[異世界恋愛短編集]私のせいではありません。諦めて、本音トークごと私を受け入れてください

石河 翠

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2.ひと夏の思い出さえあれば、愛のない結婚だって耐えられると思っていた。そのはずだったのに。

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 アザレアの国では重要視されていなかったが、本来魔術の術式というのは魔術師が秘匿するほど特別なものらしい。無詠唱魔術として仕上げるのは、相手に情報が漏れるのを防ぐことが目的な場合が多いのだとか。

 ただ単に八つ当たりの相手を逃がさないために無詠唱魔術を行使したアザレアは、そんな説明を聞かされて内心で頭を抱えていた。そもそもアザレアの国では、女たちが使う魔術は無詠唱が基本なのだ。魔女として爪弾きにあいながら、隠しもせずに魔術の研究をするアザレアは奇異な人間として扱われていたのである。

「私が知っているものでよければ、術式を教えてあげるわ」
「教えてもらうならば対価を用意せねば」
「そこまでたいしたものじゃないわよ」
「アザレア、君はもっと自分の価値を認識したほうがいい!」
「それならバートが知っていることを私に教えてくれる? 私、魔術以外のことはからきしみたいなの」

 アザレアは、バートにたくさんのことを教わった。世界は信じられないくらい広いこと、物の見方は時代や国によっても大きく変わること。忌み嫌われていたはずの自分のことをバートは心から愛してくれているらしいこと。それらを心から理解したとき、アザレアは世界の色が変わったような衝撃を受けた。そして気が付けば、アザレアはバートのことが誰よりも大切になっていたのだった。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。傷心旅行として国外で過ごしていたアザレアにも、父親から帰還命令が届いていた。どうやら方針が固まったらしい。例の元婚約者たちの詳細はわからないが、アザレアが国外に嫁ぐことが決定したということなのだから、おそらく彼らは国内に残るのだろう。

「夏もそろそろ終わりね」
「急にどうしたんだい」
「父から帰ってこいと連絡が来たのよ。私の夏休みはここで終わりみたい」

 終わりなのは、夏休みではなくひと夏の恋の方なのだけれど。それでも最後は笑って別れると決めていたから、アザレアはあくまで軽く告げてみた。そもそも涙を流せばいつもの気弱なアザレアが顔を出してしまうだろうから。彼には、世間知らずだけれど自信満々でいい女なアザレアだけを覚えておいてほしい。髪に口づけが落とされるのを気が付きながら、アザレアは静かに受け入れる。

 彼はこんな風に悲しんでくれているけれど、きっとすぐに自分のことを忘れて素敵な女性と結婚するだろう。そして綺麗な奥さんと可愛らしい子どもたちに囲まれて、幸せに老いていくのだ。そこにアザレアが立ち入る余地はないけれど、自分が心惹かれたひとが幸せになるに違いないと確信を持てるだけで、こんなにも心は安らぐのだと知った。
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