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5.編み物好きなお姫さまの結婚
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『そなた、本当に姫なのか? 俺を篭絡するために隣国から派遣された暗部のものではないのか?』
「私はただの編み物好きでございます」
『いや、しかしだな』
「一体何を怪しんでいるのでしょう?」
『全部だよ、全部。すべてが怪しいに決まっているだろうが! というかせめて俺の事情くらいちゃんと聞け!』
「あ、興奮のあまり糸が出ておりますよ。ほら、勿体ない」
大蜘蛛の言う通り、お姫さまはなんだってできるのです。初対面の大蜘蛛の口にあう料理を作ることだって朝飯前でした。炊事洗濯をさらりとこなし、周囲の森の調査も怠りません。神殿の見回りの際には修繕箇所を見つけると、魔法であっという間に修理してしまいます。
魔物の言葉を理解でいる才能、魔法を操る能力、豊潤な魔力などを兼ね備えたお姫さまですが、苦手なことがひとつだけあります。もちろん編み物です。大好きで大好きでたまらないものが苦手だなんて、なんて寂しいことなのでしょう。
それでもお姫さまは編み物を止めることはありません。何せ自分の旦那さまは、大蜘蛛。大蜘蛛と言えば、この世界でもとびきりの編み物の名手です。大蜘蛛は自身が生み出す糸だけでなく、その編み物の腕前でも有名なのです。
ですからお姫さまは大蜘蛛の元に嫁に行けば、編み物の時間を確保できる上に、心置きなく編み物について尋ねることができると、ほくほくしていたのです。お姫さまに教えを乞われた大蜘蛛は、お姫さまの編んだ編み物を見ると頭を抱えました。
『なぜにそなたは、初手からつまずいてしまうのか』
「本当にどうしてなのでしょう。肩の力を抜いて、空気をたっぷりとふくませながら、同じリズムで編み目を作っているつもりですし、目を数え間違ってもいないはずなのですけれど」
『信じられないくらいに編み目は不ぞろいだし、よくもまあここまでぎちぎちに編んでしまえるものだ』
「しかも編地がねじれてしまって、ひとりでにうねっています」
『編地がねじれるのはわかるが、ひとりでにうねるはずが……。なぜだ、なぜ編み物が宙に浮かぶのだ!』
「本当に編み物って面白いですね」
『ええい、この編み物を取り押さえろ。鬱陶しい、いちいち俺に攻撃してくるんじゃない!』
「探知追尾、そして攻撃まで可能な編み物だなんて素晴しいですわ」
『そんなわけあるか! くそが、今すぐほどいてやる! そこになおれ!』
「ああ、そんな。せっかくここまで編みましたのに!」
そんなこんなでいきなり始まった押しかけ女房生活は、意外と楽しいものだったのです。
「私はただの編み物好きでございます」
『いや、しかしだな』
「一体何を怪しんでいるのでしょう?」
『全部だよ、全部。すべてが怪しいに決まっているだろうが! というかせめて俺の事情くらいちゃんと聞け!』
「あ、興奮のあまり糸が出ておりますよ。ほら、勿体ない」
大蜘蛛の言う通り、お姫さまはなんだってできるのです。初対面の大蜘蛛の口にあう料理を作ることだって朝飯前でした。炊事洗濯をさらりとこなし、周囲の森の調査も怠りません。神殿の見回りの際には修繕箇所を見つけると、魔法であっという間に修理してしまいます。
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それでもお姫さまは編み物を止めることはありません。何せ自分の旦那さまは、大蜘蛛。大蜘蛛と言えば、この世界でもとびきりの編み物の名手です。大蜘蛛は自身が生み出す糸だけでなく、その編み物の腕前でも有名なのです。
ですからお姫さまは大蜘蛛の元に嫁に行けば、編み物の時間を確保できる上に、心置きなく編み物について尋ねることができると、ほくほくしていたのです。お姫さまに教えを乞われた大蜘蛛は、お姫さまの編んだ編み物を見ると頭を抱えました。
『なぜにそなたは、初手からつまずいてしまうのか』
「本当にどうしてなのでしょう。肩の力を抜いて、空気をたっぷりとふくませながら、同じリズムで編み目を作っているつもりですし、目を数え間違ってもいないはずなのですけれど」
『信じられないくらいに編み目は不ぞろいだし、よくもまあここまでぎちぎちに編んでしまえるものだ』
「しかも編地がねじれてしまって、ひとりでにうねっています」
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「本当に編み物って面白いですね」
『ええい、この編み物を取り押さえろ。鬱陶しい、いちいち俺に攻撃してくるんじゃない!』
「探知追尾、そして攻撃まで可能な編み物だなんて素晴しいですわ」
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