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1.冷遇された身代わり花嫁は、継子の不幸を許さない。
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そんなある日のこと、言葉を話す魔獣が王宮にやってきた。知性の高さは魔力の高さに比例する。我が番を出せと要求する魔獣に国王は、王宮の大広間に王女を連れてくるように命令を出した。魔獣襲来の知らせは、王女の過ごす離宮にも届いていた。何せ、とんでもない風と轟音が城を揺らしていたのだ。気が付かない方がおかしい。学友とその保護者としてその日も登城していたダナとステラは、不安がる王女と王妃を必死で慰めていた。
「王妃殿下、王女殿下、ご無事ですか!」
「ああ、アーヴィング!」
「大丈夫です。どうぞ、ご安心ください。おい、お前たち。何をしている。さっさと、服を脱げ!」
何を言っているのかわからずに呆然とするダナに、アーヴィングと付き従っていた近衛たちは剣を突きつけた。
「王妃殿下と王女殿下、それからお前たちの服を交換すると言っているのだ。その働かない脳みそで理解できたのなら、早く脱げ。時間がないのがわからんのか」
どうやらアーヴィングは、ダナとステラを王妃と王女の身代わりにして逃亡を図るつもりらしい。しかもそんな馬鹿なことを実行しようとしている人間が、アーヴィング以外にもいることにダナは眩暈を覚えた。
抵抗すれば殺される。瞬時に理解したステラは、王女と王妃の名誉を守るためだと言って近衛騎士たちに後ろを向かせ、互いの服を交換した。自分の妻や娘は近衛騎士たちの前で裸にすることもためらいなかったが、やはり愛する王妃の肌を男たちに見せることは許せなかったらしい。
その事実に無性に腹立たしさを覚えながら着替え終わると、彼らはステラとダナにおざなりにティアラをかぶせて、隠し通路に入ろうした。その時である。王女がステラの人形を持っていくと騒ぎだしたのだ。お守り人形は普段から身に着けている。普段はドレスの内側の隠しにいれているが、今回はドレスを交換したので人形を取り出したのだ。それを王女は目ざとく見つけてしまったらしい。「欲しい、欲しいの!」という王女の甲高い声が響く中、夫は当たり前のようにステラに人形を差し出すように命令した。
「早く人形を寄こせ!」
「ドレスやアクセサリーならばいざ知らず、お守り人形は脱出には関係ないではありませんか。命まで捧げようという娘から、心の拠り所まで奪う必要がどこにあるのです!」
ステラの人形は、彼女の亡き母のドレスから作られている。大切な形見だったが、保管状態が悪く、虫食いが酷くてドレスとして着ることは難しそうだったのだ。だからこそ、綺麗な部分を切り出して、人形や小物として生まれ変わらせてあげたところだったのに。ステラの母親もさぞ悔しいことだろう。
「ええい、うるさい! 王女殿下がご所望なのだ、喜んで差し出すのが忠臣というものだろう」
「あっ!」
アーヴィングはそんなダナの頬を打ち、人形を取り上げた。ぎゅっとドレスの裾をつかんだステラが、アーヴィングを見上げた。
「お父さまは、わたしのことを愛していましたか?」
「何を言っている?」
「お母さまは? 愛していらっしゃいましたか?」
「馬鹿馬鹿しい。誰がお前たちなどを愛するものか。我が愛ははじめからすべてこちらにおわす御方に捧げている。無価値なお前が王女殿下のお役に立てたのだ。喜ぶといい」
涙をこぼすステラとそれを慰めるダナを一瞥すると、一行は隠し通路から外へと脱出を図ってしまうのだった。ステラは父親が王妃のことを特別に思っていることも、王妃が産んだ王女を大切に思っていることも知っていた。それでも役目を果たしていれば愛されると思っていたのだ。
「あなたのことを守ってあげられなくてごめんなさい」
「ダナのせいじゃない。それに、ちゃんと自分の気持ちを言えたから、もういいの」
「本当に?」
「うん」
自分の気持ちを父親に言えたこと、そしてその父親にばっさりと切り捨てられたことは、悲しくはあったがステラにとっては未練を断ち切る良いきっかけになった。もう、父の愛なんて追いかけない。自分の幸せは、ダナとともにある。
「ダナ母さまって呼んでもいい?」
「ええ、ええ、もちろんよ」
そう言い切ったステラのことを、ダナは優しく抱きしめる。取り上げられてしまった人形の代わりに、今度はステラが布を選んで、一緒に新しい人形を作ろうとダナが提案するとステラも嬉しそうにうなずいた。せっかくならば、お揃いの人形を作ろうか。このまま王妃と王女の振りをしているふたりには、決して訪れるはずのない未来。それでも、あえてふたりは明るい話題だけを選んで話し続ける。
