【異世界恋愛短編集】冷遇された身代わり花嫁は、継子の不幸を許さない。

石河 翠

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1.冷遇された身代わり花嫁は、継子の不幸を許さない。

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 愛する婚約者チェスターが、魔獣退治の事故で亡くなった。遺体は魔獣に食い散らかされ、残っていたのは血まみれの上着だったものが一枚だけ。その上着の胸ポケット部分も引き裂かれていたが、彼が子どもの頃から持っていたお守り人形の一部が残っていたことで、チェスターのものだと判別できたらしい。花嫁衣裳に刺繍を施しながら彼の帰還を待っていたダナは、自宅に届いた訃報と血まみれの遺品を抱き悲しみに暮れた。けれど彼女は婚約者の喪に服すことも許されず、政略結婚を命じられることになる。

「だってお姉さまの婚約者、死んじゃったんでしょ。それならちょうどいいじゃない」
「そうだ、売れ残りのお前を娶ってもらえるのだ。感謝して相手に尽くすのだぞ」

 もともと腹違いの妹が嫁ぐはずだった王都に住む子持ちの近衛騎士アーヴィング、それがダナの結婚相手だ。先方から望まれていたのは腹違いの妹だが、子持ちの男になど嫁ぎたくはないと妹は嫌がっていた。実家が高位の爵位持ちであること、ダナには既に婚約者がいたこと、ダナの婚約者がダナとの婚約破棄に応じなかったことから妹が婚約相手となっていたが、ダナの結婚がなくなったのであれば大切な妹をこぶつきに嫁がせる必要などない。ダナが嫁げば、家としての繋がりは予定通り行われる。そう判断した父親により、ダナは先方へ確認を入れることもなく輿入れすることになった。

「お初にお目にかかります。どうぞこれからよろしくお願いいたします」
「お前のような女が来るのであれば、やはり結婚などするのではなかったな」

 嫁ぎ先にて頭を下げたダナだが、彼女のことを夫となるアーヴィングはつまらなそうに見ていた。彼は前妻との間に一人娘がいる。前妻とは政略結婚だったそうで、夫婦仲は大層冷めきっていたらしい。何やらその頃からアーヴィングには外に愛人がいるだの、秘密の恋人がいるだのという噂があったのだそうだ。

 流行り病で妻が亡くなった後はこれ幸いとばかりに、屋敷に戻ることもなかったらしい。とはいえ、前妻が産んだ一人娘はまだ幼い。養育者が必要だ。そのため周囲から再婚をせっつかれた彼は、どうしても再婚する必要があるのならばと美貌で名高いダナの妹を指名していたのだそうだ。確かにダナの妹は、王都に王妃あり、辺境に妹ありと言われるほどの美しさを持っているが、ここまではっきりと外見目当てだったと言われてしまうとダナも謝るより他に何もできなかった。

「勝手に花嫁を代えたのはそちらだ。夫婦として、ともに暮らすつもりはない。だが、この家に嫁いできた以上、それなりに働いてもらう。娘の世話だけをしてくれ。それ以外の仕事はしなくていい」
「承知いたしました。内向きの仕事は、それだけでございますか?」
「なんだ、俺と一緒に夜会に出て妻として周囲をけん制でもするつもりか?」
「滅相もございません。ただ、茶会への参加もすべてお断りするというのは意外だったものですから」

 夜会の許可を出さないのは、自分を妻として認めていないからだろう。だが、茶会はどうするのか。特に再婚相手の子どもは娘だったはずだ。女性の場合、茶会は重要な社交になる。その点について尋ねてみれば、アーヴィングは大声で笑い始めた。

「あの娘を連れて社交などできるはずがない。茶会を開いても誰も来ないだろう。だが、もしもお前たち母子を招きたいと思う奇特なご婦人がいるのであれば、茶会に参加しても構わない」

 それは笑いではなく、嘲笑だ。嫌な予感を覚えながら、ダナは義理の娘であるステラの元を訪ねた。
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