黒金王子の最愛

嘉藤 静狗

文字の大きさ
8 / 18
本編

6話

しおりを挟む
 阿鼻叫喚が響き渡り、混沌とする夜会。
 誰かが叫んだ“魔獣”の言葉に皆、我先にと主催会場を飛び出していく。中には男女問わず気絶する者もいた。
 オレの目の前にいた【森の女神】(結局名前が分からんかったな……)も、サァッと青褪あおざめるとその場で腰を抜かしてしまった。

「アイゼンッ!」

 鋭い呼び声に振り返ると、いつのまにかオレの剣を持ち出したレド兄上がこちらに向かってきていた。よく見ると、レド兄上はすでに腰のサーベルを抜いている。
 レド兄上は、王家に身を置きながら二十三歳という若さですでに騎士団長を務めるほどの実力者だ。
 しかも入団当初は身分を隠していたため権力によるものではなく、純粋な叩き上げなのだ。
 そんなレド兄上が、戦闘においてあんなに切羽詰まった声をあげるなんて……一体どれ程の相手なのだろうか?
「レド兄上、状況は?」
「……あぁ、最悪だ!
招待客バカ共が逃げた先で道を塞ぐから上手く動けない。ついでにあちこちで声を上げるから、魔獣が分散してやりにくいことこの上ない!!」
 レド兄上は顔を歪めて憎々しげにチッと舌打ちした。
 どうやら苦戦している相手は魔獣より貴族たちのようだった。


 そもそも魔獣とは、自然にいる獣が何らかの事情で後天的に魔力を得ることで発生する。
 ほとんど場合、獣たちはその身に魔力が馴染まず暴走するのだ。運良く暴走しなかったものは、やがて相応の加護を得てとなる。
 ちなみに人間は先天的に大なり小なりの魔力を持っているため、魔獣化は起こらない。……聖獣化は極々稀に起こるらしいが。


 会場を見渡すと、人がほとんどいなくなっている。今いるのはオレたち王族と気絶してしまった者たち、そしてそれを介抱する者たちだけだった。
 ぶっちゃけ逃げるよりここの方が安全だ。ここにはが仕掛けられていて、並大抵の魔獣は近寄れないのだから。
 ふとそこでオレはもう一人の兄弟──異母弟・ハルコスのことを思い出す。……たしか今日は自室で寝込んでいたはずだ。
「ハルコスの方には誰かいるのですか?」
「あぁ、通りすがりに腕が立つ騎士を五人置いてきた。
私の直属の部下だ。あいつらなら問題ないだろう」
 さすがレド兄上、そこまで手配済みとは……。

「アイゼン、レド、ミーカ」

 上座の方からオレたちに声がかかる。──声の主は、王の隣にいるアルジャン兄上だ。
 アルジャン兄上は、台座から広間に降りてツカツカとオレたちの方に歩いてくる。それを見たレド兄上とオレは騎士の略礼をとり、ミーカ姉上もオレたちの近くに来て淑女の礼をとった。
「ここは我らに任せよ。……お前たちは、並みの騎士よりも強い。
魔法の使用も許可するゆえ、至急魔獣退治に向かってくれ」
 
 ……王太子殿下の言葉は、国王の次に強制力が強い。
 この台詞は、一見すると有無を言わせず魔獣退治を行かせようとしているようにも聞こえるが、アルジャン兄上が「向かってくれ」と言ったのは、これが王太子としての命令ではなく兄上からのであることを示していた。言葉が固いから分かりにくいけど。
 オレたちを臣下として扱う──これもアルジャン兄上の方針のひとつで、王太子が自身の兄弟を特別に扱っているという噂が流れないためであるらしい。つまり、王太子は身内贔屓する人ではないというアピールだ。
 ……本当は子ども好きなだけなんだけどなぁ。アルジャン兄上は。
 何はともあれ、アルジャン兄上からの滅多にない“頼み”とあらば聞かないわけにもいかない。

「了解です(わ)!」

 オレたちはアルジャン兄上にもう一度礼をすると、夜会会場から走って出ていく。
 その瞬間、背後に光を感じた──アルジャン兄上が結界魔法陣を発動させたようだ。

「アイゼン、ミーカ!お前たちは庭の方に行け!」
「レド兄様は、どちらに?」
「私は騎士団員と共に招待客の誘導と護衛をする!
庭の方は今部下に先行させて人を払ってあるから、大型魔法を使ってもかまわんぞ!!」
「了解!」
「分かりましたわ!」

 王宮のエントランスで別れると、オレとミーカ姉上は庭の方へ、レド兄上は騎士団の基地の方へと走り出す。


 レド兄上のこの人選にも理由がある。
 オレとミーカ姉上は、魔法は得意だが繊細なコントロールは苦手だ。周りに人がいると巻き込む可能性がある。特にミーカ姉上の得意魔法は爆破系だ。危ないことこの上ない。
 一方レド兄上は騎士をしているからか、人を守りながらの魔法の使い方に長けている。集団戦では指揮も上手いし、少しながら治癒系魔法も使えるらしい。
 だから、こう別れるのが一番効率がいいのだ。
 ちなみに何故アルジャン兄上がオレたちを指名したかというと、あの場で魔獣とまともに戦えるのは王族オレたちだけだった上、シュタール兄上とアハティス姉上は体力的問題で戦闘に向かないからだ。
 シュタール兄上は文官だし、アハティス姉上は(一応)普通の貴族令嬢なのだ。
 ……それと、アルジャン兄上も戦闘系魔法より、支援魔法の方が得意だ。結界維持には欠かせない。

 庭の出入口の方に走っていると、渡り廊下に出た。オレはそこで一つ思い出した。
「ミーカ姉上っ!ここから出た方が早いです!」
「どこです!?……って、そこ窓じゃないの!」
 オレが示したのはオレの頭三つ分高いところにある窓だ。少々高いがそこから行けば一気に庭の端に出られる。
「どーせ非常事態です!誰も怒りません!」
 オレが勢い良くミーカ姉上に迫ると、姉上は一瞬困ったような表情になった。
「(た、高い……!でも、せっかくのかわいい弟からの提案だわ、行くのよ私!)
……えぇ、分かったわっ!」
 何とか姉を説得すると、オレは嵌め殺しの窓を魔法で破り(後で弁償する)そこから飛び降りた。
 降りた先にあるのは生け垣。
 さすがにこの上に降りると、庭師が卒倒する(結構な爺さんだし、心臓が止まるかもな)ので魔法で少しずれたところに着地する。
 後ろでミーカ姉上も同じように着地する。……この姉も同じことを思ったのだろうなぁ。オレたち、思考が似てるし。
 そして、再び走り出すとだんだんと魔獣の声らしきものが近くなってきた。
「そろそろね……」
 ミーカ姉上がそう言ってぐっと息を飲んだ。
 実は戦闘は初めてではないのだが、やはり直前には緊張するものだ。
 ついにオレたちが庭の広場に出ると、そこには──。

「あぁ、さいっあくだ!明日は庭師じーさんが寝込むぜ!」

 見るも無惨になった花園と、血走った目をした黒い獣たちが暴れる姿があった。本気で頭を抱えたくなる。
──ゴーンッゴゴーンッ
 そのときオレたちの背後に響いた鐘の音は、午前0時を告げる鐘。……つまりオレの十五歳の誕生日の終わりを知らせるものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...