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本編
6話
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阿鼻叫喚が響き渡り、混沌とする夜会。
誰かが叫んだ“魔獣”の言葉に皆、我先にと主催会場を飛び出していく。中には男女問わず気絶する者もいた。
オレの目の前にいた【森の女神】(結局名前が分からんかったな……)も、サァッと青褪めるとその場で腰を抜かしてしまった。
「アイゼンッ!」
鋭い呼び声に振り返ると、いつのまにかオレの剣を持ち出したレド兄上がこちらに向かってきていた。よく見ると、レド兄上はすでに腰のサーベルを抜いている。
レド兄上は、王家に身を置きながら二十三歳という若さですでに副騎士団長を務めるほどの実力者だ。
しかも入団当初は身分を隠していたため権力によるものではなく、純粋な叩き上げなのだ。
そんなレド兄上が、戦闘においてあんなに切羽詰まった声をあげるなんて……一体どれ程の相手なのだろうか?
「レド兄上、状況は?」
「……あぁ、最悪だ!
招待客共が逃げた先で道を塞ぐから上手く動けない。ついでにあちこちで声を上げるから、魔獣が分散してやりにくいことこの上ない!!」
レド兄上は顔を歪めて憎々しげにチッと舌打ちした。
どうやら苦戦している相手は魔獣より貴族たちのようだった。
そもそも魔獣とは、自然にいる獣が何らかの事情で後天的に魔力を得ることで発生する。
ほとんど場合、獣たちはその身に魔力が馴染まず暴走するのだ。運良く暴走しなかったものは、やがて相応の加護を得て聖獣となる。
ちなみに人間は先天的に大なり小なりの魔力を持っているため、魔獣化は起こらない。……聖獣化は極々稀に起こるらしいが。
会場を見渡すと、人がほとんどいなくなっている。今いるのはオレたち王族と気絶してしまった者たち、そしてそれを介抱する者たちだけだった。
ぶっちゃけ逃げるよりここの方が安全だ。ここにはとある魔法陣が仕掛けられていて、並大抵の魔獣は近寄れないのだから。
ふとそこでオレはもう一人の兄弟──異母弟・ハルコスのことを思い出す。……たしか今日は自室で寝込んでいたはずだ。
「ハルコスの方には誰かいるのですか?」
「あぁ、通りすがりに腕が立つ騎士を五人置いてきた。
私の直属の部下だ。あいつらなら問題ないだろう」
さすがレド兄上、そこまで手配済みとは……。
「アイゼン、レド、ミーカ」
上座の方からオレたちに声がかかる。──声の主は、王の隣にいるアルジャン兄上だ。
アルジャン兄上は、台座から広間に降りてツカツカとオレたちの方に歩いてくる。それを見たレド兄上とオレは騎士の略礼をとり、ミーカ姉上もオレたちの近くに来て淑女の礼をとった。
「ここは我らに任せよ。……お前たちは、並みの騎士よりも強い。
魔法の使用も許可するゆえ、至急魔獣退治に向かってくれ」
……王太子殿下の言葉は、国王の次に強制力が強い。
この台詞は、一見すると有無を言わせず魔獣退治を行かせようとしているようにも聞こえるが、アルジャン兄上が「向かってくれ」と言ったのは、これが王太子としての命令ではなく兄上からの頼みであることを示していた。言葉が固いから分かりにくいけど。
オレたちを臣下として扱う──これもアルジャン兄上の方針のひとつで、王太子が自身の兄弟を特別に扱っているという噂が流れないためであるらしい。つまり、王太子は身内贔屓する人ではないというアピールだ。
……本当は子ども好きなだけなんだけどなぁ。アルジャン兄上は。
何はともあれ、アルジャン兄上からの滅多にない“頼み”とあらば聞かないわけにもいかない。
「了解です(わ)!」
オレたちはアルジャン兄上にもう一度礼をすると、夜会会場から走って出ていく。
その瞬間、背後に光を感じた──アルジャン兄上が結界魔法陣を発動させたようだ。
「アイゼン、ミーカ!お前たちは庭の方に行け!」
「レド兄様は、どちらに?」
「私は騎士団員と共に招待客の誘導と護衛をする!