いつまで経っても大広間にやってこない王妃と王女にしびれをきらしたのだろうか、誰かの足音がする。複数の人間が必死で走っているような、そんな靴音だ。そしてステラを守るように強く抱きしめたダナは部屋に駆け込んできた男の姿を見て、静かに涙を流したのだった。
「王妃殿下、王女殿下、ご無事ですか!」
「ああ、アーヴィング!」
「大丈夫です。どうぞ、ご安心ください。おい、お前たち。何をしている。さっさと、服を脱げ!」
何を言っているのかわからずに呆然とするダナに、アーヴィングと付き従っていた近衛たちは剣を突きつけた。
「王妃殿下と王女殿下、それからお前たちの服を交換すると言っているのだ。その働かない脳みそで理解できたのなら、早く脱げ。時間がないのがわからんのか」
どうやらアーヴィングは、ダナとステラを王妃と王女の身代わりにして逃亡を図るつもりらしい。しかもそんな馬鹿なことを実行しようとしている人間が、アーヴィング以外にもいることにダナは眩暈を覚えた。
抵抗すれば殺される。瞬時に理解したステラは、王女と王妃の名誉を守るためだと言って近衛騎士たちに後ろを向かせ、互いの服を交換した。自分の妻や娘は近衛騎士たちの前で裸にすることもためらいなかったが、やはり愛する王妃の肌を男たちに見せることは許せなかったらしい。
その事実に無性に腹立たしさを覚えながら着替え終わると、彼らはステラとダナにおざなりにティアラをかぶせて、隠し通路に入ろうした。その時である。王女がステラの人形を持っていくと騒ぎだしたのだ。お守り人形は普段から身に着けている。普段はドレスの内側の隠しにいれているが、今回はドレスを交換したので人形を取り出したのだ。それを王女は目ざとく見つけてしまったらしい。「欲しい、欲しいの!」という王女の甲高い声が響く中、夫は当たり前のようにステラに人形を差し出すように命令した。
「早く人形を寄こせ!」
「ドレスやアクセサリーならばいざ知らず、お守り人形は脱出には関係ないではありませんか。命まで捧げようという娘から、心の拠り所まで奪う必要がどこにあるのです!」
ステラの人形は、彼女の亡き母のドレスから作られている。大切な形見だったが、保管状態が悪く、虫食いが酷くてドレスとして着ることは難しそうだったのだ。だからこそ、綺麗な部分を切り出して、人形や小物として生まれ変わらせてあげたところだったのに。ステラの母親もさぞ悔しいことだろう。
「ええい、うるさい! 王女殿下がご所望なのだ、喜んで差し出すのが忠臣というものだろう」
「あっ!」
アーヴィングはそんなダナの頬を打ち、人形を取り上げた。ぎゅっとドレスの裾をつかんだステラが、アーヴィングを見上げた。
「お父さまは、わたしのことを愛していましたか?」
「何を言っている?」
「お母さまは? 愛していらっしゃいましたか?」
「馬鹿馬鹿しい。誰がお前たちなどを愛するものか。我が愛ははじめからすべてこちらにおわす御方に捧げている。無価値なお前が王女殿下のお役に立てたのだ。喜ぶといい」
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「あなたのことを守ってあげられなくてごめんなさい」
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「本当に?」
「うん」
自分の気持ちを父親に言えたこと、そしてその父親にばっさりと切り捨てられたことは、悲しくはあったがステラにとっては未練を断ち切る良いきっかけになった。もう、父の愛なんて追いかけない。自分の幸せは、ダナとともにある。
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「ええ、ええ、もちろんよ」
そう言い切ったステラのことを、ダナは優しく抱きしめる。取り上げられてしまった人形の代わりに、今度はステラが布を選んで、一緒に新しい人形を作ろうとダナが提案するとステラも嬉しそうにうなずいた。せっかくならば、お揃いの人形を作ろうか。このまま王妃と王女の振りをしているふたりには、決して訪れるはずのない未来。それでも、あえてふたりは明るい話題だけを選んで話し続ける。
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