偽聖女として断罪追放された元令嬢は、知らずの森の番人代理として働くことになりました

石河 翠

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7.白花との約束

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『まったく。おかしな魔力の流れがあると思っていたが。こちらを呼びつけたのはそなたか?』
『?』

 唐突に目線が高くなる。先ほどまで簡易結界に覆われながら地面に倒れ込んでいたが、今は見知らぬ声の主に抱えられているらしい。四肢の感覚もあいまいな中で、リリィは涙でぐちゃぐちゃになった顔で相手を見上げた。雪のように真っ白な麗人がリリィのことを抱き上げている。

『なぜ泣いている? 身体が痛いのか?』
『私なんかをかばったせいで、お母さまが死んでしまった。私のことを守る必要なんてなかったのに』
『親であれば、子どもは守るものであろう?』
『私は、お母さまが望んで産んだ子どもではないもの。大事じゃない私のために、どうしてお母さまは魔術なんて使ってしまったの』

(お母さまが自分と騎士団長さまを守る防護結界を張っていれば、ふたりだけでも助かったかもしれないのに)

 本当はリリィだってとっくに知っていた。リリィの母は、騎士団長と結婚する予定だったのだ。それをリリィの父方の祖母、リリィの母にとっての姑が無理を言って息子の妻にしたのである。それは領内ではあまりにも有名な話。幼いリリィの耳に入らないように母は苦心していたようだが、何せひとの口に戸はたてられない。

『奥さまは、お気の毒ね。結婚式直前に無理矢理破談させられたのでしょう? その癖、大切にしてもらえないなんて』
『決して逃げ出さないように屋敷に閉じ込め孕ませる。子どもが生まれれば用済みとばかりに一切顧みられない。お子を身ごもらなければ、子どもができないことを理由に離縁を申し立てられたでしょうに』
『あらそれはどうかしら。あの旦那さまじゃあ、領地の運営なんてできないと思うわ。結局、奥さまが離縁してもらうことは難しかったのではないの。結局、お飾りの妻として働かされたに違いないわ』

 屋敷の中では、おしゃべりなすずめたちがあちらこちらでさえずっている。リリィにはわからないと思っているのか。それともリリィが事情をわかったところで、どうでもいいと思っているのか。子どもだって、悪意には気が付くというのに。

『そう考えると、騎士団長さまって一途よねえ。嫁をとることもなく、いまだにお仕えしていらっしゃるのだから』
『お相手を見つけたところで、旦那さまからねちねち言われて、痛くもない腹を探られることになるだけですもの。お相手のことを考えれば、結婚しないという結論に至ったのかもしれないわよ。それに騎士団長さまが旦那さまの嫌味を引き受けているからこそ、奥さまは無駄な嫌がらせをされずに済んでいるわけで』
『本当にお気の毒な奥さまと騎士団長さま』

 リリィはいろんなことを知っていたから、できるだけいい子でいられるようにしていた。父には母と自分以外に大切な家族がいて、それは世間一般的には正しくない行いらしい。けれど母は、この屋敷で当主の奥方として領地を守っていかねばならないのだという。

 何もかもがいびつな自分の家族。それならば、自分は少しでも正しい令嬢にならなくては。せめて後ろ暗いところなく、前を向き、誰にとっても恥ずかしくない令嬢でいなくては。そうして必死に令嬢らしくあろうと日々を生きていて、リリィは今、母を失い、自分もまた死にかけている。

『こんなところまでひとを呼びつけたのだ。願いを言うがいい。対価は必要だが、たいていのことは叶えてやろう』

 願いを叶えてくれるなんて、この方はお伽噺に出てくる黒の魔女さまみたい。けれど目の前の麗人は、黒とは真逆の色をしている。ぼうっとしたまま固まっていると、子どもの相手に慣れていないのか、どこかぶっきらぼうに麗人は言った。

『もしや、痛みで口がきけないのか?』

 リリィは静かに首を横に振る。あんまりな出来事が立て続けに起きていて、考えがうまくまとまらないだけだ。確かにとっさに「助けてほしい」と願ったのはリリィ自身だけれども、具体的に何を願えばこの惨状をどうにかできるのか、想像もつかない。

 それに、「正しい令嬢」であるために頑張ってきたところで、結局何もかもが無駄になってしまったのだ。リリィがない知恵をしぼって何か願いを口にしたところで、うまくいくとも思えなかった。だから、リリィは最期の最後に自分を守ってくれた母を頼ることにした。

『お母さまの願いを叶えてほしいです』
『そなたの母の願いか? お前は母の願いを知っているのか?』
『わかりません。わからないものは、叶えられないのですか?』
『死んでしまったものを生き返らせることはできぬ。だが、最期の望みを知ることはできなくはない』

 母の願いが何なのか。リリィにはわからない。けれど、母の望みが叶えられるならば、自分が生き残ってしまったことへの償いにはなるような気がした。
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