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6.後生ですから、どうぞ最後に別れの言葉を。
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名前を呼ばれることのない私だったが、存在を無視されていたわけではなかった。何せ私は、ご当主さまの大切な義妹の代わりに生贄になるべき人間なのだ。
生贄として差し出されるのは、あくまで大切な人間でなければならないらしい。それは家族を愛している人間であればこそ、家族のために鬼を封じる力を得ることができるためだと言われている。
だから私が痩せ細っていたり、傷ついていたりしてはいけないそうだ。そのため私は食事を抜かれることも、暴力にさらされることもなかった。そうでなければ、主人に大事にされないお飾りの妻なんて良い欲求のはけ口になっていただろう。
いずれ死ぬことが決まっている人間に、社交などが任されるはずもない。私のことを父が心配して訪ねてくることもないため、私の元にやってくるのは九鬼家の人間たちばかりだ。幸運だったのは、九鬼家のご当主さまの母君が心優しい女性だったことだろう。彼女は、私が義妹の身代わりになることを深く詫びてくれたのだから。
「ごめんなさい。息子が家族を守る方法があると言ってくれた時に、よく確認もしないで飛びついたわたくしが悪いのです。どうか、許してちょうだい」
「私は、私を必要としてくださる方のためにこの身を捧げることができることを、誇りに思っております」
「ああ、なんて優しい子なの」
「いいえ、私は誰よりも自分のことしか考えられない愚か者なのです」
自嘲気味に笑った私の言葉に、なぜか姑がほろほろと涙をこぼした。必死に愛を乞う私に、心を痛めたのかもしれない。それからも私は屋敷の下女たちに交じって、こまねずみのように働いた。そして日中の空いた時間に裏山の大池を拝みに行くのだ。
大池は、とても不思議な色合いをしている。その水に触れれば、たちまち命を落とすといわれているのだが、それでも私は大池参りを止めなかった。だって大池は、私にとって唯一の安らぎの場なのだ。その昔、母とふたりで身を寄せ合っていた時から、この大池は私の心の支えだった。ここで自分の気持ちを吐き出していたからこそ、私はなんとか平静を保つことができていたのだと思う。
いずれ自分が突き落とされる大池を雨の日も風の日も拝み続ける私の姿は、哀れを誘うものだったらしい。人々がこっそり人食い大池と呼ぶ場所を「いずみさま」と呼び、封じられた鬼の無聊を慰めようとする健気な娘として、お飾り妻であるはずの私は周囲の人々からそれなりに受け入れられていったのだった。
生贄として差し出されるのは、あくまで大切な人間でなければならないらしい。それは家族を愛している人間であればこそ、家族のために鬼を封じる力を得ることができるためだと言われている。
だから私が痩せ細っていたり、傷ついていたりしてはいけないそうだ。そのため私は食事を抜かれることも、暴力にさらされることもなかった。そうでなければ、主人に大事にされないお飾りの妻なんて良い欲求のはけ口になっていただろう。
いずれ死ぬことが決まっている人間に、社交などが任されるはずもない。私のことを父が心配して訪ねてくることもないため、私の元にやってくるのは九鬼家の人間たちばかりだ。幸運だったのは、九鬼家のご当主さまの母君が心優しい女性だったことだろう。彼女は、私が義妹の身代わりになることを深く詫びてくれたのだから。
「ごめんなさい。息子が家族を守る方法があると言ってくれた時に、よく確認もしないで飛びついたわたくしが悪いのです。どうか、許してちょうだい」
「私は、私を必要としてくださる方のためにこの身を捧げることができることを、誇りに思っております」
「ああ、なんて優しい子なの」
「いいえ、私は誰よりも自分のことしか考えられない愚か者なのです」
自嘲気味に笑った私の言葉に、なぜか姑がほろほろと涙をこぼした。必死に愛を乞う私に、心を痛めたのかもしれない。それからも私は屋敷の下女たちに交じって、こまねずみのように働いた。そして日中の空いた時間に裏山の大池を拝みに行くのだ。
大池は、とても不思議な色合いをしている。その水に触れれば、たちまち命を落とすといわれているのだが、それでも私は大池参りを止めなかった。だって大池は、私にとって唯一の安らぎの場なのだ。その昔、母とふたりで身を寄せ合っていた時から、この大池は私の心の支えだった。ここで自分の気持ちを吐き出していたからこそ、私はなんとか平静を保つことができていたのだと思う。
いずれ自分が突き落とされる大池を雨の日も風の日も拝み続ける私の姿は、哀れを誘うものだったらしい。人々がこっそり人食い大池と呼ぶ場所を「いずみさま」と呼び、封じられた鬼の無聊を慰めようとする健気な娘として、お飾り妻であるはずの私は周囲の人々からそれなりに受け入れられていったのだった。
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