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(5)寝かしつけ係は夢で出会う2
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「おい、起きろ」
「うーん、神子さま。まだ朝の鐘は鳴っていませんよ」
「それはそうだ、まだ夜だからな」
神子さまとは違う男の声。慌てて飛び起きると目の前にいたのは、先ほど足元にすがりついていた神官さまだった。
「嘘でしょう。まさか神子さまの部屋まで追いかけてきたんですか。この変態!」
「部屋に侵入などしていない」
「じゃあどうして私の前にいるんです」
「もともとここは……。いや、ちょっとした術で互いの夢を繋いでいるだけだ」
「なにそれ怖い。やっぱり変態じゃん」
このひと、本当に頭大丈夫なのかしら。まさか私に付きまとっているとみせかけて、神子さまのお命を狙っている間諜なのでは?
周囲を確認してみたけれど、夢を繋いだという言葉通り、神子さまの姿はない。今のところ、神子さまが危害を受ける心配はしなくていいみたい。
「いくら美少年とはいえ、神子さまに付きまとうのはやめてください。女性への付きまといはいけませんが、私を隠れ蓑にして年下の少年に懸想するのはもっと良くないかと」
「は?」
「人間、諦めが肝心ですよ」
「……お前、また腐った妄想を繰り広げているな。俺の顔を見て何か気がつかないか?」
「はあ、腹が立つくらい整ったお顔ですね」
「それだけか」
「声をかけられてなびかなかったからって、今度は八つ当たりですか。やだやだ」
「俺の顔に見覚えはないのかと聞いている」
呆れたようにため息をつかれ、改めて神官さまを観察してみた。結い上げた艶やかな長い髪に鼻筋の通った顔立ち。瞳や髪の色合いは神子さまによく似ていて……。
「もしかして……」
「そうだ、俺は」
「神子さまは、あなたの弟なんですか!」
「違う!」
なぜか大声で否定された。いや、今まで気づかなかった私が言うのもなんだけど、めちゃくちゃそっくりじゃない。血縁者じゃないとかありえないでしょ。
「弟じゃないなら、まさか息子?」
「そんなわけあるか!」
「なるほど。いわゆる遠い親戚ってやつですね?」
「はあ、もうそういうことにしておいてくれ」
つまり、訳ありってことね。高貴な方の御落胤なのかしら。
「お前と話すと疲れるな」
「奇遇ですね、私もですよ。そういうわけで、さっさと夢の繋がりを切ってください」
「俺は、お前が求婚を断った理由を聞きたいだけだ」
「それだけ? それだけのために、わざわざ貴重な魔力を使って夢を繋いだんですか? はあ、神官さまって本当によくわからないわ」
まあ女日照りをこじらせたあげく、頭が沸いてしまったひとが正常な判断を下せるわけがないか。
「そもそもよく知らない相手に求婚されて、承諾するほうがおかしいでしょう」
「うっ」
「あなたの場合は、よく知らないどころか出会い方が変質者でしたし」
「他に男がいるわけではないのだな」
「ここには基本的にご高齢の神官さまたちしかいらっしゃらないじゃありませんか。若手の神官さまにお会いしたのは、あなたが初めてですよ」
なんかこの会話、さっきもどこかでしたような?
ふと彼の指先を見ると、神子さまと同じように指先が桑の実で染まっていた。こんな美貌の男性でも、指先を汚して桑の実を食べるのかしら。自分で食べた癖に女性に食べさせてもらったつもりになるなんて、怖いを通り越してちょっと可哀想になってきた。
本当なら、平民で嫁き遅れの私にはもったいないほどの優良物件なのだろう。でももう傷つくのは怖いから。
「結婚してあげることはできませんが、今日漬けたばかりの桑の実酒を一瓶差し上げましょう」
「なに、いいのか!」
途端に目を輝かせる神官さま。意外といける口らしい。おっと危ない、言い忘れるところだった。
「実際に飲めるのは半年ほど先ですからね。ちゃんと我慢してくださいね」
「ここでもまた生殺しか!」
「しょっちゅう私が誰かを生殺しにしているような言い方はやめてください」
このひとの発言、本当に誤解しか生まないな。何でもいいから、早く現実の世界に返してちょうだい。お願いします。
翌朝貯蔵庫の中を確認してみたところ、仕込んでおいた桑の実酒が本当に一瓶消えていた。恐るべし、神官さまの術。
「うーん、神子さま。まだ朝の鐘は鳴っていませんよ」
「それはそうだ、まだ夜だからな」
神子さまとは違う男の声。慌てて飛び起きると目の前にいたのは、先ほど足元にすがりついていた神官さまだった。
「嘘でしょう。まさか神子さまの部屋まで追いかけてきたんですか。この変態!」
「部屋に侵入などしていない」
「じゃあどうして私の前にいるんです」
「もともとここは……。いや、ちょっとした術で互いの夢を繋いでいるだけだ」
「なにそれ怖い。やっぱり変態じゃん」
このひと、本当に頭大丈夫なのかしら。まさか私に付きまとっているとみせかけて、神子さまのお命を狙っている間諜なのでは?
