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第三章
(1)校内で年賀状を書くことになりました。
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「え、学校のみんなに年賀状を書くんですか?」
「はい、そうですよ。職員室前の廊下に段ボールでできた専用ポストを置いておきますので、そこに出してくださいね。ハガキは学校で用意していますので、郵便局でハガキを買う必要はありません」
「は、はい」
「せっかくだから、クラスメイトだけではなくていろんな学年のひとに出してみてください。縦割り班で仲良くなったみんなにハガキを出したら、きっと喜んでくれますよ。もちろん、先生たちに出してもらっても大丈夫ですから」
何も変なことは言っていませんよとばかりに、担任の先生がにっこり笑っている。小学校の総合の授業で、全校生徒宛に年賀状を書くと聞いてわたしは目を瞬かせた。学校内でお互いに年賀状を送りあうなんて、聞いたことがない。しかもできれば全員に、なんてびっくりしてしまう。まあ、人数が少ない小学校だからできるのかもしれないね。前の学校なんて千人くらい小学生がいるから、仕分けするのもきっと大変だもの。想像しただけでうんざりしてしまう。
「ハガキはとりあえず十枚ずつ配っておきます。ここにたくさんあるから、書きたいひとはどんどん書いてくださいね」
先生がひらひらとハガキを見せている。山のようなハガキは、先生の机の上に崩れないように箱に入れて置かれることになった。あんなにたくさん作って余ったらもったいないんじゃないかとも思ったのだけれど、毎年、あれくらい簡単になくなってしまうらしい。みんな筆まめすぎる。
配られた小学校特製のハガキは、切手の代わりに動物のスタンプが押してあった。毎年校長先生がその年の干支の消しゴムスタンプを作っているんだって。ということは、これはヘビなんだよね? 隣に片仮名でヘビと書かれていなかったらヘビだと認識できない謎の生き物が、楽しそうにこちらを向いていた。
もともと年賀状なんて書いたことがない。四年生の国語の時間に、手紙の書き方の授業はあった。その時にハガキの書き方が書かれたシートももらったし、郵便ハガキも一枚もらっている。でも、あのときも結局ハガキは出さなかったんだ。だって、急に手紙を出そうとしても、わたしは相手の住所を知らないんだもの。
あの頃お父さんやお母さんに送り先の住所を聞くことはできなかったし、LINEで連絡を取れる相手なら別にハガキを出す必要ってないような気がしていた。今だって、そう思っている。学校内の年賀状なんて、それこそ毎日顔を見ている相手に送ることになっちゃうのに、それでも年賀状ってほしいものなのかな。でも先生は、にこにこと笑いながら年賀状の良さを力説していた。わたしにはちょっとよくわからない。
***
茜ちゃんがいたら、少なくとも一枚はすらすらと書くことができたんだろうな。そんなことを考えたけれど、茜ちゃんはもういない。茜ちゃんのお父さんに連絡をした後、びっくりするくらい早く、茜ちゃんのお父さんは茜ちゃんを迎えにやって来た。
茜ちゃんも「年末年始のお休みに迎えに来てくれるんじゃないかな。さすがにそこは、病院自体がお休みになるから」って言っていたから、冬休みに一緒に遊ぶ計画も立てていたんだよね。でも、茜ちゃんのお父さんは茜ちゃんを待たせなかった。茜ちゃんも平気な顔をしていたけれど、やっぱり心細かったみたいで、お父さんの顔を見た後はずっとぽろぽろ涙をこぼしていた。
それからあっという間にお別れ会をして、茜ちゃんは東京に行ってしまった。もとの小学校に戻ることができたそうで、今は楽しく小学校にも塾にも通っているみたい。茜ちゃんが楽しそうのがメッセージで伝わってきて、嬉しいけれどやっぱりちょっと寂しい。茜ちゃんはこの島で一番わたしが仲良くなった相手だったから。
「大丈夫。美優ちゃんなら、きっとみんなと仲良くできるよ。あたしみたいなのとも、仲良くしてくれたんだからさ」なんて茜ちゃんは言っていたけれど、言葉はきつくてもぐいぐい来てくれる茜ちゃんだったから、わたしは仲良くできたんだよ。自分から誰かに話しかけるのは、やっぱり難しいな。
全校生徒にハガキを書くというのは、他の学年の児童にもハガキを書くということだ。でもハガキを書くほど相手のことを知らないときには、どうしたらいいのかなあ。くるくるとペンを回しながら考えてみる。
何を書いたらいいんだろう。周りを見てみると、みんな結構すらすらと書き始めていてびっくりしてしまった。転校してきたばかりなのに、年賀状に書くことなんて全然ないよ。「あけましておめでとう。今年もよろしくね」って全員に書いてしまおうかとも思ったけれど、誰に何を書いたなんてすぐにわかっちゃうよね。
それに、文字だけだと余白が余り過ぎていて困ってしまう。ねずみとかひつじとかならともかく、へびなんて可愛いイラストにするのも難しい。図工とか苦手なのに、どうしたらいいの。頭を抱えていたわたしは、クラスメイトの碧生くんが困ったような顔で白紙を見つめていることに気が付いた。
