龍の花嫁は、それでも龍を信じたい

石河 翠

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龍の花嫁は、それでも龍を信じたい(3)

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 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 困惑する私の横で、今日もまたさも当然のようにのんびりと過ごす高貴なひと。彼は、誰もが敬い同時に恐れる龍爪花をなぎ倒し、昼寝にちょうど良い場所を確保して悠々と寛いでいる。一度きりの気まぐれかと思いきや、少年は毎日のようにここを訪れるようになってしまった。

「こんなもの、ただの花でしかあるまい。一体何を神聖視しているのやら」

 肩をすくめするように笑う彼は、屈託のない子どものようにも、年を重ねた老人のようにも見えた。ひらひらと赤い花びらが空に舞う。

 客人をもてなそうにもここにはまともな椅子ひとつないのだが、それもとりたてて気にならないらしい。私とともに沢の水を飲み、木の実を食べ、畑を耕す。時にはどうやったのか兎や鴨などを捕まえてきてくれる。彼と過ごす中で、誰かとともにする食事の美味しさを私は知った。

 花守といえど、この花畑でやることは実はほとんどない。龍爪花は、特別な手入れなどせずともよく育つ。だから花守という仕事はきっと、穢れである私を閉じ込めるためのていの良いこじつけに過ぎないのだ。

 けれど彼は、こんなところで油を売っていてもよいのだろうか。それとも高貴な方には息抜きも必要なのだろうか。天上人のことはよくわからない。いずれにせよ、私には彼に問いかけるための手段すらないのだから考えるだけ無駄なのだけれど。難しいことを考えていれば頭が痛み始める。私はそっとこめかみに手を当てた。

 そんな私のことをどう思ったのか、少年が私の頭を撫でた。じんわりとてのひらの熱が広がっていく。自身の顔に笑みが浮かんでいたことに気づき、慌てて唇を噛んだ。ああ、戒めを破ってはいけない。

 初めて感じるひとの温もり。私という存在を認めてもらう心地よさ。戒律を破ることの恐ろしさと、不思議なほどの高揚感。

 彼のおとないは、私にとって好ましいものだった。たったひとつ、彼が私を外へ連れ出そうとすることを除いては。
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