庭の方は今部下に先行させて人を払ってあるから、大型魔法を使ってもかまわんぞ!!」
「了解!」
「分かりましたわ!」
王宮のエントランスで別れると、オレとミーカ姉上は庭の方へ、レド兄上は騎士団の基地の方へと走り出す。
レド兄上のこの人選にも理由がある。
オレとミーカ姉上は、魔法は得意だが繊細なコントロールは苦手だ。周りに人がいると巻き込む可能性がある。特にミーカ姉上の得意魔法は爆破系だ。危ないことこの上ない。
一方レド兄上は騎士をしているからか、人を守りながらの魔法の使い方に長けている。集団戦では指揮も上手いし、少しながら治癒系魔法も使えるらしい。
だから、こう別れるのが一番効率がいいのだ。
ちなみに何故アルジャン兄上がオレたちを指名したかというと、あの場で魔獣とまともに戦えるのは王族だけだった上、シュタール兄上とアハティス姉上は体力的問題で戦闘に向かないからだ。
シュタール兄上は文官だし、アハティス姉上は(一応)普通の貴族令嬢なのだ。
……それと、アルジャン兄上も戦闘系魔法より、支援魔法の方が得意だ。結界維持には欠かせない。
庭の出入口の方に走っていると、渡り廊下に出た。オレはそこで一つ思い出した。
「ミーカ姉上っ!ここから出た方が早いです!」
「どこです!?……って、そこ窓じゃないの!」
オレが示したのはオレの頭三つ分高いところにある窓だ。少々高いがそこから行けば一気に庭の端に出られる。
「どーせ非常事態です!誰も怒りません!」
オレが勢い良くミーカ姉上に迫ると、姉上は一瞬困ったような表情になった。
「(た、高い……!でも、せっかくのかわいい弟からの提案だわ、行くのよ私!)
……えぇ、分かったわっ!」
何とか姉を説得すると、オレは嵌め殺しの窓を魔法で破り(後で弁償する)そこから飛び降りた。
降りた先にあるのは生け垣。
さすがにこの上に降りると、庭師が卒倒する(結構な爺さんだし、心臓が止まるかもな)ので魔法で少しずれたところに着地する。
後ろでミーカ姉上も同じように着地する。……この姉も同じことを思ったのだろうなぁ。オレたち、思考が似てるし。
そして、再び走り出すとだんだんと魔獣の声らしきものが近くなってきた。
「そろそろね……」
ミーカ姉上がそう言ってぐっと息を飲んだ。
実は戦闘は初めてではないのだが、やはり直前には緊張するものだ。
ついにオレたちが庭の広場に出ると、そこには──。
「あぁ、さいっあくだ!明日は庭師が寝込むぜ!」
見るも無惨になった花園と、血走った目をした黒い獣たちが暴れる姿があった。本気で頭を抱えたくなる。
──ゴーンッゴゴーンッ
そのときオレたちの背後に響いた鐘の音は、午前0時を告げる鐘。……つまりオレの十五歳の誕生日の終わりを知らせるものだった。
誰かが叫んだ“魔獣”の言葉に皆、我先にと主催会場を飛び出していく。中には男女問わず気絶する者もいた。
オレの目の前にいた【森の女神】(結局名前が分からんかったな……)も、サァッと青褪めるとその場で腰を抜かしてしまった。
「アイゼンッ!」
鋭い呼び声に振り返ると、いつのまにかオレの剣を持ち出したレド兄上がこちらに向かってきていた。よく見ると、レド兄上はすでに腰のサーベルを抜いている。
レド兄上は、王家に身を置きながら二十三歳という若さですでに副騎士団長を務めるほどの実力者だ。
しかも入団当初は身分を隠していたため権力によるものではなく、純粋な叩き上げなのだ。
そんなレド兄上が、戦闘においてあんなに切羽詰まった声をあげるなんて……一体どれ程の相手なのだろうか?
「レド兄上、状況は?」
「……あぁ、最悪だ!
