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第三章
(2)年賀状を書くのは難しいです。
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クラスメイトが少ないからと言って、何でも話せるわけじゃない。むしろ、クラスメイトが少ないと、他のひとの雑談にまぎれて内緒話なんかもできるけれど、今の小学校みたいに片手で足りる人数しかいないと、どんな話も周りに筒抜けだ。だから、碧生くんの様子は気になったけれど、その時間は声をかけることができなかったんだ。
チャンスが巡ってきたのは、五時間目。どこの学校もそうだと思うけれど、冬になると毎日二、三人は欠席の子が出てくる。うん、二、三人ね。クラスメイトの人数が多ければ、特に問題のない人数だと思う。実際、前の学校ではひとクラスに四十人近くの児童がいたから、教室の中はみっちみち。お休みの子がいて、逆にやっとスペースにゆとりができるって感じだったし。
でも、もともの人数が少ない学校だと事情は思い切り変わってしまう。まずわたしが転校してきた直後は、五年一組はわたしを入れて六人だった。でも、茜ちゃんがいなくなって五人になったのは最近の話。それで今日はもともと二人が欠席だったのだけれど、もう一人が給食前に発熱で早退になっちゃったんだ。おかげで残りはわたしと碧生くんの二人きり。
さらに、隣の六年生の担任の先生も発熱で早退しちゃったそうだ。でも六年生はみんな頑張って学校に来ているみたいで、ほぼ全員が登校しているらしい。六年生の強さは素晴らしいことなのだけれど、授業ができる先生の数が足りないことになったんだって。
校長先生と教頭先生は、欠席した他のクラスの先生の代わりに授業をしているみたい。だからもう六年生の担任の先生の代わりはいなくて、わたしたちの担任の先生がピンチヒッターに選ばれちゃったんだ。なんだかパズルみたいだね。
四時間目の総合の時間に年賀状作りが始まったところだったから、自習の時間でハガキを書いてもらえばちょうどいいと思ったみたい。まあ、確かにそう言われればそうだけれど。
数少ないクラスメイトで、すべての班活動も同じなのだから、まったく話をしたわけではないのだけれど……。困ったなあと頭を抱えていると、碧生くんも先ほどの総合の時間と同じ表情でこちらを見つめ返していた。
***
「碧生くんは、誰に校内年賀状を渡す予定なの?」
質問はわかりやすく、相手が答えやすい形が望ましい。だから一番わたしが聞きたくて、碧生くんが答えやすそうな質問をしたつもりだったのだけれど、碧生くんは固まってしまった。もしかして、校内に仲が良いひとがいなかったりするのかな。それなら悪いこと聞いちゃったかな。
私も碧生くんも誰も口を利かない。時計のチクタクという音が耳に大きく響いてしまって妙に緊張してしまう。しばらくして、口を開いたのは碧生くんのほうだった。
「僕んちさ、今年喪中なんだよね。校内とはいえ年賀状を出してもいいのかな?」
えーと、もちゅう……って、あ、喪中か!
ときどき、カラフルじゃない、どこかうっすらとした色合いのハガキが、年賀状が来る時期に来ていたような気がする。年賀状の前だったか、後だったか、その辺りの詳しいことは覚えていないけれど。ハガキの内容は確か……。
「碧生くんち、今年、誰か亡くなったの?」
「じいちゃんだよ」
「そう、なんだ」
なんと言っていいかわからなくて、口ごもる。お父さんやお母さんならこういうとき、「ご愁傷さまです」なんて言うのだろうけれど、面識もないわたしがその言葉を使うのは何だか妙な気がした。もごもごしていると、わたしがなんと言っていいかわからないことに、碧生くんも気が付いてくれたらしい。
「じいちゃんは大往生だったよ。海に漁に出かけて、そのまま倒れちゃったんだってさ。船から海に転落しなかったのは不幸中の幸いだったみたいだね」
「そっか。長生きなおじいちゃんだったんだね」
でもひとが亡くなっている状態で、「大往生だったから、別に良いよね。ぴんぴんころりで、よかったね!」というわけには、やっぱりいかない。だからひとまず、校内年賀状と喪中の関係について考えてみることにした。
「あくまで校内年賀状は校内だけのシステムなんだから、あんまり考えすぎないほうがいいんじゃないのかな。しかも授業で、『書きましょう、書いて下さい、書け』みたいな感じで年賀状を書かせようとしているわけだし」
「そっか。授業だから、喪中でも年賀状を出しても『仕方ない』で許してくれるかな」
「うん、大丈夫だと思うよ。むしろ『喪中だから無理です』って言って書かない方が、先生たちは困るかもしれないね」
「それもそうか」
碧生君が、困ったように校内年賀状用のハガキをぴらぴらと振ってみせる。
「あのさ、僕、年賀状を出したい相手はいるんだ」
「そうなんだ。じゃあ少なくとも、ひとりは書きたい相手がいるんだね。わたしはどうしようかな。一番手紙を贈りたい茜ちゃんは、今はこの学校にいないし」
LINEで住所を聞けば、茜ちゃんの東京のお家の住所はわかると思うのだけれど。なかなかおっくうで身体が動かない。わたしが茜ちゃんの名前を出すと、碧生くんはうんうんとうなずいてた。
「僕が年賀状を出したい相手も、この学校の中にはいないんだ」