周囲を確認してみたけれど、夢を繋いだという言葉通り、神子さまの姿はない。今のところ、神子さまが危害を受ける心配はしなくていいみたい。
「いくら美少年とはいえ、神子さまに付きまとうのはやめてください。女性への付きまといはいけませんが、私を隠れ蓑にして年下の少年に懸想するのはもっと良くないかと」
「は?」
「人間、諦めが肝心ですよ」
「……お前、また腐った妄想を繰り広げているな。俺の顔を見て何か気がつかないか?」
「はあ、腹が立つくらい整ったお顔ですね」
「それだけか」
「声をかけられてなびかなかったからって、今度は八つ当たりですか。やだやだ」
「俺の顔に見覚えはないのかと聞いている」
呆れたようにため息をつかれ、改めて神官さまを観察してみた。結い上げた艶やかな長い髪に鼻筋の通った顔立ち。瞳や髪の色合いは神子さまによく似ていて……。
「もしかして……」
「そうだ、俺は」
「神子さまは、あなたの弟なんですか!」
「違う!」
なぜか大声で否定された。いや、今まで気づかなかった私が言うのもなんだけど、めちゃくちゃそっくりじゃない。血縁者じゃないとかありえないでしょ。
「弟じゃないなら、まさか息子?」
「そんなわけあるか!」
「なるほど。いわゆる遠い親戚ってやつですね?」
「はあ、もうそういうことにしておいてくれ」
つまり、訳ありってことね。高貴な方の御落胤なのかしら。
「お前と話すと疲れるな」
「奇遇ですね、私もですよ。そういうわけで、さっさと夢の繋がりを切ってください」
「俺は、お前が求婚を断った理由を聞きたいだけだ」
「それだけ? それだけのために、わざわざ貴重な魔力を使って夢を繋いだんですか? はあ、神官さまって本当によくわからないわ」
まあ女日照りをこじらせたあげく、頭が沸いてしまったひとが正常な判断を下せるわけがないか。
「そもそもよく知らない相手に求婚されて、承諾するほうがおかしいでしょう」
「うっ」
「あなたの場合は、よく知らないどころか出会い方が変質者でしたし」
「他に男がいるわけではないのだな」
「ここには基本的にご高齢の神官さまたちしかいらっしゃらないじゃありませんか。若手の神官さまにお会いしたのは、あなたが初めてですよ」
なんかこの会話、さっきもどこかでしたような?
ふと彼の指先を見ると、神子さまと同じように指先が桑の実で染まっていた。こんな美貌の男性でも、指先を汚して桑の実を食べるのかしら。自分で食べた癖に女性に食べさせてもらったつもりになるなんて、怖いを通り越してちょっと可哀想になってきた。
本当なら、平民で嫁き遅れの私にはもったいないほどの優良物件なのだろう。でももう傷つくのは怖いから。
「結婚してあげることはできませんが、今日漬けたばかりの桑の実酒を一瓶差し上げましょう」
「なに、いいのか!」
途端に目を輝かせる神官さま。意外といける口らしい。おっと危ない、言い忘れるところだった。
「実際に飲めるのは半年ほど先ですからね。ちゃんと我慢してくださいね」
「ここでもまた生殺しか!」
「しょっちゅう私が誰かを生殺しにしているような言い方はやめてください」
このひとの発言、本当に誤解しか生まないな。何でもいいから、早く現実の世界に返してちょうだい。お願いします。
翌朝貯蔵庫の中を確認してみたところ、仕込んでおいた桑の実酒が本当に一瓶消えていた。恐るべし、神官さまの術。
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