招待客共が逃げた先で道を塞ぐから上手く動けない。ついでにあちこちで声を上げるから、魔獣が分散してやりにくいことこの上ない!!」
レド兄上は顔を歪めて憎々しげにチッと舌打ちした。
どうやら苦戦している相手は魔獣より貴族たちのようだった。
そもそも魔獣とは、自然にいる獣が何らかの事情で後天的に魔力を得ることで発生する。
ほとんど場合、獣たちはその身に魔力が馴染まず暴走するのだ。運良く暴走しなかったものは、やがて相応の加護を得て聖獣となる。
ちなみに人間は先天的に大なり小なりの魔力を持っているため、魔獣化は起こらない。……聖獣化は極々稀に起こるらしいが。
会場を見渡すと、人がほとんどいなくなっている。今いるのはオレたち王族と気絶してしまった者たち、そしてそれを介抱する者たちだけだった。
ぶっちゃけ逃げるよりここの方が安全だ。ここにはとある魔法陣が仕掛けられていて、並大抵の魔獣は近寄れないのだから。
ふとそこでオレはもう一人の兄弟──異母弟・ハルコスのことを思い出す。……たしか今日は自室で寝込んでいたはずだ。
「ハルコスの方には誰かいるのですか?」
「あぁ、通りすがりに腕が立つ騎士を五人置いてきた。
私の直属の部下だ。あいつらなら問題ないだろう」
さすがレド兄上、そこまで手配済みとは……。
「アイゼン、レド、ミーカ」
上座の方からオレたちに声がかかる。──声の主は、王の隣にいるアルジャン兄上だ。
アルジャン兄上は、台座から広間に降りてツカツカとオレたちの方に歩いてくる。それを見たレド兄上とオレは騎士の略礼をとり、ミーカ姉上もオレたちの近くに来て淑女の礼をとった。
「ここは我らに任せよ。……お前たちは、並みの騎士よりも強い。
魔法の使用も許可するゆえ、至急魔獣退治に向かってくれ」
……王太子殿下の言葉は、国王の次に強制力が強い。
この台詞は、一見すると有無を言わせず魔獣退治を行かせようとしているようにも聞こえるが、アルジャン兄上が「向かってくれ」と言ったのは、これが王太子としての命令ではなく兄上からの頼みであることを示していた。言葉が固いから分かりにくいけど。
オレたちを臣下として扱う──これもアルジャン兄上の方針のひとつで、王太子が自身の兄弟を特別に扱っているという噂が流れないためであるらしい。つまり、王太子は身内贔屓する人ではないというアピールだ。
……本当は子ども好きなだけなんだけどなぁ。アルジャン兄上は。
何はともあれ、アルジャン兄上からの滅多にない“頼み”とあらば聞かないわけにもいかない。
「了解です(わ)!」
オレたちはアルジャン兄上にもう一度礼をすると、夜会会場から走って出ていく。
その瞬間、背後に光を感じた──アルジャン兄上が結界魔法陣を発動させたようだ。
「アイゼン、ミーカ!お前たちは庭の方に行け!」
「レド兄様は、どちらに?」
「私は騎士団員と共に招待客の誘導と護衛をする!
庭の方は今部下に先行させて人を払ってあるから、大型魔法を使ってもかまわんぞ!!」
「了解!」
「分かりましたわ!」
王宮のエントランスで別れると、オレとミーカ姉上は庭の方へ、レド兄上は騎士団の基地の方へと走り出す。
レド兄上のこの人選にも理由がある。
オレとミーカ姉上は、魔法は得意だが繊細なコントロールは苦手だ。周りに人がいると巻き込む可能性がある。特にミーカ姉上の得意魔法は爆破系だ。危ないことこの上ない。
一方レド兄上は騎士をしているからか、人を守りながらの魔法の使い方に長けている。集団戦では指揮も上手いし、少しながら治癒系魔法も使えるらしい。
だから、こう別れるのが一番効率がいいのだ。
ちなみに何故アルジャン兄上がオレたちを指名したかというと、あの場で魔獣とまともに戦えるのは王族だけだった上、シュタール兄上とアハティス姉上は体力的問題で戦闘に向かないからだ。
シュタール兄上は文官だし、アハティス姉上は(一応)普通の貴族令嬢なのだ。
……それと、アルジャン兄上も戦闘系魔法より、支援魔法の方が得意だ。結界維持には欠かせない。
庭の出入口の方に走っていると、渡り廊下に出た。オレはそこで一つ思い出した。
「ミーカ姉上っ!ここから出た方が早いです!」
「どこです!?……って、そこ窓じゃないの!」
オレが示したのはオレの頭三つ分高いところにある窓だ。少々高いがそこから行けば一気に庭の端に出られる。
「どーせ非常事態です!誰も怒りません!」
オレが勢い良くミーカ姉上に迫ると、姉上は一瞬困ったような表情になった。
「(た、高い……!でも、せっかくのかわいい弟からの提案だわ、行くのよ私!)
……えぇ、分かったわっ!」
何とか姉を説得すると、オレは嵌め殺しの窓を魔法で破り(後で弁償する)そこから飛び降りた。
降りた先にあるのは生け垣。
さすがにこの上に降りると、庭師が卒倒する(結構な爺さんだし、心臓が止まるかもな)ので魔法で少しずれたところに着地する。
後ろでミーカ姉上も同じように着地する。……この姉も同じことを思ったのだろうなぁ。オレたち、思考が似てるし。
そして、再び走り出すとだんだんと魔獣の声らしきものが近くなってきた。
「そろそろね……」
ミーカ姉上がそう言ってぐっと息を飲んだ。
実は戦闘は初めてではないのだが、やはり直前には緊張するものだ。
ついにオレたちが庭の広場に出ると、そこには──。
「あぁ、さいっあくだ!明日は庭師が寝込むぜ!」
見るも無惨になった花園と、血走った目をした黒い獣たちが暴れる姿があった。本気で頭を抱えたくなる。
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