リポグラム短編集~『あい』を失った女~

石河 翠

文字の大きさ
49 / 55

夜の『おちゃ』をあなたと

しおりを挟む
条件:「お」「ぉ」「ち」「ぢ」「や」「ゃ」を使用してはならない。



 職場しょくばにある戸棚とだなが、へんだとうわさになった。よるになるとかりかりかたかた、みょうさわがしいらしい。ねずみがはいんだ可能性かのうせいもあるそうで、確認かくにんしてくれないかと上司じょうしたのまれてしまった。ただでさえサービスさあびす残業ざんぎょうだというのに、このうえさらに余計よけい用事ようじいつけられるとは、本当ほんとうについていない。

 駆除くじょ依頼いらいするとなると結構けっこう金額きんがくがかかるらしい。なんとか自力じりきたのむとわれ、ねずみシートしいと片手かたて恐々こわごわのぞいてみたものの、戸棚とだななかには年代物ねんだいものティーカップてぃいかっぷがひとくみあるだけだ。動物どうぶつはいめそうなあなもないし、へんよごれもない。

 そういえば職場しょくばぼうメーカーめえかあサブスクさぶすく導入どうにゅうしてから、もの各自かくじつくることになっている。会議かいぎなどがあっても、用意よういするものは、ペットボトルぺっとぼとる使つかての紙コップかみこっぷがすっかり定番ていばんになってしてしまった。便利べんりというだけではなく、衛生的えいせいてきという意味いみでもこのまれているのだとか。

 もしかしてかれらは戸棚とだななかさびしさにえかねていたのだろうか。カップかっぷしてみれば、年季ねんきはいっているがとても上等じょうとう代物しろものだった。さっと消毒しょうどく使つかってみることにした。とはっても、同期どうきにもらった有名メーカーゆうめいめえかあティーバッグてぃいばっぐ利用りようするだけなのだけれど。

 せっかくなのでものをくれた同期本人どうきほんにんにもこえをかけてみた。わたしはなしいたあと、付喪神つくもがみかなと真面目まじめ表情ひょうじょううものだから、ついしてしまいそうになる。さすがにこのカップかっぷは、九十九きゅうじゅうきゅうねん居座いすわってはいないのではなかろうか。

 ひさしぶりに使つかわれて満足まんぞくしたのか、戸棚とだなかいはなくなった。といたいところだが、定期的ていきてき使つかってあげないとねずみ騒動そうどうかえすようになったため、わたし同期どうきによるよるティーパーティーてぃいぱあてぃいいまだにつづいている。

 目下もっか課題かだいは、同期どうき転勤てんきん結婚けっこんすることになったため、今後こんごこのカップかっぷだれたくすべきかということだったりする。我々われわれ同様どうよう職場内結婚しょくばないけっこんだった上司じょうしるに、このティーカップてぃいかっぷはなかなか進展しんてんしないじれったい男女だんじょむすびつける、縁結えんむすびのかみさまみたいなものなのだろう。

 その誰彼だれかれかまわず見合みあいをってくる田舎いなかのばあさんみたいなものかとかれった途端とたんに、ねずみどころかぞうのようにカップかっぷあばれだしたので、かみさまは大層気難たいそうきむずかしい貴婦人きふじんらしいと判明はんめいした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...