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またハンカチで顔中と首を拭ってから、引き続き履歴を見直していく。
ふと、甲高い、はしゃぎ声のようなものが聞こえてきた。
方向は、背後からではなくて、左斜め前辺りから。ということは、グラウンドにいるだろうあのカップル?ではない。
顔を上げる。
と、正面出入り口から、今まさに、一人の少女が入って来るところだった。空色のワンピースを着て、麦わら帽子を被っている。
少女は小走りで砂場の前を進み、アスレチック遊具の一部である滑り台の着地地点で立ち止まった。
……随分と小さいけど、保護者は?
幼い子が一人でいるのを見れば、どうしたって不安や心配になってしまうのは、多分、正しい人の感情だと思う。オレだってまだ高校生で、世間じゃあガキ扱いされる年齢なわけだけど、それでもあの子よりは長く生きてる。長生きしてるヤツが、自分より幼い人を守りたくなる気持ち、きっと変じゃない。
……いねぇな。大丈夫かよ。
あんまりジロジロ見てると、見てる側の内面なんて周りにはわかりっこないくせに不審者扱いされてしまうのが現代社会ってものだが――まあ、何考えてるかわからないから不審がるわけだが――保護者もいないし、見てしまう。
……おいおい、マジか。危ねぇぞ。
少女はなんと、滑り台の滑降部分を、着地地点から上り始めた。
危険だ。
やめさせたほうがいいのではないか。
……でも、あの子。
危ないことなのは間違いない。
それでも、止めたほうがいいのか決めかねたのは、あの子が何やら真剣だからだ。やじろべえのように、左右へ伸ばした両手でバランスを保っているその様子からは、これをやりたいんだ!という強い思いが感じられるのだ。
子どもには子どもの、そのときそのときのゴールがある。
あの子にとっては、今やっているそれが、そうなのかもしれない。
少女は慎重に上へ進んでいく。そして、そして――見事に上り切った。
「おぉ~」
思わず、口から出た歓声。
スゴイな、おめでとう。そう思いながら見詰めていると、少女はガッツポーズをし、すぐさま身体の向きを変え、「ひゃあぁぁぁあ」と可愛らしい絶叫を上げながら滑り台を下りていった。
「ヒカリ―っ!」
少女が着地地点で立ち上がったとき、正面出入り口のほうで野太い声がした。
見れば、一人の男性が園内に入ってくるところ。右手にはバトミントンのラケットを二本持っている。
……お父さんかな?
きっとそうだろうと思ったとき、ザッと砂利を蹴った音がした。
走り出した、少女。彼女は雲梯の下を通り過ぎ、そのまま男性の元へ近付いて行く。その駆けていく勢いと、満面の笑顔を見れば、あの人が父親であることはわかる。父親でないにしても、親しい、近しい者なのは確実だ。
ほっと、ひと安心。
「先に行っちゃダメって言っただろー」
腰に抱き付いた女の子の頭を、男性は二回、ポンポンと叩いた。力が入っていなかったのは、その手付きでわかった。
二人は、桜の樹の後ろを通って、東屋とグラウンドの間にある砂地の広場で向かい合うと、バドミントンを始めた。
運動神経がいいのか、上手く打ち返す少女。
あの年でこうもラリーが続くなんてやるなぁ~。
と、微笑ましすぎる光景をぼんやり眺めていると、二人の向こう側にヒュンと白い線が走った。
なんだ?と、目の焦点を合わせてみる。
「っ」
声にならない声が出た。
マンガみたいに、マジで胸がドキッと高鳴った。
彼女だ。
その白い線の正体は、自転車に乗った道林花緒だった。
ふと、甲高い、はしゃぎ声のようなものが聞こえてきた。
方向は、背後からではなくて、左斜め前辺りから。ということは、グラウンドにいるだろうあのカップル?ではない。
顔を上げる。
と、正面出入り口から、今まさに、一人の少女が入って来るところだった。空色のワンピースを着て、麦わら帽子を被っている。
少女は小走りで砂場の前を進み、アスレチック遊具の一部である滑り台の着地地点で立ち止まった。
……随分と小さいけど、保護者は?
幼い子が一人でいるのを見れば、どうしたって不安や心配になってしまうのは、多分、正しい人の感情だと思う。オレだってまだ高校生で、世間じゃあガキ扱いされる年齢なわけだけど、それでもあの子よりは長く生きてる。長生きしてるヤツが、自分より幼い人を守りたくなる気持ち、きっと変じゃない。
……いねぇな。大丈夫かよ。
あんまりジロジロ見てると、見てる側の内面なんて周りにはわかりっこないくせに不審者扱いされてしまうのが現代社会ってものだが――まあ、何考えてるかわからないから不審がるわけだが――保護者もいないし、見てしまう。
……おいおい、マジか。危ねぇぞ。
少女はなんと、滑り台の滑降部分を、着地地点から上り始めた。
危険だ。
やめさせたほうがいいのではないか。
……でも、あの子。
危ないことなのは間違いない。
それでも、止めたほうがいいのか決めかねたのは、あの子が何やら真剣だからだ。やじろべえのように、左右へ伸ばした両手でバランスを保っているその様子からは、これをやりたいんだ!という強い思いが感じられるのだ。
子どもには子どもの、そのときそのときのゴールがある。
あの子にとっては、今やっているそれが、そうなのかもしれない。
少女は慎重に上へ進んでいく。そして、そして――見事に上り切った。
「おぉ~」
思わず、口から出た歓声。
スゴイな、おめでとう。そう思いながら見詰めていると、少女はガッツポーズをし、すぐさま身体の向きを変え、「ひゃあぁぁぁあ」と可愛らしい絶叫を上げながら滑り台を下りていった。
「ヒカリ―っ!」
少女が着地地点で立ち上がったとき、正面出入り口のほうで野太い声がした。
見れば、一人の男性が園内に入ってくるところ。右手にはバトミントンのラケットを二本持っている。
……お父さんかな?
きっとそうだろうと思ったとき、ザッと砂利を蹴った音がした。
走り出した、少女。彼女は雲梯の下を通り過ぎ、そのまま男性の元へ近付いて行く。その駆けていく勢いと、満面の笑顔を見れば、あの人が父親であることはわかる。父親でないにしても、親しい、近しい者なのは確実だ。
ほっと、ひと安心。
「先に行っちゃダメって言っただろー」
腰に抱き付いた女の子の頭を、男性は二回、ポンポンと叩いた。力が入っていなかったのは、その手付きでわかった。
二人は、桜の樹の後ろを通って、東屋とグラウンドの間にある砂地の広場で向かい合うと、バドミントンを始めた。
運動神経がいいのか、上手く打ち返す少女。
あの年でこうもラリーが続くなんてやるなぁ~。
と、微笑ましすぎる光景をぼんやり眺めていると、二人の向こう側にヒュンと白い線が走った。
なんだ?と、目の焦点を合わせてみる。
「っ」
声にならない声が出た。
マンガみたいに、マジで胸がドキッと高鳴った。
彼女だ。
その白い線の正体は、自転車に乗った道林花緒だった。
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