「転校しちゃったの?」
「ううん、本土に住んでいる従兄弟なんだ。そもそも、向こうは夏休みとか冬休み以外はこの島に遊びに来ないからね」
そのまま寂しそうに眉を下げた碧生くんは、「まあ、喧嘩の仲直りを年賀状でどうにかしたいなんて無理な話だよね」と笑って肩をすくめてみせた。
チャンスが巡ってきたのは、五時間目。どこの学校もそうだと思うけれど、冬になると毎日二、三人は欠席の子が出てくる。うん、二、三人ね。クラスメイトの人数が多ければ、特に問題のない人数だと思う。実際、前の学校ではひとクラスに四十人近くの児童がいたから、教室の中はみっちみち。お休みの子がいて、逆にやっとスペースにゆとりができるって感じだったし。
でも、もともの人数が少ない学校だと事情は思い切り変わってしまう。まずわたしが転校してきた直後は、五年一組はわたしを入れて六人だった。でも、茜ちゃんがいなくなって五人になったのは最近の話。それで今日はもともと二人が欠席だったのだけれど、もう一人が給食前に発熱で早退になっちゃったんだ。おかげで残りはわたしと碧生くんの二人きり。
さらに、隣の六年生の担任の先生も発熱で早退しちゃったそうだ。でも六年生はみんな頑張って学校に来ているみたいで、ほぼ全員が登校しているらしい。六年生の強さは素晴らしいことなのだけれど、授業ができる先生の数が足りないことになったんだって。
校長先生と教頭先生は、欠席した他のクラスの先生の代わりに授業をしているみたい。だからもう六年生の担任の先生の代わりはいなくて、わたしたちの担任の先生がピンチヒッターに選ばれちゃったんだ。なんだかパズルみたいだね。
四時間目の総合の時間に年賀状作りが始まったところだったから、自習の時間でハガキを書いてもらえばちょうどいいと思ったみたい。まあ、確かにそう言われればそうだけれど。
数少ないクラスメイトで、すべての班活動も同じなのだから、まったく話をしたわけではないのだけれど……。困ったなあと頭を抱えていると、碧生くんも先ほどの総合の時間と同じ表情でこちらを見つめ返していた。
***
「碧生くんは、誰に校内年賀状を渡す予定なの?」
質問はわかりやすく、相手が答えやすい形が望ましい。だから一番わたしが聞きたくて、碧生くんが答えやすそうな質問をしたつもりだったのだけれど、碧生くんは固まってしまった。もしかして、校内に仲が良いひとがいなかったりするのかな。それなら悪いこと聞いちゃったかな。
私も碧生くんも誰も口を利かない。時計のチクタクという音が耳に大きく響いてしまって妙に緊張してしまう。しばらくして、口を開いたのは碧生くんのほうだった。
「僕んちさ、今年喪中なんだよね。校内とはいえ年賀状を出してもいいのかな?」
えーと、もちゅう……って、あ、喪中か!
ときどき、カラフルじゃない、どこかうっすらとした色合いのハガキが、年賀状が来る時期に来ていたような気がする。年賀状の前だったか、後だったか、その辺りの詳しいことは覚えていないけれど。ハガキの内容は確か……。
「碧生くんち、今年、誰か亡くなったの?」
「じいちゃんだよ」
「そう、なんだ」
なんと言っていいかわからなくて、口ごもる。お父さんやお母さんならこういうとき、「ご愁傷さまです」なんて言うのだろうけれど、面識もないわたしがその言葉を使うのは何だか妙な気がした。もごもごしていると、わたしがなんと言っていいかわからないことに、碧生くんも気が付いてくれたらしい。
「じいちゃんは大往生だったよ。海に漁に出かけて、そのまま倒れちゃったんだってさ。船から海に転落しなかったのは不幸中の幸いだったみたいだね」
「そっか。長生きなおじいちゃんだったんだね」
でもひとが亡くなっている状態で、「大往生だったから、別に良いよね。ぴんぴんころりで、よかったね!」というわけには、やっぱりいかない。だからひとまず、校内年賀状と喪中の関係について考えてみることにした。
「あくまで校内年賀状は校内だけのシステムなんだから、あんまり考えすぎないほうがいいんじゃないのかな。しかも授業で、『書きましょう、書いて下さい、書け』みたいな感じで年賀状を書かせようとしているわけだし」
「そっか。授業だから、喪中でも年賀状を出しても『仕方ない』で許してくれるかな」
「うん、大丈夫だと思うよ。むしろ『喪中だから無理です』って言って書かない方が、先生たちは困るかもしれないね」
「それもそうか」
碧生君が、困ったように校内年賀状用のハガキをぴらぴらと振ってみせる。
「あのさ、僕、年賀状を出したい相手はいるんだ」
「そうなんだ。じゃあ少なくとも、ひとりは書きたい相手がいるんだね。わたしはどうしようかな。一番手紙を贈りたい茜ちゃんは、今はこの学校にいないし」
LINEで住所を聞けば、茜ちゃんの東京のお家の住所はわかると思うのだけれど。なかなかおっくうで身体が動かない。わたしが茜ちゃんの名前を出すと、碧生くんはうんうんとうなずいてた。
「僕が年賀状を出したい相手も、この学校の中にはいないんだ」
「転校しちゃったの?」
「ううん、本土に住んでいる従兄弟なんだ。そもそも、向こうは夏休みとか冬休み以外はこの島に遊びに来ないからね」
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