「はい、そうですよ。職員室前の廊下に段ボールでできた専用ポストを置いておきますので、そこに出してくださいね。ハガキは学校で用意していますので、郵便局でハガキを買う必要はありません」
「は、はい」
「せっかくだから、クラスメイトだけではなくていろんな学年のひとに出してみてください。縦割り班で仲良くなったみんなにハガキを出したら、きっと喜んでくれますよ。もちろん、先生たちに出してもらっても大丈夫ですから」
何も変なことは言っていませんよとばかりに、担任の先生がにっこり笑っている。小学校の総合の授業で、全校生徒宛に年賀状を書くと聞いてわたしは目を瞬かせた。学校内でお互いに年賀状を送りあうなんて、聞いたことがない。しかもできれば全員に、なんてびっくりしてしまう。まあ、人数が少ない小学校だからできるのかもしれないね。前の学校なんて千人くらい小学生がいるから、仕分けするのもきっと大変だもの。想像しただけでうんざりしてしまう。
「ハガキはとりあえず十枚ずつ配っておきます。ここにたくさんあるから、書きたいひとはどんどん書いてくださいね」
先生がひらひらとハガキを見せている。山のようなハガキは、先生の机の上に崩れないように箱に入れて置かれることになった。あんなにたくさん作って余ったらもったいないんじゃないかとも思ったのだけれど、毎年、あれくらい簡単になくなってしまうらしい。みんな筆まめすぎる。
配られた小学校特製のハガキは、切手の代わりに動物のスタンプが押してあった。毎年校長先生がその年の干支の消しゴムスタンプを作っているんだって。ということは、これはヘビなんだよね? 隣に片仮名でヘビと書かれていなかったらヘビだと認識できない謎の生き物が、楽しそうにこちらを向いていた。
もともと年賀状なんて書いたことがない。四年生の国語の時間に、手紙の書き方の授業はあった。その時にハガキの書き方が書かれたシートももらったし、郵便ハガキも一枚もらっている。でも、あのときも結局ハガキは出さなかったんだ。だって、急に手紙を出そうとしても、わたしは相手の住所を知らないんだもの。
あの頃お父さんやお母さんに送り先の住所を聞くことはできなかったし、LINEで連絡を取れる相手なら別にハガキを出す必要ってないような気がしていた。今だって、そう思っている。学校内の年賀状なんて、それこそ毎日顔を見ている相手に送ることになっちゃうのに、それでも年賀状ってほしいものなのかな。でも先生は、にこにこと笑いながら年賀状の良さを力説していた。わたしにはちょっとよくわからない。
***
茜ちゃんがいたら、少なくとも一枚はすらすらと書くことができたんだろうな。そんなことを考えたけれど、茜ちゃんはもういない。茜ちゃんのお父さんに連絡をした後、びっくりするくらい早く、茜ちゃんのお父さんは茜ちゃんを迎えにやって来た。
茜ちゃんも「年末年始のお休みに迎えに来てくれるんじゃないかな。さすがにそこは、病院自体がお休みになるから」って言っていたから、冬休みに一緒に遊ぶ計画も立てていたんだよね。でも、茜ちゃんのお父さんは茜ちゃんを待たせなかった。茜ちゃんも平気な顔をしていたけれど、やっぱり心細かったみたいで、お父さんの顔を見た後はずっとぽろぽろ涙をこぼしていた。
それからあっという間にお別れ会をして、茜ちゃんは東京に行ってしまった。もとの小学校に戻ることができたそうで、今は楽しく小学校にも塾にも通っているみたい。茜ちゃんが楽しそうのがメッセージで伝わってきて、嬉しいけれどやっぱりちょっと寂しい。茜ちゃんはこの島で一番わたしが仲良くなった相手だったから。
「大丈夫。美優ちゃんなら、きっとみんなと仲良くできるよ。あたしみたいなのとも、仲良くしてくれたんだからさ」なんて茜ちゃんは言っていたけれど、言葉はきつくてもぐいぐい来てくれる茜ちゃんだったから、わたしは仲良くできたんだよ。自分から誰かに話しかけるのは、やっぱり難しいな。
全校生徒にハガキを書くというのは、他の学年の児童にもハガキを書くということだ。でもハガキを書くほど相手のことを知らないときには、どうしたらいいのかなあ。くるくるとペンを回しながら考えてみる。
何を書いたらいいんだろう。周りを見てみると、みんな結構すらすらと書き始めていてびっくりしてしまった。転校してきたばかりなのに、年賀状に書くことなんて全然ないよ。「あけましておめでとう。今年もよろしくね」って全員に書いてしまおうかとも思ったけれど、誰に何を書いたなんてすぐにわかっちゃうよね。
それに、文字だけだと余白が余り過ぎていて困ってしまう。ねずみとかひつじとかならともかく、へびなんて可愛いイラストにするのも難しい。図工とか苦手なのに、どうしたらいいの。頭を抱えていたわたしは、クラスメイトの碧生くんが困ったような顔で白紙を見つめていることに気が付いた。
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