汗の恋

富士なごや

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「……いつか告白するにしても、今日はやめようかな」
 三度、弱気が漏れた。
 汗ダラダラだし、ポロシャツもジトッとしているし、汗臭いし。
 こんな状態で告白するよりも、また今度、万全の状態のときに告白したほうが成功確率は高いんじゃないだろうか。
 汗っかきと言ったって、年がら年中、朝から晩までダラダラ滝のような汗を垂れ流しているわけではない。どうにかして汗を掻いていない、サッパリとしているときに道林と会えるようにして、想いを伝えたほうがいいのではないか。

「や、ダメだろ、そんなんじゃあ」
 だって、汗をかいていないときに告白したところで、もしOKしてもらえたら、いつかは絶対にバレることだ。
 デートに行けば、オレは汗かくだろうし、まずバレる。共に過ごす時間が増えれば増えるほど、汗っかきを隠すなんて無理になっていく。
 弱気になるな。
 今日やらないと、昨日の努力が無駄になるぞ。
 せっかく今日会おうって約束をしたんだから。
 告白するんだ、絶対に。

               ※

 ハンカチで顔から胸元に掛けての汗を、肌の表面に感じる湿り気を、そこに混ざっているはずの弱気も、まとめて払拭するよう乱暴に拭ってから、坂道へと踏み出す。
 待ち合わせしている新出来公園が見えてきた。
 老人ホームの前を通り過ぎて、すぐ、左手に別の坂道が現れた。その坂道に入る。上りきり、そして、グルッと園内を見渡す。

 目に留まったのは、公園の一部だけれど一部でないようにも見える、緑色の背の高いフェンスに囲まれているグラウンド。
 そこに、二人の男女がいる。
 二人共ジャージを着ていて、格好や雰囲気からして若い。
 オレと同じ、高校生くらいかな。
 女の子はテニスの壁打ちをしていて、男の子はバスケのシュート練習をしている。
 男の子の放ったボールがリングに掠らずネットを揺らした。
 女の子のほうは、サーブを打ちたいがトスが上手くいかないのか、黄緑色の球体を何度も上に放っている。
 男の子は弾むボールを回収すると、女の子に顔を向けたまま何もしないでいる。
 その視線に気付いていないのか、それともあえて気付かないでいるのか、女の子は男の子を見ずに、またトスを上げた。女の子は空振り、落ちてきたボールが彼女の頭に当たる。
「ははっ」オレは思わず吹き出してしまった。
 男の子も、わざとらしく上半身を反って笑っている。
 女の子はボールを拾うと、男の子の顔面に投げつけた。
 見事にヒット。
 どうやら二人はかなりの仲良しみたいだ。

「恋人同士、かな」
 いいな、と思った。
 そして、思う。
 オレは道林が好きで、恋人になりたいんだって。

               ※

 グラウンドから、自分の近くへと目を移す。
 ブランコがあり、雲梯うんていや滑り台など幾つかの遊具の要素を備えているアスレチック遊具がある。手洗い場のある三角屋根の東屋あずまやがあり、そのすぐ傍には桜の樹が生えている。
 どうやらまだ道林は来ていないらしい。

 白のハーフパンツの右ポケットからスマホを取り出して、時間を確認する。
 午前十一時二十二分。
 スマホを持ったまま、彼女はどうやって来るんだろうと思案しながら、とりあえず東屋で座っていようと歩を進める。
 彼女は自転車通学だし、高校から十秒も掛からない位置にあるこの公園を訪れるのにも、愛車を利用するだろうか。それとも、夏休み中だし、最寄りまでバスか電車で来てから徒歩で来るかもしれない。
 ……なんとなく、可能性が最もあるのは、自転車な気がした。
 約束の時間は午前十一半。
 あと少しだ。

               ※

 東屋にあるベンチに腰掛ける。
 屋根のおかげで陽が遮断され、ほんの少し涼しく感じた。
 でも、汗が止まる気配はない。
 俯いてぼんやりしていると、鼻先に汗が溜まり始めた。さらにジッとしていると、やがて皮膚から宙へ放たれた雫は、地面に落ちた。灰色のアスファルトの上に、黒色の染みができあがり。
 俯くのをやめ、ハンカチで顔中を拭う。
 スマホをもう一度見る。
 一分が経っていた。
 あと七分。
 ボーッとして過ごすのもいいけれど、道林と交わしたLINEを見ながら過ごすことにした。
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