備してきたよ!」
「まあ、こちらは入手困難なことで有名な人気店のものではありませんか」
「うん! アデルに喜んでもらいたくて」
「こちらのお店は、例えどんな身分の方であったとしても予約はお断りだったはずですが。殿下がお店に無理難題をふっかけるはずがありませんし……。まさか殿下、朝から行列に並んだのですか?」
「僕、頑張ったよ!」
「殿下、とても嬉しくはあるのですが、お付きの方を困らせてはいけません。いくら王都とはいえ、御身に何かあっては……」
「うううう、アデル、また僕やっちゃった? 本当にごめんなさい」
はあ、また教育係のようなことを言ってしまった。本当なら、「わざわざありがとうございます。とても嬉しいです」と微笑んでおけばいいのだろう。それなのに、ついいろいろ言いたくなるのは、おじいさまやお父さまのようなあんぽんたんになってほしくないという親心のようなもの。四つも年が違うせいか、私はついつい口うるさくなってしまう。隣国の王女殿下なら、こんなとき何と言って喜ぶのだろう。そんなことを考えてそっと頭を振った。
ちなみに今日のお茶会は、隣国の王女さまも出席予定だ。彼女は殿下よりも二つ年下。私からみれば六つも年下のお姫さまである。本当なら、殿下は彼女と婚約すべきだった。何せそもそも私は王太子殿下の婚約者候補だったのだから。年回りから考えてもそうなるべきだったのだ。それなのにあれよあれよという間に、トーマスさまとの婚約が調ってしまった。
殿下は、私よりも彼女と結婚した方が幸せに暮らせるのではないかしら。つい先日、彼女からいただいた個人的な手紙のことが脳裏をよぎる。久しぶりに会えるのを心待ちにしていると書かれていたけれど、あの手紙があったからこそ私はお茶会に参加したくなかった。
彼女からは、私が殿下と婚約解消をしたいならいつだって力になると言われているのだ。さらには、自分の兄の妻にならないかと誘われているが、私なんかが隣国の王妃になれるはずがない。けれど、彼女がそんな条件を出して揺さぶりをかけてくるくらい私とトーマスさまが釣り合っていないのなら、婚約を解消するべきなのだろうかと考えてしまう。
それに何より私は少し怖くなってしまったのだ。私と結婚したあとに、彼がおじいさまやお父さまのような屑になってしまうのではないかと。おじいさまやお父さまがもともと屑の遺伝子を持っていたのか、あるいはこの家の歴代女当主たちは、屑男を育成する才能に溢れているのかなんて、どうやったって調べようがないというのに。
「アデル、どうしたの? 顔色が悪いようだけれど」
「すみません、殿下、あの、私」
いけない、殿下の前だというのに。年上だというのに、こんなことで動揺してはいけない。ふらつきそうになるのを必死でこらえて微笑めば、おばあさまが部屋を訪ねてきた。
「ごきげんよう、殿下。ちょっと孫娘をお借りしてもいいかしら?」
「もちろんです!」
「それから、わたくしの夫があなたとお茶をしたいと言っているのだけれど」
「わかりました。それでは、今日は男性陣、女性陣でわかれてお茶会といたしましょうか」
「では、男性陣は離れに集合ね。わたくしは、娘と孫娘と一緒にこちらでお茶をいただくことにするわ」
「承知いたしました」
おばあさまの前では、普段はふわふわしている殿下も急に大人っぽくなる。そんな殿下の姿に頼もしさとほんの少しの寂しさを覚えながら、私たちはそれぞれ別のお茶会に参加することになった。
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